第29話 エピローグ 土下座・変わらぬ日々
後日談として、当日見ることができなかった大勢の人の熱狂的リクエストに答えて、あろうことか勇者の墓所で再演することになった。
オール女子生徒の舞台は「尊い」と大評判になった。関係者特権としてエトワール公は全公演を特等席で見ていた。
「魔王の子」の続編が発売された。
魔王の娘が各地を旅をし各地で出会う少女たちを助け、ついでに耽美な雰囲気の中あんなことやこんなことをする話だ。
――嫌なことに売れている。シリーズ化され、続巻が次々と出ている。
「インスピレーションが止まらなかったんだ」とわたしに土下座をしながらエトワール公は答えた。二度目の寸分たがわぬ土下座は、形が先行し心が伴っていないように見えた。75点。
この続編を勇者と魔王が読んだとき、二人はわたしを見て「色々な人間がいてもいい」「自由に生きていいのよ。わたしも色々経験してるし」と爽やかな笑顔で言った。何を言っているんだこいつらは。
そして、魔王と勇者はというと。
――少なくとも魔王は大して変わっていないような気がする。
いつもの調子で草むしりをしたり、事務仕事を手伝ったりする。
たまーに世界地図の魔族の林立する国々あたりをじっと見て「もう統一しちゃおうかな」とか言っている。その度に書類仕事中のお父さんから「まだそんな時期ではないでしょ」と窘められている。勇者はそのやりとりと見てニヤニヤしている。
変わったことといえば、
魔王エミリカは日に一度わたしに「お母さん」と呼ぶことを強要するようになった。
その度にわたしとぎゅっと抱きしめてくれる。
勇者はたまに封印されている王宮から抜け出して自分の墓所に来たりしている。
魔王と一緒に草むしりをしていることが多い。
エミリカお母さんと違って、勇者は自分を「お父さん」と呼ぶことは強要ししない。
ある時、魔王にせがまれて勇者を「お父さん」と呼んだら人間離れした表情で照れていた。勇者ってスゴいと思った。
封印が解除された後、エトワール公の指示のもと魔族の国へ行くことが多いそうだ。
よくお土産として魔族の国の甘味菓子を買ってくる。
◇◆◇
そして学校の休みの日の朝。
わたしはいつも通り勇者の墓所の受付をやっている。
隣でシャカシャカとシェイカーをふるオルジお坊がちょっと気になる。
公園には公演用テントや屋台がその準備をしている。
法王騎士団がリラックスした様子で見回りをしている。
いつものおじさんやおばさんがやってくる。
オリジお坊が「実は人間の身にやつした魔族がけっこう来ていてのう」とか呟いたものだからわたしはお客さんの顔をじっと見る癖がついてしまった。
さて入り口から新たなお客さんが入ってくる。
子供を一人連れた若い夫婦だった。夫人のほうの手には「魔王の子」舞台公演のパンフレットがある。
いつも通りわたしはお客さんを迎える。
「ようこそ。勇者の墓所へ。
――無料パンプレットはこちらになっております」
あたしは勇者のお墓のアルバイト。
アットホームな職場です。
たまに魔王と勇者がやってきて、
草むしりなどしています。
みんな、あたしの大好きな人たちです。
終わり
あたしは勇者のお墓のアルバイト。アットホームな職場です。たまに魔王が来ます。 @imagijoe
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