第33話 すぐ好きになれる
「ねえ茉莉ちゃん」
「はい?」
「結婚しよう」
「急に何言ってるんですか!?」
朝になって、ちゃっかりと朝ごはんを頂き、現在わたしはお姉さんに家まで送ってもらっている最中だ。
世ではこれを朝帰りと呼ぶのだろうか。
まあでも朝十時で朝帰りというのは少し遅すぎるか。
「わたしこの世で一番茉莉ちゃんのこと好きな自信あるから!」
「すごい自信ですね……」
確かにこんなにわたしのことを好きって言ってくれる人なんて他にいないだろうから、間違いとはいえない……かもしれない。
「はあ今すぐ結婚したい……」
「ほんと急にどうしたんですか……」
「だって結婚したら茉莉ちゃんとあんなことからこんなことまで全部できちゃうんだよ?」
「…………」
あんなことからこんなことまでがどこまでなのか知らないし、なんで急にそんなこと言い出したのかも知らないけど……
「別に結婚しなくてもできますよね?」
そもそも論、わたしたちの場合になると、法律が立ちはだかってるから結婚は無理なわけだけどね。
「え、結婚しなくてもしていいの!?」
「いや何をするつもりなのかは分かんないですけど…… 世間一般の人は結婚しなくても普通にいろいろとしてるんでしょ?」
その世間一般の人の声を直接でも間接でも聞いたことがないから全くの想像だけど。
そういうものなんじゃないの?
「じゃあ早く付き合おう! ね、茉莉ちゃん!」
「なんか目が怖いんですけど……」
お姉さんの目はぱっちりと開かれていて、真っ直ぐにわたしの目を見ていた。
こころなしか、いつもよりも黒目が大きいような気がする。
「でも意外だよ!」
「何がですか?」
「茉莉ちゃんってそういうところ、ちゃんとしたいのかと思ってた。勝手なイメージだけどね」
「全然そんなことないですよ?」
全然そんなことないって言うのもなんか違う気もするけど……
「わたしも茉莉ちゃんが好きだし、嫌がるようなことはできないなーって思ってたんだけど。付き合ったらしてもいいんだよね!?」
「まあ、たぶん……?」
「ほんと!?」
「だからたぶんです!」
わたしは興奮しているお姉さんを一旦落ち着かせた。
「……ふう。とにかくわたし茉莉ちゃんのことが好きだから。それだけは分かっててね」
「……はい」
「絶対にわたしが世界で一番茉莉ちゃんのこと好きだからね!」
(………………)
「ずっと一生好きだからね!」
(…………それって)
「……………………ほんとですか?」
「え?」
「それ本当ですか?」
「う、うん、ほんとだよ?」
「そう……ですか」
(………………………………)
「茉莉ちゃん?」
「……いいですよ」
「………え?」
「付き合ってもいいですよ」
「……………………へ!?」
「いや……」
「いや!?」
「付き合ってください」
「えええ!?」
「あははっ、なんでそんなに驚いてるんですか」
「いいの!?」
「はい」
付き合ってもいいですよはちょっと上から目線な気がしたから、訂正した。
特に昨日と今日で自分の心境が大きく変わったわけではない。
ただこっそりずっと考えていたことがある。
わたしがお姉さんと付き合って、好きになってしまったら、いつかお姉さんに愛想を尽かされる日がくるのではないか……と。
そんなことないように努力はできるけど、どうしてもそれが少し怖かった。
わたしは女の人と付き合う以前に、誰かと付き合ったことすらそもそもない。
それでお姉さんに「なんかこいつ思ってたのと違うな……」なんて思われてしまったらわたしは結構ショックを受けるかもしれない。
だからもうちょっとこのままでいたかった。
それがすごい心地よかったし、楽だった。
だけど、ずっとこのままなわけにもいかなかったのは事実。
それにさっきわたしのこと一生好きって言ったのをわたしの耳はちゃんと捉えた。
さすがに一生なんてそんなことないかもしれないけど、心の中にあった少しのモヤモヤが晴れた気分だった。
「ほ、ほんと!?」
「ほんとです」
「嘘じゃない!?」
「嘘じゃないです」
「ドッキリとかでも!?」
「違います」
「え、待って、ちょっと急すぎて……!」
お姉さんは明らかにテンパっていた。
お姉さんのことが完全に好き……というわけではまだないかもしれないけど、恋人になるということを意識すると、すぐに好きになれると思う。
わたしはお姉さんの手をギュッと握る。
「ま、茉莉ちゃん!?」
「いいですよね?」
「人前では恥ずかしいんじゃなかったの!?」
「もう恋人ですから。問題ないですよ」
「え、ええ!?」
「ふふっ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます