第2話 友達、草刈桜來
「ねえねえ、
「ん?」
「桜來って好きな人いる?」
「っごほ……! ごほっごほっごほっ……!」
「桜來!?」
今は学校で四時間目の授業が終わって、待望のお昼休憩の時間。
わたしは友達の
わたしが変な質問をしたからなのか、桜來は変なところにご飯が入ってしまったみたいだ。
「桜來、大丈夫!?」
わたしが桜來の背中をさすると、桜來の呼吸がゆっくりになってきた。
だんだんと落ち着いてきたみたいだ。
「は、はあ…… やばかった……」
「大丈夫?」
「うん、もう大丈夫。ありがとう、茉莉花」
「良かった」
桜來とは高校から仲良くなった。
高校から、というのはもっと前から知っていたけど、仲良くなったのは高校からだという意味。
実はわたしと桜來は中学が一緒。
でも中学時代は一度もクラスが一緒にならなかったせいで、仲良くはならなかった。
そして高校一年生の今年、桜來と一緒のクラスになって、なんと桜來の方から話しかけてくれた。
ほとんど話したことがなかったし、そもそもわたしのことを認知してくれているとは思わなかったので、余計に話しかけてくれたことが嬉しかった。
今も全く変わらないけど、桜來は中学生の頃もみんなの人気者だった。
黒髪ロングはどうやって手入れしてるのか気になるくらいサラサラ。メイクをしている様子はないのに目鼻立ちがくっきりしていて、可愛い。
笑うとなお可愛い。顔から発光しているみたいだ。
しかもこれでスポーツもできるというわけだから、本当にすごい。
そんな桜來に告白する男子はいつまで経っても絶えない。今まで一体何人の男が玉砕してきたのだろうか。
桜來も「茉莉花は今まで家に忘れた宿題の数を数えたことがある?」なんて若干よくわからないカッコいいことを言っていた。
桜來はよく宿題を忘れて、先生に怒られている。まさかフラれた男が家に忘れた宿題の数に例えられるとは。
その時は『忘れたんじゃなくて、そもそも宿題をやってないだけでは……』なんて思っていたのはここだけの話。
まあ、そんないろいろなすごい要素を持ち合わせていたので、桜來はいつも人の中心にいたし、わたしのことを知ってくれているとは思わなかった。
そんな桜來と仲良くなる日がくるなんて……
親友……と呼ぶにはまだ少しむず痒いけど、わたしは桜來のことを本当にそれくらいに思っている。
「……で?」
「え?」
「好きな人いるの?」
「す、す、好きな人!? ど、どうしたの、急に!?」
(わ、分かりやすい〜)
桜來とは恋愛系の話をそこまでしたことはなかったので、驚いているみたい。
桜來も恋愛系の話をこれと言ってしようとはしないし、わたしも恋愛さんとは縁の薄い薄いお付き合いをさせて頂いていたので、今まで好きな人がいるかどうか、聞いたことがなかった。
それにしても、桜來に好きな人がいるなんて初めて知った。
だからあれだけ告白されても断ってたのか。
「告白とかしないの?」
「え……!? い、いないよ、好きな人とか……!」
「…………へえー」
「なんか疑ってる!?」
(疑うも何も目が泳ぎまくってるよ……)
「ど、どうしたの急に? 好きな人いるなんて聞いてきたりして…… え、待って。まさか茉莉花…… 好きな人……できたの?」
「ん? いや好きな人はいないけど……」
いないけど、好きになられた厄介な人ならいる。
本当は桜來に昨日のことを相談しようかと思って、ついでに好きな人がいるかどうか聞いてみたんだけど……
まあこんなこと言っても桜來に心配かけるだけだし、やっぱり言わない方がいいか。
それに、わたしのことなんかより、桜來の好きな人の方が気になってきた。
だって桜來の好きな人だよ?
あの告白が絶えないで名高い桜來さんの好きな人だよ?
全人間、いや全生物が気になるところでしょ!
「まあわたしのことは置いといて、桜來の好きな人ってどんな人?」
「えっ!! だからいないって!」
「…………へえ」
「疑いの目! さっきと同じ展開だよ!」
もう桜來に好きな人がいるのは桜來の反応から分かってしまった。
一度気になったらどうしても知りたいってなっちゃうのが人間。
決してわたしがしつこいわけではない……はず。
「……はあ。もう…… いるよ、好きな人」
「やっぱり! どんな人どんな人?」
それに桜來とはずっと昔から仲が良かったんじゃないかって錯覚することもあるくらい大切な友達だから、好きな人がいるなら応援したいって気持ちももちろんある。
もしかしたら何かわたしに手伝えることがあるかもしれないし。
「……言わない」
「え?」
「茉莉花には絶対言わない!」
「ええ!?」
(や、やっぱりしつこかった!? 怒らせちゃった!? ど、どどどうしよう!?)
一度気になったらどうしても知りたいってなっちゃうのはわたしだけだったみたい。
人間の皆様、申し訳ありません。
「ご、ごめん! もう聞かないから……!」
わたしは焦って桜來に謝った。
相手を詮索するのはやめよう。
「え、いいよいいよ! 別に本気で怒ってるわけじゃないし!」
「そう? 良かった……」
わたしはほっと肩を撫でおろす。とりあえず怒ってはいないみたいだ。
「何? そんなにわたしに嫌われるのが嫌だったの?」
「当たり前じゃん! わたし、桜來大好きなんだから桜來に嫌われると生きていけないよー」
「っ……! そういう……!」
「んー?」
そう言いながら、わたしは横から桜來に抱きついた。
実際、わたしは桜來のことが大好きだし、コミュ力が高くないわたしは桜來がいなかったら、クラスでボッチを極めし存在になっていたかもしれないので、桜來には本当に感謝している。
「ちょっ、茉莉花!」
「何ー?」
「恥ずかしいからっ……!」
「えー」
桜來はわたしが腕を組んだり、抱きついたりするとすぐ恥ずかしがってしまう。
桜來自信、別にスキンシップが嫌なわけではないみたいだから、わたしも懲りずにずっとやり続けている。
褒めたりしてもすぐに赤くなるので、桜來には照れ屋の一面があるみたいだ。
「よしっ。じゃあこれからいっぱい抱きついたりするから、恥ずかしさを克服していこう」
「まだこれからもあるの!?」
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