第8話 種目決め
(うーん……)
二人三脚に綱引きに騎馬戦にリレー。他にもいろいろ。
絶対に一人最低一つは必ず出ないといけないらしい。
競技には定員があるし、全員が自分のやりたいものをできるわけではない。
なるべくみんながやりたい競技をやるのが一番だけど、わたしも下手な競技になってクラスの迷惑になってしまうことだけは避けたい。
なるべく勝てる見込みがありそうな競技がいいな。
定員がオーバーするとたぶん定員の枠を巡ってジャンケンになるだろうから、ここはわたしの運が試されるところ。
でもジャンケンってそういう時に限って負けちゃうんだよなあ……
「桜來はなにするか決めた?」
「わたし? うーん、たぶんリレーは出ることになるだろうし、他も走る系のやつに出よっかなって」
他の競技は別だけど、リレーだけは基本五十メートル走が速い人順から強制的に選ばれる。
桜來はこのクラスの女子で一番足が速いはずなので、リレーは確定だろう。
「茉莉花は?」
「わたしはなあ…… まだわかんないや」
「まだってもうすぐ先生来ちゃうよ?」
そう。もうすでに時間は放課後。先生が来れば話し合いという名の競争がスタートしてしまう。
わたしはいまだに出たい種目を決め切れていなかった。
綱引きや玉入れみたいな無難な種目は人気だろうし、それなら最初から違う種目に立候補しておけば、あぶれて変な種目になることはない。
そんなことを考えていると、教室の扉が勢いよく開いた。
「みんな、これから種目決めするぞ! 先生がこれから種目を読み上げるから、やりたい種目に手をあげてくれ」
先生はなんだか楽しそうだ。
(よしっ、決めた。あれにしよう)
「じゃあまず徒競走──」
先生が種目を読み上げ、続々と手があげられる。
その後も一つずつ種目が決まって行く。
教室の片隅ではジャンケン大会が行われ、ジャンケンに勝った生徒が喜びの声をあげ、負けた生徒は悔しそうに手を握りしめている。
なんと厳しい世界なんだ、体育大会。
「じゃあ次は借り物競争!」
(きたっ!)
わたしは高々と手を挙げた。
借り物競争だ。眼鏡をかけている人とか、髪の毛が長い人みたいな紙に書かれている人を連れて、一緒にゴールするだけでいい。
これならわたしでも出来そう。
「えっと、借り物競争の定員は四人だから…… 一人余るな。よし、じゃあこっちでジャンケンしてくれ」
やっぱり溢れてしまう人が出てくるか。
仕方がない。この世界は競争社会。勝者が全て。
「じゃあ行くよ?」
クラスメイトの一人がそう言って、みんなが片手を出す。わたしも手をギュッと握って、右手を前に出した。
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
私はパーを出した。
すると右にいる子の手もパー。目の前にいる子もパー。
これはあいこかと思われたが、左にいた子の手から指は出ていなかった。つまりは左の子はグーを出していた。
(か、勝った! わたし勝ったよ、お母さん!)
わたしは心の中で歓喜の声をあげる。
いつもはこういう時に負けてしまうわたしの右手が勝利をあげた。五本の指が光り輝いている。
「よし、じゃあ決まったね。わたしが先生に言っておくから」
わたしはその子にお礼を言って、自分の席に戻ろうとした。
けれど、借り物競争ジャンケン大会が解散となったあとすぐに、わたしは一人の女の子に声をかけられた。
「あの、白風さん」
「ん?」
この子は確か
そして青野さんはちょうど今、ジャンケンに負けてしまった女の子だ。
「どうしてもお願いがあるんだけど……」
「お願い?」
「その、本当に言いづらいんだけど、わたしに借り物競争をやらせてくれないかな……」
「……ええっと。それはつまり変わって欲しいってこと?」
「うん……」
(え、ええ……)
せっかくジャンケンに勝ったのに、急に変わってくれと言われても正直戸惑う。
だって平等なのがジャンケンだし、負けたのに変わってくれって言うのは……
わたしは口をつぐんだ。
「だ、だめかな……」
「他の競技にするのは?」
「あ、あと二人三脚と騎馬戦しか残ってなくて…… さっきからジャンケンに負けてばっかりで、あの二つだけはどうしても嫌で……」
確かに黒板を見ると、二人三脚と騎馬戦しか残っていなかった。
「わたし人付き合いも運動も苦手で……」
(うーん……)
確かに二人三脚はコミュニケーションをとって息を合わせないと難しいし、騎馬戦も闘争心を前に前に出さないと、勝つことは難しい。
「…………分かった、いいよ!」
これだけ困っているなら、嘘ではなくて、本当に嫌なんだろう。
勝たなくていいとしても、青野さんには挑戦することすら難しいのかもしれない。
わたしは二人三脚なら大丈夫そうだから、それに立候補しよう。
今までの流れを見ている感じだと、一つも種目が決まっていない人が優先されるはずだから、たぶん大丈夫だと思う。
やっぱり平等すぎるのも疲れるもんね。
「あ、ありがとう! この恩は一生かけて返すから!」
「あはは、一生かけられるほどのことはしてないから大丈夫だよ」
「白風さん、本当にありがとう!」
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