第18話 勇者の隠し子

「ああ……、ねぇあなた。

 わたしが昔助けられたときも、エミリカさんあんな感じだったのよ。

 もう格好良くて、格好良くって……エレンちゃんも見た?

 カッコイイでしょ、魔王様」


 お母さんは何やら興奮気味だ。

 お父さんの服をぐいぐいと引っ張りながら顔を高揚させていた。


 いいのか?仮にも法王騎士が魔王をカッコイイだなんて。


「オレもその場にいて、アンタを一緒に助けたんだか……」


 ちょっと勇者は不満げだ。


「あの出会いがなかったら、

 わたしは法王騎士にならずに今も大人しい領主の娘として過ごしていたでしょう……」



 お母さん、遠い目をしている。

 勇者は無視された。


「いや……友達を助けに魔王軍の陣地に突っ込んでいく根性は十分騎士の素質があると思うのじゃが」


 オルジお坊は緊張で強ばっていた身体をほぐしながらそう言った。


 お母さん、聞いちゃいない。


「それよりもぉー」


 魔王エミリカはくるりとわたしの方に身体を向けると、上機嫌でにっこにっこの笑顔を見せた。


「わたしの活躍見たぁ?


 ね、ね、スゴイでしょ。わたしスゴイでしょ?」


 そのままズイズイと笑顔のまま詰め寄ってくる魔王。


「うん、すごかった……、

 ちょちょっと、叔母さん近いって近いって」


 わたしが後ろにさがろうとすると、その分だけ距離を縮めてくる。


「カッコ良かったぁ?」


 笑顔で顔がはち切れんばかりの叔母さん。


「う、うん……、格好良かったぁ……うわわわっ」


 たまらずわたしが再び後退すると、何かが足に引っかかった。



「あっ」



 勇者が慌てて近寄ってきたが間に合わず、そのまま視線と手は宙を彷徨い……わたしは派手に尻餅をついてしまった。



《ぱんぱかぱーん♪

 おめでとうございます。

 あなたは正式に勇者の子供であることが確認されました。

 ただ今担当者を呼び出していますのでしばらくお待ちください。

 ぱんぱかぱーん♪》




 ……は?



 同じメッセージが室内に何度も繰り返される。


 結界が解けて室内になだれ込んだ法王騎士と王宮騎士は、その足を止めて今度は何事が起きたのかと、周囲を確認している。お母さんとお父さんは「あちゃー」という表情をしたまま固まっている。


 ぱんぱかぱーん♪と、ホールにメッセージが繰り返し流れている。


 わたしは自分を転ばせたものを恐る恐る確認した。


 ――それは「女神の判定台」に備えつけられていた水晶球だった。



 ×勇者の子供はどこかで幸せに暮らしているようです。

 ○勇者の子供はここでそれなりに幸せに暮らしています。



 ……えっ、えっ、えええええええええっ!



「ね、ねぇ……お母さん。

 わたしの生みの親って……?」



 床に座り込んだまま混乱しているわたしは、

 縋るように母親に問いかけた。



 お父さんとお母さんは互いに一瞬顔を見合わせると頷きあい、二人は優しい笑顔ですっと手で指ししめす。


 ……正直、女神の判定台のメッセージが出たとき何となく予感はしていた。


 二人が指し示した先には恥ずかしそうに笑う勇者と同じくえへへっと照れながら勇者と手を恋人つなぎしているエミリカ叔母さんの姿があった。



 ――あ。もうだめだ。



 混乱が混乱を呼びわたしの脳みそはパンクした。



 ……ああ、ホールの天井って結構凝った作りになっているんだなぁ。



 そう思いながらわたしは床に倒れ込んでしまった。

 気絶したかった。



 でもわたしは案外丈夫だった。

 だってわたし半分魔人なんだから……。

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