第21話 そしておっぱい

 ギルディアンが助かったのは敵兵が放った大規模殲滅魔法を隣の童貞神官がとっさに対抗魔法を放ち防いでくれたのだ。だが対抗できたのは神官の周りだけで、それより外は押し負けてしまった。

 ギルディアンと神官はたまたま与太話をするために近づいていたことでこの生き残るという幸運を得られた。攻撃を受ける直前の神官との会話は、色街についてアレコレだった。神官にしては煩悩が多くそれを上品に取り繕ったりしないこの新入をギルディアンは気に入っていた。


 そして今二人は唯一の生き残りとして魔族兵に囲まれていた。

 殺気立っている無数の眼の中、絶体絶命、拾った命はぼろぼろと崩れ落ちようとしていた。


「その人間、わたしが貰い受けよう」


 蒼白になりながらも剣からは手をはなさいギルディアンと、小声で呪文を詠唱していた神官の前に、一人の女性魔族が進み出た。長い髪とすらりとした身体そしてどこか人を見下したような切れ長の瞳、そしておっぱい。



「……でかいな」


「ああ」


 進み出た魔族の女性の足が止まった。



「そこの神官。拾った命を捨てたいのか?」


「えっ? なんで僕だけ」



 神官の抗議を無視して女魔人はギルディアンの前に立った。


「名前は?」


「……ギルディアン。しがない一兵士だ」


「そうは思わんがな。あの混戦の中、神官をよく護った」


「まぁ、友人だからな」


「《烈風》エドワール公のご子息だろう。あの司令官と違って代わりはいない」


「おいおい、それ以前に友人だ。こいつはまだ戦争になれていない。

 ……この時代の『希望』に化けるかもしれんぜ、こいつは。」


 ギルディアンの返答に女魔人は腕を組み、指先を顎に当てしばらく何かを考えていた。


「ギル。お前は戦争に慣れたのか? 『希望』になるつもりはないのか」


「いきなり略称かよ。……まぁ、兵を殺し殺され、街が壊され壊し、子供が殺され……殺し、心が壊され、なんか全部慣れちまった。正直、うんざりしている。

 でも変える術を持ってねぇ。『希望』になるには手遅れなんだよ」


「救いに死を求めているタイプか?」


「いっや、生きたい。ここで死ぬわけにはいかないんだ、いい加減な親父のせいでバラバラになりそうな家族をせっかくまとめたんだ……あいつら、まだ独り立ちできるほど大人になっちゃいねぇ。こんな戦争まみれの世界の中であいつらを生き残らせることが……俺の願いだ。

 俺みたいな庶民兵は死んだらな何も残らない。奪われ尽くされちまう。だから生き残りてぇ」


 そう答える間もギルディアンは剣から手を離さない。最後まで諦めない、これが彼の生き残り術の根本だった。


「戦争に慣れてしまったことはわたしも同じだ。

 うんざりしているのも同じだ。何もかも忘れ去りたいくらいにな。

 ……そうだな。ギル、付いてこい。ゆっくり話がしたい。

 あ、そこの神官もな」


 女魔族はくるりと背を向け、歩き出した。


「あんたの名前は?」


「エミリカ。

 今はこの砦の主を任されている。」


「偉いんだな」


「……一応王族だからな。

 よろしくな、ギル。ちょっと魔族の『お姫様』の戯れに付き合ってくれ」


 んで。


 次の日になるとギルディアンは素人童貞ではなくなっていた。

 ついでに魔族の上げ底ならぬ、上げ乳技術に涙した。エミリカはおっぱいはリーズナブルなものだった。



 神官は童貞のままだった。

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