第24話 フリ

「桜來どうしたの?」


 桜來の様子が少しおかしかった。


 もう朝のホームルーム開始を告げるチャイムは鳴ったんだけど、先生はまだ教室に来ていない。もしかしたら朝の会議が長引いているのかも。


 まあなんにせよ、まだ桜來と話せるし、ラッキーだ。


「別に……」

「早見くんのことあんまり好きじゃない?」

「別に嫌いでないけど……」


 そう言って、桜來は口をつぐんだ。


 それは嫌いではないけど、好きではないって答え……かな?


 さっきの桜來の雰囲気から、なんとなくそんな感じはしていた。


 だけど理由が全く思い当たらないというか……  


 早見くんは他の男子みたいにチャラチャラしてないし、オーラからこの人優しいんだろうなあって伝わってくるタイプの男子だ。


 こんなわたしでも話しやすいんだから、この世に話しにくい、嫌いだなんて言う人は滅多にいないだろう。


 そんな誰からも好かれるような人があんまりよく思われないってことないと思うんだけどなあ…… はっ…… もしかしてもう早見くんが桜來のことを好きなのが実はすでにバレてるからあんまりよく思ってない……とか? 


「ねえ茉莉花」

「……あ、えっと、何?」

「早見くんと仲良いの?」

「え、仲? んー…… 普通かな?」


 別に良くもないし、悪くもないというか。


 桜來のことを相談されるまではほとんどと言っていいほど話したことはなかったんだし、仲が良いわけではない。


 だからと言って、もちろん仲が悪いわけでもないから、まあただのクラスメイトって感じかな?


「ふーん……」


(……うーん。よく分からないけど、なんか話変えた方が良さそうだな)


「あ、そうだそうだ! 桜來明日誕生日だよね?」


 あまりよくない雰囲気を感じ取ったわたしは今までの話から全く関係のない話に流れを変えることにした。


「え、うん。そうだけど……」

「誕生日プレゼント用意してるんだけどちょっと学校には持ってこれないから、明日の放課後に桜來の家まで持っていくね?」


 ペンギンのぬいぐるみが少し大きすぎて、学校に持ってこれるサイズはない。


「え、プレゼント!? いらないよって言ったのに……」


 わたしの誕生日は四月六日。いつも入学式とか始業式と被ることが多い日にちだ。


 そんな早すぎる誕生日により、桜來と仲良くなった頃にはわたしの誕生日はすでに終わっていた。


 だからわたしは桜來から誕生日プレゼントを貰っていない。


 桜來は「茉莉花に誕生日プレゼントをあげてないのに自分だけ貰うなんて……」と言っていたんだけど、そんなことめちゃくちゃ無視してわたしは桜來に誕生日プレゼントを購入しました、はい。


 もう買っちゃったって言えば、こっちのもんだからね!


「いいのいいの! 明日持って行くからね!」

「うん、ありがとう…… あっ、じゃあさ! もし茉莉花が良かったらなんだけど、わたしの家でケーキ食べて行かない? 明日家族でわたしの誕生日ケーキ食べる予定なんだ!」

「え……? い、いやいやいや! いいよ、そんな気を使わなくて!」


 一年に一回しかない桜來の誕生を祝うそんな貴重な機会に、一滴の血の繋がりもない友達というだけのわたしがお邪魔するわけにはいかない。


 しかもケーキまで頂いてしまうなんて、そんな恐ろしいこと出来ない。


「なんか予定あるの?」

「い、いや別に予定はないけど……」

「えー…… じゃあ茉莉花が明日来てくれないと、誕生日プレゼントは貰ってあげない!」

「ええ!?」


(そんなあ!?)


 桜來なりに気を使ってくれているんだろうけど、それはすごく困る。


 桜來の大好きなペンギンが雰囲気包装された袋の中で涙を流していることだろう。


 ううん、大丈夫だよ、ペンギンさん。絶対桜來に渡してみせるから!


「分かった、じゃあ行くよ」

「ほんと!? やった!」


 わたしは諦めて桜來の家で一緒に誕生日ケーキを囲むことにした……わけではない。


 そのフリをすることにしたのだ。


 明日誕生日プレゼントを桜來の家まで持って行ったあと、やっぱり用事があるから帰ると言えば、それで万事解決。


 うんうん、我ながらいい策だ。


 嘘をついてしまうのは申し訳ないけど、家族水入らずの時間にわたしが入って行くなんてできない。


 桜來が良くても、桜來の家族としては絶対にわたしはいない方がいいだろう。


 せっかくの可愛い娘の誕生日なんだから。


「じゃあ明日の放課後行くからね」

「うん! 待ってる!」



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