第5話 嘘はつき通すもの
「ごめん、桜來!」
わたしはお姉さんと話した後に、すぐに桜來のところに戻った。
お姉さんは用事があるからとそのまま帰ってくれたので良かった。
用事がある割にはもっとわたしと話したいとかなんとか言って、なかなか帰らなかったけど……
「ううん、大丈夫。茉莉花のお姉さん楽しそうな人だね」
「ま、まあね~……」
「でもあんまり茉莉花に似てないよね」
(ギクッ……)
それは一滴の血の繋がりもないのだから、顔から放っているオーラまで何もかもが似ていないのは当たり前だった。
「あ、ごめん。似てないって言われるの嫌だった?」
「え? 全然! よく似てないねって言われるんだー。あはは……」
実際本当に嘘ではない。
お姉ちゃんとは似てないねって昔から言われてきた。
でもそんなことをしていると、嘘に嘘を塗り固めているみたいになってしまって、ちょっと申し訳ない。
後ろめたさが心臓をチクチク刺してくる。
(本当のこと言っちゃおうかなあ…… うーん、でもやっぱりなあ……)
桜來は優しいので、本当のことを言ったらきっと心配してくれると思う。
急に知らないお姉さんに告白されて、連絡先まで交換して、わたしのお姉ちゃんだと嘘をついたなんて言ったら、すぐにでもわたしからお姉さんを遠ざけようとするかもしれない。
そもそもわたしがお姉さんと連絡を取らなければいいだけだというのは自分でも分かっているつもりではいる。
でもそこまで悪い人ではなさそうだから、無視するのは悪いかなと思ってしまう。
それにわたしは人に頼まれごとやお願いをされるのをどうしても断ることができない性格をしている。
さすがにどうしても無理なことは断るけど、できるだけ叶えてあげたいと思うことは良くないことなのかな。
それは桜來も分かってくれていて、いつも心配してくれているので迷惑をかけている人もいることは重々分かっている。
だから桜來にはあまり相談事はしないようにしている。
お姉さんに告白されたことが衝撃で、どうするのが最適解か分からなくて、桜來に相談しようとしていたのをちゃんと踏みとどまれて良かった。
それに桜來に話せば、
一度つくと決めた嘘はつき通すもの。そういうことにしておこう。
「茉莉花? どうしたの?」
「……ううん、なんでもないよ」
「そう? あ、そうだ。実はわたし、またバスケ部の先輩に誘われちゃって…… 明日は一緒に帰れないかも……」
「へえ、すごい! この前もすごい活躍だったって噂で聞いたよ!」
バスケ部、バレーボール部、バトミントン部、テニス部……etc.
桜來は多くの部活動からその身体能力を買われ、いつも「うちの部活に入ってくれないか、いや是非わたしの部活に」なんてお誘いがやまない。
それを隣で見ているわたしはその度に本当にすごい人と仲良くなったなと驚くことばかりだ。
でも桜來はその誘いを全て断り、特定の部活には入ろうとはしない。
頼まれれば助っ人にはなるけど、あまりどの部活にも興味はないらしい。
少しもったいないなとは思いながらも、どんなスポーツでもなんなくこなせてしまう桜來には助っ人という選択肢が一番合っているのかもしれない。
「ごめんね、一緒に帰れなくて……」
「いいよいいよ、そんなこと! みんな桜來がいると助かってるんだから!」
桜來のすごさがいろんな人に見つかるのは入学してからすぐだった。
いろんな部活に誘われて助っ人に行かなければいけない日はたくさんあって、一緒に帰れない日はもう何度もあったので慣れている。
一緒にお昼ご飯を食べてくれたり、わたしと休憩時間に話してくれる。毎日学校で一緒に行動してくれるし、遊びに誘えば付き合ってくれる。
それだけで本当にありがたく思っているくらいだ。
他に何を求めることがあるだろうか。
それにわたしと帰るよりも、誰かの助けになっている方が助っ人を頼んだ部活の人にとっても、桜來にとっても良いことだ。
いつも桜來は一緒に帰れなくてごめんと言ってくれるけど、わたしに謝る必要なんて一つもない。
わたしのことなんか気にしなくてもいいのになあと毎度思っているのは桜來にさらに気を使わせてしまう気がして言わないことにしている。
「そんなことじゃないんだけどな……」
「え?」
「ううん、なんでもない! ほら、早く食べちゃおう!」
「……? そうだね」
わたしは桜來に急かされるように、残っていたケーキを全て口に運んだ。
やっぱり白クマケーキは頭のてっぺんから足の先までまるっと美味しかった。
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