第3話 女神の判定台

 「『女神の判定台』が3つ? そんなにいるかね?」


 お父さんは管理事務所の奥の机に座り、何やら複数の会計簿を広げていた。


「お坊さんがそう言っていたよ」


 わたしはその机に両手をついて体重をかけていた。


「あー……、この天気だもんなぁ。

 わかった、エミリカと自分でやるか」


 お父さんは窓の外のぎらつく風景を見ている。


「叔母さん今日いるの?」


 エミリカとは父の年の離れた妹である。

 たぶん自分より五、六歳上ぐらいだったはずだ。


「いるぞ。今草刈でもしているんじゃないかな」


 ちなみにエミリカ叔母さんもこの勇者の墓所で働いている。


「エレンは受付に戻れ。

 あと、オリジさんには果実酒以外も準備しておくように伝えてくれ」


「えー。 お坊さん果実酒以外は売る気せん、と言っていたよ」


「そりゃお酒のほうが教会の儲けは多いからな。

 ……子供が庶民公園で酔うといろいろ危なくて、衛視に小言を言われるのは所長の俺なんだぞ。

 子供に売るのは砂糖水、いいな」


「お坊さんが子供のころは哺乳瓶の代わりに酒瓶を咥えていたって……」


「昔と今は違うのさ。

 勇者も魔王もいなくなったしな。

 頼んだぞ、エレン」


 そう言ってお父さんは立ち上がる。

 この話はもうおしまい、あとは任せたという訳だ。


 わたしは唇を尖らせながら、一応言ってみるけど……と呟いた。

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