第12話 魔王、訪問
「エレン、ここにいなさい」
お父さんはホールに集まりつつある騎士団に目を配りつつ、自分の右横にいるようわたしに指示した。ちょうど入り口と勇者像の中間地点だ。
黒いドレスと多少整えられた髪に薄い化粧を施されたわたしがその位置につくと、その隣にぴたりとエミリカ叔母さんがついた。
いつになく叔母さんは無口で、その視線はお父さんと同様騎士団の配置に目を配っている。入り口近くにはオリジお坊が僧職の豪奢な儀式用正装を身につけ立っている。……そんな服持ってたんだ。
お母さんは入り口近くで自分の小隊の分隊長と隊員に対して指示を出している。お母さんと分隊長は話の折々に王宮騎士団の方に顔を向けて何かを確認している。
次々と王宮騎士団員がホールの中に入り、それぞれの所定の位置に付いていく。物々しい長槍を携えていた彼らはお父さん達の前にも立とうとしていたが、そこにお母さんがツカツカと歩み寄ると何か二言三言話す。王宮騎士は頷きもせずその場から離れた。
お母さんは、嫌ぁね、と呟きながらお父さんの左横にそのまま立った。済まない、とお父さんは返した。正装のままうろうろとしていたオリジお坊は結局エミリカ叔母の右隣に立った。
騎士団はホール内の入り口から勇者像のある所までを両側に三重の壁を作るように並んでいる。全てが王宮騎士団の鎧を着ている。法王騎士団はこのホールではお母さんの他数名しか見えない。残りはホールの外の警備に回っているのだろう。王宮騎士団の残りも同じようにしているに違いない。
そして全員がそれぞれの定位置に立ちしばらく経った後、ホール外の喧噪がどよめきに変わった。並ぶ騎士団の間に緊張感が走る。体勢を直した騎士の鎧が軋む音が一瞬鳴った。日常営業をしているこのテーマパークにいたお客さん達はこの突然の来訪者にどんな目を向けているのだろう。エミリカ叔母さんとお母さんは一瞬目を合わせて、表情を引き締める。
しゅなり、しゅなりという音と、それに合わせる複数の靴音が聞こえてきた。
「魔王が御参拝なさります」
通る声で白髪交じりの騎士――先ほどオルジお坊と話していた――が告げた。
気づいたらわたしの手のひらが少し汗ばんでいた。
先触れの騎士がホールの入り口を通り、その後にホール入り口にぶつかるほどの高さの巨大な人型が現れた。
頭は黒い箱にすっぽりと被されており、黒いマントの下は囚人服のような簡素な服で、その両手は正面でしっかりと拘束具で固定されており、全身にロープが巻き付けられておりおのおののロープの先を周囲の騎士がしっかりと握りしめていた。頭の黒い箱には細かく魔道文字が刻まれており、その服にも魔道文字がびっしりと書き込まれていた。封印の呪術文字だ。
見上げるほど巨大なそれを見てわたしは直感した。
――これが、魔王。
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