第9話 たぶん耐えられない

「茉莉花、よかったね」


 席に戻ったわたしに桜來が話しかけてきた。


 どうやら桜來はわたしたちのジャンケンの様子を見ていたみたいだ。


 残念なことにわたしがジャンケンに勝ったのも目撃されていた。


「……ううん、負けちゃった」

「え、でも見てたけど、茉莉花勝ってたよね?」

「ジャンケンにはね。わたし平等すぎるのってあんまり良くないと思うんだよね。逆に不公平っていうか?」

「……もしかして譲ったの?」

「まあ、はい……」

「はあ……」


 ああ、また桜來に余計な心配をかけてしまった。


「茉莉花はいっつもいっつも優しすぎ! 誰かのためじゃなくて、ちょっとは自分のやりたいことやりなよ!」


(う、うう……)


 確かにわたしは青野さんのために自分のやりたい競技を我慢して、譲った。


 でもそのちょっとの我慢で喜んでもらえるなら、わたしも嬉しいし、お互いWin-Winじゃない?


「誰に譲ったの? わたしが言ってあげるから」

「え、いいよ! わたしもう変わってあげるって決めたから!」


 わたしは譲ったことを結果的に満足しているから、全く問題ない。


「茉莉花…… 本当に嫌じゃない?」

「うん、全然嫌じゃないよ」

「はあ…… そっか」


 ただ問題なのは桜來が心配してくれること。


 桜來は優しいからいつもわたしのことを心配してくれる。


 桜來にいらない心配はかけたくないけど、こればかりはわたしの性格の話になってくるので、変えたくても変えられないというジレンマ状態に陥っている。


「……なんかもはや桜來が優しすぎるのが良くないのでは?」

「それ褒めてるの!? 貶してるの!?」

「うーん、貶してはないけど。桜來こそ優しすぎるんじゃない? わたしのことをよく気にしてくれてさ」


 わたしだけではなくて、部活の助っ人をいつも引き受けたりしているし、極めつけには日直の消し忘れた黒板を消していたこともあった。


 優しすぎるのは桜來の方だ。


 わたしなんていつも心配をかけてるんだから、もう負の存在みたいなものでしかない。


 こういう時、自分の性格が人に迷惑をかけるのは嫌になる。


「それは茉莉花だからだよ!」


 桜來が前のめりに言ってきたので、わたしはびくっとして体が動きを止めた。


「茉莉花のことが、そ、その…… す、好きだから! だから気にしちゃうの!」


 桜來が唇を尖らせて、拗ねるみたいにそう言った。


 好きと言ったのが恥ずかしかったのか、目は合っていない。


「桜來……!」


 桜來が好きだなんて言ってくれること滅多にない。


 わたしは嬉しさ余って桜來に抱きついた。


「わたしも好きだよ、桜來!」

「ちょ、ちょちょちょちょちょ! まずいよ! 許容量が……!」


 ☆


 クラスメイトはみんな自分の競技を決め終わって、教室からは少しずつ人が減っていた。


 今日は桜來がバスケ部から助っ人の依頼があるので、わたしは一人で帰る準備をしていた。


「あ、聞き忘れてた。結局茉莉花、何に決まったの?」


 隣でわたしを見送るために待っている桜來が話しかけてきた。


「二人三脚。桜來は?」

「え、一緒! わたし二人三脚とリレー!」


 おお、まさか桜來も二人三脚になっていたとは!


 わたしがジャンケンしている間に話は進んでいたんだな。


「あ、じゃあ一緒にやろうよ!」

「え、い、一緒に……?」


(……あ、え? なんだこのは。もしかしてわたしとやるの嫌だったかな……)


 わたしは運動はできないが、なぜか足はそんなに遅くない。


 中学の頃は一度だけリレーのメンバーに選ばれたこともある。


 でも決して早いわけではないから、桜來と一緒にやるとなるとついていけそうにないから迷惑になるのかも。


 わたしとしたことが配慮が足りなかったか…… そりゃあなたとは嫌ですだなんて言えないもんね。


「二人三脚ってさ、男子もいるの?」

「男子? さあ…… たぶんいるんじゃない?」

「そっか……」


 誰がいるのかは確認しなかったけど、一部を除いてどの競技も男女半々ずつで定員が決まっているから、二人三脚もそうなはず。


 男子と組むことになるのはちょっと緊張するけど、もし他に一緒にやる人がいないとなれば仕方がない。


「茉莉花とわたしが一緒にやるか…… それとも茉莉花と男子が一緒にやるか……」


(あ、もしかしてわたしが男子とあんまり仲良くないから気を使ってくれてるのかな?)


「桜來、わたし男子とでも大丈夫だよ? それに他の女の子にも一緒にできるか聞いてみるし」

「い、いやいやいや! やっぱり待って! わたしが茉莉花と組む!」

「ほんと!? 良かったあ」


 桜來に迷惑をかけてしまう可能性があるというところが不安要素ではあるけど、桜來なら気楽にできるから、正直わたしと組んでくれて本当にありがたい。


 やはり持つべきものは心を許せる友。


「わたし茉莉花と密着して耐えられるかな……」

「いつもみたいに恥ずかしがらなくて大丈夫だよ?」

「そ、そうだよね〜!」

「……? うん。ほら、こうやって肩組むだけだから」


 わたしは桜來の肩を組んでみせた。


 桜來は恥ずかしがり屋だからわたし含め他の子と密着するのが恥ずかしいみたいだけど、いざやるとなれば集中してやるはずだから、きっとそんなこと気にならなくなるよね。


「……これは耐えられないかも」

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