第28話 水族館
「うわー、すごい……」
「ねー」
目の前には、水槽という小さな海でゆうゆうと泳いでいるジンベイザメ。
小さな海とはいえ、ジンベイザメが泳いでいるんだから水槽の大きさは相当なもので、わたしの視界には収まりきらないくらいだ。
(本当にすごいな……)
今日は約束していたデートの日。わたしはお姉さんに誘われて、族館に来ていた。
まあデートって言えば、水族館は定番中の定番だよね。
水族館に来るのは小学生の修学旅行以来だと思う。
ずいぶん昔のことでそのときの記憶はあまりないし、その時に行った水族館にジンベイザメはいなかった気がする。
(こんなに大きいんだなあ……)
サメと言えば、人を襲うような危険なイメージがあるけど、ジンベイザメは性格が穏やかだと聞いたことがある。
それもあってか、顔もなんだか可愛い。
わたしは結構ジンベイザメのこと好きかもしれない。
「茉莉ちゃん可愛い」
「いやわたしじゃなくて、サメの方を見てくださいよ……」
そろそろ水族館に入って、二十分は経とうとしている。
いろいろと見て回っているのに、お姉さんはわたしの方ばかりを見ていて、一向に魚を見ようとしない。
「だってお魚よりも茉莉ちゃんの方が可愛いんだもん。茉莉ちゃんが可愛いのが悪いんだよ」
「なんですか、その暴論は……」
そりゃわたしだって可愛いと言われて、嬉しくないわけではないけど、ずっとこちらを見られるというのはすごく気まずい。
なんてことを直接言っても、お姉さんには効果がなかったわけだけど……
「はあ、次行きますよ」
わたしはお姉さんを前を歩いて、次のコーナーに向かった。
☆
「うわあ、すごいな……」
薄暗くて、前が見づらい。
ここは普通のコーナーとは少し違う深海魚コーナー。
深海魚なんて有名なリュウグウノツカイとかくらいしか知らないから、今日の中で一番楽しみにしていたコーナーだった。
(メンダコ……)
わたしがまず目に入ったのはメンダコという生き物だった。
赤くて小さくて、見た目は普通のタコと全然違う。
だけどここに書いてある説明によれば、足はちゃんと八本あるらしい。ただ、墨を吐くことはないみたいだ。
まあ確かに暗い深海で墨なんて吐く必要なもんね。
小さくて可愛いし、耳がピンっと伸びているところも可愛い。
まだ最初だけど、深海魚ってなんかちょっと顔の怖い生き物ばかりだと思っていた。実は案外そんなことないかもしれない。
「すごいね、茉莉ちゃん」
「はい」
お姉さんも今はわたしの方でなく、深海魚の方が気になっているみたいだ。
お姉さんの声からも、なんとなく興奮のようなものが伝わってきた。
ようやく水族館を楽しんでくれたみたいで、なによりだ。
「あ、茉莉ちゃん。見て見て」
お姉さんが指さした先にいたのは、ものすごく足の多い生き物だった。
銀色の殻のようなものに包まれていて、長い触角のようなものが伸びている。
簡単に言うなら、ダンゴムシにとてつもなく近い。大きなダンゴムシだ。
(ダイオウ……グソクムシ…… へえ……)
この生き物の名前はダイオウグソクムシというらしい。
なんかどこかで名前を聞いたことがあるような気がしなくもない。
どうやらダイオウグソクムシはダンゴムシの仲間みたいで、あながち間違いではないみたいだ。
でもダンゴムシと違って、体を丸めることはできないらしい。
それにとにかくものすごく顔がいかつい。さっきとメンダコとはまあまあ対照的だ。
(面白いな、深海魚……)
怖いとか可愛いとか以前に、面白い。
普通の魚とは全然生態が違うし、体も違う。
そりゃわたしたちの住んでいる地上から何千メートルも深い場所に住んでいるんだから当たり前かもしれないけど、すごく神秘的な感じがする。
それからもわたしたちはいろいろな深海魚を見て回った。
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