第22話 素晴らしき悪巧み

「……それがパパとママの出会いだったんだ」



 わたしの感想を正直に言おう。


 ……聞きたくなかった。



「エレン、そんな顔しないでよねぇー。

 あのときママとパパとエトワール公が逢わないと、あの戦争を終わらなかったんだから、」


 エミリカ叔母――お母さんは、お父さんである勇者ギルディアンと同じソファに座っている。


 勇者が葬られていた――ことになっていたホールの中にソファを持ち込み、わたし、生みの父母である魔王エミリカと勇者ギルディアン、育ての父母、元神官とオルジお坊がそれぞれ別のソファに座っている。


 エトワール公とは現在の元神官さんの名前である。

 戦争の後、彼は父からエトワール家の当主を継いだ。今はエトワール家の別宅のある村の村長をしている。


「まぁ、寝室でギルとエミがナニをしながら何を話していたのかしらんが、

 朝飯を食べながら魔族と人間が手を合わせて戦争を止める――いや、世界を騙すと言い出したときは……マジ最高だったねぇ」


 ナチュラルに下ネタを混ぜてくるのはエトワールさんの癖なのだろうか。


「あのころはこんな奴じゃなかったんだが……。

 大体、こっちは半分冗談で言ったことが、お前が本気にして……ちょっと引いていたんだぞ」


「戦争なんて半分冗談で始まるようなもんだ、半分冗談で終わらせて何が悪い」


「懐かしいねー、神官さんは事あるごとにそう言っていたねー」


 エミリカさんはソファに片肘をつきながらうんうんと頷く。


「どでかいイベントを起こせば戦争終わるんじゃね?から始まって……


 どでかいイベントって何だろう?……大物同士の一騎打ちが分りやすくていいんじゃないってエミリカが言って……ああ『勇者と魔王の一騎打ち』とかいいなぁって俺が答えて……なんで俺、そんなこと言ったんだろう?」


「そりゃー、『夜の一騎打ち』をやっていた最中だからだろう」


 エトワールさんの卑猥なちゃちゃ入れ、わたしは顔が熱くなり両手で顔を覆った。ちょっと生々しく想像してしまったのだ。


 それを見てエミリカさんがソファの肘掛けをばんばんと叩く。


「もうー、神官。

 あんた昔はもっと純真真面目だったでしょー」


「二人につきあっていたらいつの間にか生臭い坊主になってしまいましてねぇ」


「よく言うよ。

 こいつさ、最後には俺よりも色街に詳しくなったんだぜ。

 何度もオルジに説教されてやんの。『人間の神官として恥ずかしくないのかっ』て」


「その話ユリシナにしたら吹き飛ばしますよ。フルパワーの魔法で」


「あれ? 結局結婚したんだ。

 『僕は貴族でユリシナは村の娘……身分が違いすぎて』ってよく嘆いていたじゃん」


「……子供ができちゃいましたし、その、それでいろいろと吹っ切れてね」


「神官さんらしい理由だね-。

 ほんと、腹をくくった時の神官さんは最強だからね-。初恋が実ってよかったじゃん」


「まぁー神官殿は、正直神官に向いているとは言い難かったからのう。聖典より色街の評判記を熱心に読む姿をみて、わしゃ魔族ながら情けなくて情けなくて……」


 いままで黙っていたオルジお坊が話に入ってくる。エトワール公は肩をすくめ、神官は別になりたくてなったわけじゃない、と呟く。

 たまたま他人よりも魔法が使えて何になりたいなんて意思を持っていなかったら、いつの間にか神学校に入れられてたんだよ。まぁ貴族にはよくある話さ。


「でも外を見たくなって父親に内緒で軍隊に入ったら、いきなり魔族の捕虜さ。……不運なのか幸運だったのか、どっちかな。今でもわからん」


「幸運に決まっておる。

 姫様と偉大なる計画に携われたのだぞ」


 オルジお坊は腕組みをしてふんと鼻息を鳴らした。


「半分冗談から始まった悪巧みが、

 偉大なる計画とはね……」


 エトワール公は背を丸めてくくくっと笑う。

 わたしは、そんな楽しそうに話す四人を見て呆れと、口元がにやけてくるような嬉しさが混じった感情に捕われていた。

 このくすぐったいような感覚はなんなのだろう。この四人は本当に互いに信頼してる。


 この四人はまさに世界を救った勇者とその仲間なんだと理解した。

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