4 次の仕事へ

 いつものツナギ姿に着替え髪を束ね直していると、同僚の黒澤が深夜業務から戻ってきた。ガレージの扉が錆び付いた音をさせながら開くと、小柄な男が姿を現す。黒髪で丸くて大きな目が特徴の同僚は、眠そうに目をこすりながらガレージ内のソファへ身を委ねた。高見がソーダを飲むか尋ねると、彼は「飲みたい」と言って目を閉じた。


「どうでした? 久々の深夜業務は」 

 高見はソーダのボトルを手渡しながら訊いた。自分も向かいのソファに腰掛ける。

「最悪」

 黒澤はそれだけを言って、ボトルの蓋をひねった。炭酸の抜ける軽い音がする。一口含んでゴクリと飲み込んだ。大きな目を一度見開く。彼は続けた。深夜業務に対するグチは、特にないらしい。


「新しい案件について通知来てたけど、内容は?」

「こんなやつです。夕方からいけそうですか? まだどこにも受注されずに残ってます」

 高見はそう言って、午前中に目星をつけた案件をモニタに展開させた。黒澤は瞼をこすってそれを凝視した。


 依頼内容:物資の回収作業

 ポイント:廃棄場付近

 注意点:違法オートマタ発生の恐れあり

 期限:1日以内


「違法オートマタ発生の恐れあり……って、廃棄場付近なら出てくるに決まってるじゃないか」

 白々しい内容だなぁ、と黒澤は嘆息まじりに苦言を漏らしたが、「いけるよ」と続けた。内容が不満なわけではないようだ。高見にはわかっていたが。


「仮眠する。あとシャワー借りるよ」

「了解です。そしたら受注しますね。夕方から出ましょう。車で行って片道1時間半くらいですかね」

「だな。廃棄場っていったら、それくらいかかるか」

「着く頃には夜ですけど、いいですか?」

「いいよ。暗い方が、違法オートマタが出ても回避しやすいだろう。高見さんはポイントに行って回収できるのか? 回収品の大きさは?」

「私のバックパックに入るくらいのサイズです。問題ないですよ」

「よし。じゃあ、夕方出て、ちゃちゃっと済ませてちゃちゃっと戻ろう」


 黒澤はそう言ってもう一度炭酸を口に含んだ。高見の返事を聞いてから席を立ち、シャワーを浴びて仮眠をとった。


 目的地の”廃棄場”で、とんでもない奴に遭遇することなど知らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る