第7話 坊主マーケテングの時代
「女神の判定台」が設置された後、勇者の隠し子と認められた子供は現れなかった。
自信満々に子供を連れてきた大人たちが、子供がその「女神の判定台」に触れて即座に隠し子であることを否定された後(水晶の中に女神らしき影が現れて「この度は残念でした。あなたの幸福をお祈り申し上げます」と告げられる)、意気消沈する姿は見慣れたものになった。
中にはその怒りを子供にぶつける大人もいた。その結果が納得ができず、「女神の判定台」を作成した教会に貴族やら有力者をあつめて強く抗議する者も現れた。
教会側も念のためにその子供の父親を法術と人手を使って調べたが、いずれも勇者が父親ではないことが判明した。
最初はこういう実利的な調べ物のために「女神の判定台」は使われてきたが、これを別な目的で使う者が現れるようになった。
年齢的にどう考えても勇者よりも年上の男性や女性が「勇者の隠し子」を名乗り、「女神の判定台」にてチェックを受けたのである。結果は当然否定。だけどその否定されたことが彼らや彼女らに非常に満足を与えているようだった。
こんな不可思議な利用が続いた後、オリジお坊さんたちは何故「女神の判定台」を使うのかとその不思議な利用者達に尋ねてみた。坊主もマーケテングの時代であった。
判明したことは、どうも「女神の判定台」に触れて神言を得ることが一種のステータスになっているようだった。神言の内容ではなく、神言を受けること自体が喜びとなってしまったのである。
これにオリジお坊さんを始めとする教会の小遣い稼ぎ大好きな聖職者たちの興味を引いた。
「女神の判定台」に勇者の隠し子判定機能の他に、運勢占いなどの遊戯的機能を付け加え始めたのだ。これが大当たりした。
いままで勇者の墓所を公園の外からしか見てこなかった人々が大量に墓所に押しかけたのだった。人が集まれば、果実酒や護符や説話集などの教会の販売物が売れる。
聖職者たちは気合いが入った。
教会を飛び出したある神官は、庶民公園の開いているスペースを借りて説法を始めた。その神官は本当はコメディアンになりたかったが、チャンスがつかめずに泣く泣く神官になった者だった。その人を引きつける説法によりたちまち彼は人気者なり、ここに説法者ブームが始まったのだ。
聴衆を圧倒する説法者が現れる一方で、その説法内容の矛盾を聴衆から突っ込まれタジタジになるリアクション芸を売りにする説法者も現れ出た。
人気のある説法者は大きな教会を借り切り独演会を開くまでになった。
人が集まればその場で利益を得ようとする人も集まってくる。
庶民公園には屋台が建ち並び、空いたスペースには芸人達がショーを繰り広げる。
公園の未整地場所に大きなテントが張られ、旅劇団が勇者のロマンスを舞台上演する。人気のある若手アイドル女優がやってきた時はテントの外にまで人が溢れるようになる。
その女優がオリジ坊さんの知り合いだったりするわけだから世の中は狭い。「あれ?あいつ俺よりも年上だったはずだが……」との老僧侶の呟きは聞かなかったことにしている。
勇者の墓所であった庶民公園が、いつのまにかちょっとしたエンターティメント会場になったのだ。
ある日、イケメン俳優が客演する舞台にて倒れた少女を介抱したお父さんは、劇を見れなかったことでぐしぐしと泣いている少女をずっと慰めていた。
その少女がわたしの母親である。
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