第13話 立ち止まる魔王・襲撃
しゅなりしゅなりとロープがこすり合う音と共に魔王はゆっくりと前に進んだ。
わたしはその姿をずっと見上げて見ていた。
魔王は間近でみるとかなり大きい。これと戦った勇者はやはりスゴイ人だったのだろう。
「?」
しゅなり、しゅなりと一定のリズムを組んでいた音が不意に止んだ。
「……っ!」
魔王は立ち止まっていた。わたしの前で。
そして四角い箱に覆われた頭部をこちらに向けるとそのまま停止した。
目の無い四角い箱であっても、魔王がわたしを凝視していることが判った。
「……バカっ」
エミリカ叔母さんがそう呟くと、わたしの手を引いて一歩後ろに下がらせる。
騎士団の間に一瞬の戸惑いと、その後の強烈な緊張感が走る。槍を握る手に力が入っていた。
魔王の些細な行動に騎士団はどう動くべきか迷いが走った。
「……魔王殿、感慨深くホールの装飾に見入っていらっしゃるところ失礼でございますが、
勇者の像は向こうになっております」
お父さんは一歩前に進み出て、手を勇者像の方へ差し出して案内する。
ホールの真ん中に大きく勇者像が立っているいるので、わざわざ指し示さなくてもよいことだ。しかし、お父さんの行動が硬直しかけていた場の雰囲気を崩したのは確かだった。
魔王はエミリカ叔母さんの方を一瞥し、そしてお父さんとお母さんの方をちらりと見た後こくりと頷いた。
「……済まない」
初めて聞く魔王の声は想像以上に低かった。
そして顔を勇者像の前に向けて、そのまま静かに進み出す。
騎士団の団員達はほっと息を漏らした。
そのとき、
「覚悟っ!」
騎士団の列がちょっと乱れたように見えた後、その乱れの中から何かが飛び出した。
黒い尖ったものが風を切る。
強く手を引かれてわたしは転びそうになった。
エミリカ叔母のスカートが大きく広がる。
一瞬の沈黙。
飛び出したものは一人の王宮騎士団員。
黒く尖ったものはその手に握られた槍。
そしてその槍はまっすぐ魔王の方へ向けられていて、その槍の先は突き刺さっていた。――魔王を護るように盾のように展開された魔法陣に。
……え?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます