第6話 名探偵茉莉花
「お母さん、ただいま~」
「おかえりなさい、茉莉花」
カフェを出た後は特に寄り道はせずに、途中で桜來と別れ、わたしは真っ直ぐ家に帰ってきた。
九月も残り少しになってきて、だんだんと暑さを感じる日も薄くなっているけれど、今日は蒸し暑さがあった。
服の下では汗がじんわりと滲んでいるのが分かる。
そう言えば、昨日コンビニで買っておいたアイスが冷凍庫の中に残っていたはず。
そう思いながら、わたしは冷凍庫の中を確認した。
(…………ない)
昨日の夜にコンビニで買っていたはずの、わたしの巨峰味のアイスバーは冷凍庫から
わたしが実は食べてしまっていたことを忘れているだけだろうか。
それとも巨峰くんが人間に食べられてしまうことを危惧して、走って逃げだしてしまったのだろうか。
わたしは白風家ナンバーワンの名探偵。それがどこに消えてしまったのかを解き明かすことができる。
犯人はこの部屋の中にいるのだ。
わたしは犯人を追及するために、テレビの前に置いてあるソファに座って隣の人物に話しかける。
「
「な、なんだね、茉莉姉さんや」
「ずばり、わたしの巨峰は緋衣のお腹の中にいるのではないかね?」
「そ、そそそ、そんなことないんでがんすよ?」
「語尾が変なことになってる…… はあ…… 今正直に罪を告白すれば、わたしに美味しい巨峰を買ってくるだけで許してあげよう」
「え、それって本物の巨峰のこと!? 明らかにアイスよりも高額なんですけど!?」
「……やっぱり食べたな」
「あっ……」
わたしは巨峰がアイスだとは一言も言っていない。
今の会話からはアイスというキーワードのヒントは一つも見当たらないはず。
「た、食べました……」
「緋衣! もう~~!!!」
「ごめんなさいー!」
緋衣の特徴と言えば、手癖が悪いこと。
もし知らない人がいるなら覚えておいて欲しい。とりあえず毎日朝と夜には三回ずつ「緋衣は手癖が悪い」と復唱して欲しい。
緋衣はわたしの買ってきておいたアイスやらプリンやらをだいたいいつも勝手に食べてしまう。
勝手に。ここだいぶ重要キーワード。
何度注意しても直らないから、アイスにでかでかと「まりか」と書いておいても食べられてしまうくらいだ。
もう諦めている節はある。
いつもは買ってきたらすぐに食べるようにしていたのに、昨日はお姉さんと遊びに行ったのが、結構疲れていたみたいで、夜ご飯を食べたあとにすぐ眠ってしまった。
そして、わたしのアイスは緋衣の手に渡ってしまうことになったのだ。
これはもうお姉さんのせいと言っても過言ではない。
あとでアイスの恨みメッセージでも入れておくことにしよう。
「茉莉姉、ごめんね…… 怒ってる……?」
「はあ、怒ってもわたしのアイスは戻ってこないからなあ。緋衣がわたしの妹じゃなかったらチクチク嫌味お説教、一時間の刑だよ?」
「お、お姉様大好きです! 緋衣はお姉様の妹に生まれて幸せの極みでございます……!」
「はいはい」
わたしは緋衣の頭をぽんぽんと撫でて、自分の部屋に戻るために立ち上がった。
なんでもっと本気で怒らないのかと言われそうだけど、緋衣はわたしの妹。
お父さん似で、お母さん似であるわたしとは似ていない部分は多いけど、わたしの可愛い妹なのだ。
どんなことをしても妹の存在の可愛さの前には勝てないのが姉というもの。
喧嘩をすることもあるけれど、妹の我がままを受け入れてあげられるのは姉だけ。
わたしのお姉ちゃんスキルはレベルの限界値を超えているのだ。
昔、友達にはシスコンだとかなんだとか言われたことがあるけど、自分の妹が可愛いのは仕方がないことだよね?
それにわたしは別に緋衣の友達関係とか恋愛関係には特に介入はしていないので、言うならば準シスコンと言って欲しい。
本物のシスコンは妹のプライベートに土足どころか分厚い厚底の靴で入り込んで、しっかりと足跡を残していこうとする人のことを言うのだ。
「お母さん、わたし部屋で勉強してくるから、ご飯ができたら呼んでねー」
そう言い残して、わたしは部屋に戻った。
そして部屋に戻ってすぐにわたしはスマホをタップして、お姉さんにメッセージを送った。
『今日、夢の中で巨峰に崖から突き落とされますよ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます