第8話 お父さん、話をそらす

 わたしがものごころ付いた時からからこの一大エンターティメント会場と化した公園と墓所があった。

 そんなわたしも成長し、男と女がどんなことをすれば子供が生まれるかを知ったあと、隙をみて勇者の隠し子のことをお父さんに聞くようになった。


 勇者の隠し子って、本当にいるの?


 とある意味ストレートな聞き方で。



 それを聞いた時、管理所で休憩を取っていたお父さんの顔は一瞬ひきつったかと思うと、天を仰ぎぶつぶつと何かを唱えて、ひぃーっふひぃーっふと呼吸を整えたあと、こほんと咳をしてわたしの方を見た。

 そして穏やかな笑みを浮かべると、しばらくわたしの方をじっと見て、そばにあったお茶が注がれたカップを波音をちゃぷちゃぷと立てながら飲み、盛大にむせた。


「……ギル兄は子供が困るようなことは絶対にしない」


 ひと通り咳き込んだ後、お父さんはそう言い切った。


「たとえ不慮なことが起きたとしても、子供が、その母親が不幸になるようなことないよう考える人だ。

 ――初めて話すかもしれんが、お父さんの兄弟姉妹は実はみんな母親が違う。父親がそういう人間だった。

 兄は兄弟姉妹が孤立しないよう、みんなが幸せになるために、ずっと頑張ってきた。まわりに理不尽な不幸があることに対して、常に反発をしてきた人だ。

 その反発は全部成功したわけじゃないが、――現に『勇者』なんていいうものにさせられてしまった――心はけっして折れることはなかった。

 自分は兄を信じている、それだけだ」


 わたしは思った。


 ……お父さん、話をそらせた。


 お父さんもおそらく、どこかに勇者の「隠し子」がいると思っているのだろう。


 でもその「隠し子」が不幸になるようなことは絶対にない。なぜなら勇者の子供だからだ。と確信している。


 そこまでの信頼を得ている勇者ってスゴイ人だったんだろうな、と思ってこの話はそれ以上しなかった。


 いつのまにか管理事務所にいたエミリカ叔母さんがニヤニヤしながらお父さんを見ていた。

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