3 デザイナーベイビー
案件をブックマークにいれておく。明らかに不人気なオコボレ仕事だ。すぐに受注しなくても消えることはないだろう。黒澤が戻ってから相談しようと、高見はモニタの前から移動した。そろそろツナギに着替えようとガレージ内の階段を上がろうとしたところ、2Fの部屋からエルリが顔をだした。声をかける。
「おはよう」
「おはようございます、佳奈さん」エルリはそう言って、寝癖のついたブルネットの髪を梳かしながら階段を降りてくる。あくびをかみ殺してダイニングまでやってきた。
「オムレツあるから顔洗ってきなよ。今日は買い出しお願いしてイイ? 他のタスクはいつも通り端末に共有してあるから」
「了解です。なにかいい案件、ありました?」
エルリが訊くと、高見は顔をしかめて首を横に振った。
「それが条件に見合ったのが全然ないんだよね~。でも案件洗い出しありがと。1件いけそうなのがあったから、午後から出るかも」
「わかりました。何かあったら連絡ください」
「うん。じゃ、着替えてくるよ」
高見はそう言って、エルリと入れ違いで2Fへ上がった。
エルリは、簡単に言えば居候だ。違法オートマタを製造していた笠原工業を止めたのがガレージで、もしその影響を受けているとすれば間違いなくエルリたち”デザイナーベイビー”と呼ばれる生体素材だろう。
生体素材といっても、中身はほぼ人間である。彼らは笠原工業が軍需産業に事業を広げようとした計画によって生み出された存在だ。結果的にそれは失敗したが、彼女らデザイナーベイビーには”特色”と呼ばれる機能が付随されていた。”データ転送”、”先読み”などがあるが、エルリの場合は”ソナー”と呼ばれていたらしく、有り体に言えば”人捜し”に特化した特色だった。
一時はその特色を見誤った笠原工業から放り出され、遠方の観光都市であるテグストル・パールクで双子の妹と共に過ごしていたのだが、特色が再確認されると笠原工業に追われる立場になった。結果的にそれを保護した状態が今だ。
しかし彼女の妹であるレルラは笠原工業の秘書と共に姿をくらました。エルリはそれを追うべく(生活のためもあるが)、ソナーの特色を活かして仕事をさせてくれないかと高見に頼んだのだ。
高見は承諾した。単純に、デザイナーベイビーと仕事をするのが面白そうだったからだ。
実際、過去に仕事をしたアタッカーの男もデザイナーベイビーだった。彼は”先読み”の特色を活かして、違法オートマタ相手に上手く立ち回っていた。高見はそれを見るのが好きだった。
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