第19話 決めた!

 わたしの目の前でコーヒーをすするお姉さん。


 わたしの横でオレンジジュースをすする梗。


 そしてただ空気を吸っているだけのわたし。


 なーんで、こういう状況になってるのかな……


 わたしは放課後、梗と一緒にファミレスに来ていた。


 梗と一緒に寄り道して帰るなんて、すごく久しぶりで嬉しい。今日は桜來も部活の助っ人に呼ばれているらしいから何も問題はなかった。


 ただここにお姉さんがいること以外を除いては。


「いやー、すいませんね。急にわたしが会いたいだなんて言っちゃって。わたし呉羽梗っていいます」


 口を開いたのは梗。


「いえいえ。わたしは雪宮雫です。えっと、あなたは茉莉ちゃんのお友達よね?」

「うーん、お友達? 合ってるっちゃ合ってるけど、それ以上の関係ですかね?」


 梗がそう言うと、お姉さんが笑顔を作ったままわたしを凝視してくる。


 お姉さんからのものすごい圧力がわたしを襲ってきた。


(ち、違う違う違う! ちょっと梗の言葉が足りないだけで、それ以上の関係っていうのは友達の最上級みたいな意味だから! 変な意味ではないから!)


 わたしは梗にバレないように小さく首を横に振った。


「へ、へえ。そうなんだ。茉莉ちゃんとは仲良いんだね」

「はい! 茉莉とはいろいろありましたからねえ」

「……茉莉ちゃん?」


(ないないない! 変な意味のはありません! 今までずっと一緒にいたから思い出がいっぱいあるよねってだけの意味です!)


 わたしはまた小さく首を横に振って、お姉さんの目を真っ直ぐ見つめた。


 今だけはわたしの心の中を読める超能力者であって欲しい。


「そ、そそそっかあ…… と、ところで呉羽さんはわたしに何の用かな?」


(めっちゃ動揺してる……)


「あー、そうですよね」


 なぜか急に梗がお姉さんに会いたいと言い出して、この現状に至っている。


 最初は断ったんだけど梗がどうしてもって言うから、放課後お姉さんに連絡したら、お姉さんが喜んでここに飛んだ来たというわけ。


 お姉さんには仕事があるし、まあ今日は無理だよなって思ってたんだけど、まさか本当に来るとは。


「雪宮さんって茉莉のこと好きなんですよね?」

「ええ、好きよ」

「どれくらい?」

「そうね。少なくともこの世に存在する生物の中でわたしが一番茉莉ちゃんのことが好きよ」


(んぐっ……! なんていう恥ずかしい会話を展開してんだ、この二人……!)


 わたしは軽く天を仰いだ。


「へえ。じゃあわたしよりも茉莉を好きな自信あるんですね?」

「もちろん。自信というよりかは確信的にあるわ」

「ふーん」


 ……うーん、なにがどうなってんだろ。


 話の意図と流れが全くつかめていないわたしは二人の会話をただ聞いて、ただ恥ずかしがりながら二人を交互に眺めていることしかできなかった。


 そもそもなんで梗は急にお姉さんに会いたいだなんて言い出したんだろうか。


 わたしが変な人にひっかかったと思って心配だったからかな?


 別に変な人ではないよって一応伝えたんだけどなあ。


 いや、お姉さんは変な人かそうでないかと言われれば、明らかに変な人ではあるんだけど。


 別にお姉さんは悪い人ではないよって意味ね。


 わたしもだいぶお姉さんのことを受け入れられてるし。


「梗……? おーい」


 梗は何か考え込んだ様子で、手を顎に当てながら下を向いてしまった。


 わたしが話しかけているのが耳に入っていないみたいだ。


「茉莉ちゃん…… わたしせっかく茉莉ちゃんから誘ってもらえたと思ってすごく嬉しかったのに…… ひどいよ……」

「す、すいません…… 梗がお姉さんには言うなって……」


 そう。


 わたしはお姉さんに梗がいるということは伝えていなかった。


 どうしてかは分からないけど、梗からそうして欲しいとお願いされたから。


 だからお姉さんはただ単純にわたしがお姉さんに会いたいと思っていると受け取ったんだろう。


 梗がいるのを見たお姉さんは目をパチパチとさせて驚いていた。


 これに関しては悪いことをしたなと思っている。


「よしっ、わたし決めたよ茉莉!」


 梗が急にパッと上を向いて、わたしに視線を合わせた。


「……? 何を?」


 わたしも梗の目を見つめる。


「わたしと付き合って!」


「「………………ん?」」


 梗の顔には笑顔が溢れていた。

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