第18話 梗
「桜來ー、ご飯食べよー」
「ごめん、茉莉花。わたし今日委員会に行かないといけなくて……」
「え、そうなんだ……」
桜來といつものようにお昼ご飯を食べようと思ったんだけど、今日は委員会があって無理みたい。
どうしよう。
桜來がいないとお昼ご飯を一緒に食べる人がいない。
このクラスに他に友達がいないわけではないし、なんなら仲が良い人はありがたいことにたくさんいる。
でもやっぱりその人たちとはグループが違うし、こういう時に「一緒にご飯食べてもいい?」と聞く勇気がわたしにはない。
「時間そろそろだからわたしもう行くね!」
「あ、うん。いってらっしゃい」
桜來はわたしに手を振ると、走って委員会に行ってしまった。
桜來は体育祭の実行委員だから、今日だけで終わりではなく、体育祭が終わるまで委員会の集まりに何回も行くことになると思う。
これからも一緒に食べられない日は出てくるはず。
今のうちから一人に慣れておかないと。
かと言って、一人教室で寂しくご飯を食べるのはちょっと抵抗がある。
(中庭にでも行って、一人で食べるかあ)
中庭ならベンチもいくつかあるし、一人で食べていてもなんとなく教室よりはまだマシな気がする。
わたしはお弁当を持って、中庭に向かった。
──中庭
(よし、ここで食べよ)
中庭には大きな木が一本生えていて、その周りを囲むようにいくつかのベンチが円状に置かれている。
ここのベンチ以外は全て先客で埋まっていて、ラッキーなことに一つだけ誰も座らず残っていた。
もう少し遅かったら、ちょっと危なかったかもしれない。
そんなことを考えながらわたしはお弁当の蓋を開けた。
「……茉莉?」
「え……?」
少し低めの声がわたしの名前を呼ぶのが聞こえた。
わたしは後ろを振り返る。
「あ、
「やっぱ茉莉じゃん! ここで何してるの?」
「桜來が委員会でいないから、一人でご飯食べようかなって。梗は?」
「え、わたしも! 友達が体育祭の実行委員で今いないから一人で食べようかなって」
「そうなんだ! じゃあ一緒に食べる?」
「うん! いやあ、茉莉がいて良かったあ!」
この子は
中学の時からの同級生で、三年間クラスは一緒だったのに、高校になって初めて別々のクラスになってしまった。
クラスが離れると自然と会う機会もなくなって、こういうふうに一緒にご飯を食べるどころか、しっかりと話をすることもなくなっていた。
「なんかすごい久しぶりだよね?」
「ね! 梗とは毎日ってくらい一緒にいたからすっごい久しぶりに感じる!」
なんだか中学生の頃思い出すなあ。
「あ、そのタコさんウインナーなつかし! 茉莉のお弁当に毎日入ってるやつ!」
「あははっ、そうだよね」
わたしのお弁当には毎日欠かさず、タコさんウインナーが入っている。
普通のウインナーよりもなぜか美味しいような気がするし、見た目も可愛いので岡さんに頼んで毎日入れてもらっている。
「茉莉はどう? クラスで上手くやれてる?」
「うん。さすがにもう九月だし、ちゃんと馴染めてるよ。梗は?」
「わたしも大丈夫! いっぱい友達できたし!」
「そっかそっか! 良かったね」
(やっぱり梗と一緒にいると安心するなあ)
「茉莉はクラスに誰か良い人いないの?」
「良い人?」
「うん。ほら茉莉のクラスってイケメンが多いで有名じゃん! 早見くんとかさ!」
「あー…… うーん、いないかな? 別に男子と関わることなんてほとんどないし」
確かにイケメンな人はいるけど、ちょっとテンションが高すぎてわたしにはついていけないかなって思っている。
早見くんには好きな人がいるわけだし。
「梗は? 中学の時に付き合ってた人とはまだ付き合ってるの?」
梗には中学の時に彼氏がいた。
確かその人とは違う高校に行ったらしいから、ずっとどうなったか気になっていた。
「あー、もう別れたよ。なんか自然消滅って感じ?」
「へー、そうなんだ」
「まあ告白されて付き合っただけだから、あんまり未練もないし」
「そっか」
梗にはすごく悪いんだけど、正直言って梗の彼氏は少し苦手だった。
よく面白いことをしているからみんなから人気はあったんだけど、それを授業中にまでやってることもあった。
先生にバレないように面白がってふざけているのが、本当に中学生男子って感じで今考えてもその人にいい思い出はない。
別にわたしが何かされたってわけではないんだけどね。
「じゃあ今は誰も付き合ってる人はいないんだ?」
「うん」
「そうなんだ。梗可愛いから告白されてりして付き合ってるのかと思ってた」
梗は誰がどう見ても可愛いって言葉が真っ先に出てくる人だ。
梗がいつもしているポニーテール、そして笑った時に目が細くなってクシャってなる笑顔からは梗の元気さと可愛さが伝わってくる。
梗はとにかく明るくて、常に笑っているイメージが強い。
コミュ力も異常に高くて、誰にも人見知りせずに笑顔で話しかけるものだから、それが男子の心臓にはあんまり良くないんだろう。
中学の時から男子に告白されているのをよく見てきた。
なんでわたしの周りはこんなに可愛いくてモテる人が多いんだろうか。
「んー、高校では全部断ってる。別にもういっかなって」
「ふーん」
梗のことだから恋愛についてわたしは特に口出ししないけど、中学の時は告白されては付き合って、別れて、また付き合ってみたいな感じだったからちょっと意外だ。
「茉莉こそ可愛いんだから告白されるでしょ?」
「いやいやいや! わたしなんか何もないよ!」
「えー、ほんとお?」
「ほんとほんと! 今まで告白されたことなんか一回も…… あっ……」
わたしは告白されたことなんて一回もないと言いかけて、あることを思い出した。
そう言えばお姉さんがいたよ。
「どうしたの?」
「あった…… 一回だけ告白されたこと」
「え、そうなの!? 誰!? 同じクラスの人!?」
(す、すごい食いつき……)
「ううん、全然知らない人」
「へ……?」
わたしは梗にお姉さんのこと、そのお姉さんにどういう経緯で告白されたのか、今どういう状況になっているのかを詳しく話した。
別にわざわざ言うようなことでもないんだけど、そういう流れになっていたから話すことにした。
梗は誰かに言いふらしたりなんか絶対しないだろうし、梗になら話せるという安心感があった。
「え、じゃあ茉莉はそのお姉さんに付きまとわれてるの?」
「いやすごい言い方が悪いような気もするけど、まあそういうこと……なのかな?」
「茉莉はその人のこと好きなの?」
「んー、よく分かんないんだよね。好きではないけど、嫌いでもないというか……」
最初はただただ煩わしく思っていたけど、今はもうそこまでの煩わしさをお姉さんから感じない。
わたしが変わったのかな?
「……へえ」
まあいろいろと驚くポイントがあるよね。
「茉莉は女の人でも大丈夫なんだ?」
「まあ…… どうなんだろ? たぶん大丈夫なのかな?」
その点は自分でもよく分かっていない。
「よしっ。じゃあわたしにそのお姉さんと会わせて!」
「……え?」
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