第10話 法王騎士団は娘のファッションにも全力です
「……エレン、いる?」
白色地に紅色をアクセントにいれたライトアーマーを着た短髪妙齢の女性が、事務所でぼけっとしていたわたしに声をかけた。このデザインは法王騎士団所属の騎士であることを示す。
「お母さん」
そして今ドアから中にスタスタとブーツの音を立てることなく入ってくる騎士様はわたしの母親でもある。イケメン男優の舞台が見れずぴーぴー泣いていた小娘が十年と幾ばくか経てばこんな凛々しくなってしまうのだ。確か階級は小隊長だったはず。
「あなたも用意しなさい。
……そーね、卒業式の時に買ってあげたドレスあるでしょ? あれでいいわ」
「はぁ?」
なに言ってるの? 重要人物が来たときはわたしは事務所で待機がいつもじゃない? と言い返そうとしたが、お母さんはそのままツカツカとわたしとの距離を縮めると、がしっと両肩に手を置いた。
「今日は特別なの」
「ひっ……!」
お母さん、こんな威圧感溢れる笑顔をすることができるんだ……。
「ちょっとー、エレンがすっかり怖がってるじゃない」
何が何だか分らずにお母さんの迫力の前に取りあえずコクコクと頷いていると、苦笑したエミリカ叔母さんが腕組みをしたまま事務所の中に入ってくる。
その身は豪奢な黒のドレスで包まれており、さらに髪型も細かく結い上げられて片側に小さな白い花が二房添えられていた。白い肌の上にぷっくりと突き出た小さな唇には真っ赤な口紅が添えられてた。
気合いが入っているな、と思った。
「だって……エミリカさん、今日は大事な日でしょ?
エレンもちゃんと参加させないと……」
ちょっと困り顔でお母さんはエミリカ叔母さんに答える。
それを聞いてエミリカ叔母さんもちょっと視線を外して、なにか遠くを見るような目をしたままで、黒色のタイツ下の黒色のハイヒールのつま先で床をトントンと叩いた。これは叔母さんが何かを考えているときの癖だ。
「確かに魔王がここを訪ねてくるなんて……初めてだしね」
確かに勇者の墓所への訪問客としては魔王はレアキャラだ。
「よーし、叔母さんが気合いを入れてエレンちゃんを綺麗にしてあげるっ!」
今までに無い生き生きとしたエミリカ叔母さんの目つきに、わたしは先ほどとは別の意味で震え上がった。エミリカ叔母さんは何事にも容赦がないのだ。
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