第25話 優しいから
(……はっ)
授業の終了を告げるチャイムの音で目を覚ます。
昨日の夜、寝ていないせいか、一時間目からものすごい睡魔が襲ってきた。
睡魔に打ち勝つためになんとか三時間目までは勇敢に戦い抜いたものの、結局四時間目で机に突っ伏してしまった。
(あれだけ頑張って耐えたのになあ)
茉莉花氏、あっさり敗北。
まあもう寝てしまったものは仕方がない。
あまり厳しくない先生の授業だったおかげもあってか、怒られずにぐっすり眠ることができた。
先生、ありがとう。
さてと、お昼ご飯食ーべよ。
「桜來ー」
わたしは隣の席にいる桜來に話しかけた。
「茉莉花、ごめん。わたし今日も委員会があって……」
「ああ、そっか。うん、分かった。頑張ってね」
「うん!」
桜來はそう言って、教室を去って行った。
体育祭まで残りわずかなので、実行委員もしないといけないことがたくさんあって大変なんだろう。
一緒に食べられないのは残念だけど、こればっかりは仕方がないという以外の何物でもない。
わたしもたまに委員会でお昼いないことあるし。
(今日も中庭にでも行ってお弁当食べようかなあ。あっ…… 待って……)
わたしはふとそこで梗のことを思い出した。
わたしの記憶が間違っていなければ、確か梗の友達も体育祭の実行委員だと言っていた。
となるとまた中庭に行けば梗に会ってしまうかもしれない。
(うーん……)
やっぱりまだ自分の中で梗のことを消化しきれていないし、どうしても気まずくなってしまうと思う。
仕方ないけど、今日は我慢して教室で食べることにしよう。うん、そうしよう。
「茉莉ー!」
「え……」
急に教室の外からわたしの名前を呼ぶ、明るくて大きな声が聞こえた。
この声は姿を見なくても分かる。
梗だ。
「茉莉、一緒に中庭でお弁当食べよ!」
(え、えー……)
梗はいつもとなんら変りもない明るい様子でわたしを誘っている。
こんなクラスのみんながいる前で「いや、一人で食べるよ」なんて言えない。まあみんながいなくても言えないんですけど。
というかなんでこんなにいつも通りなんだろ。
梗、昨日わたしに好きって言ったよね? え、言ったよね?
謎にだんだん不安になってきた。
「茉莉?」
「あ、う、うん…… 行くよ」
わたしは仕方なく梗のうしろについて、一緒に中庭に行くことにした。
☆
「はい、茉莉、あーん」
「あーん…… あ、このたまご焼き甘くて美味しい……」
「だよねー! じゃあこれも、はい」
「あーん…… ってそうじゃなくて!」
わたしは我に返って、少し開いてしまっていた口を閉じた。
「なんでそんなに自然にあーんしてるの!?」
「だって恋人っぽいじゃん?」
「梗さん!?」
確かに恋人っぽいなとは思ったけど……!
なんか流されてわたしも反応しちゃったし……
「はい、あーん」
「ちょ、ちょっと待って!」
「ん?」
「梗って昨日わたしに告白した……よね?」
自分でこんなことを言うのは恥ずかしい。
でも事実だよね? わたしの変な妄想とか夢じゃないよね?
「うん、したよー」
「だ、だよね。そのさ、聞きたいこといっぱいあるんだけどいい?」
「どぞー」
梗はわたしに食べさせるつもりだった唐揚げを自分の口に運び、頬を膨らませ、むしゃむしゃと頬張っている。
なんかすごい軽いな……
「その…… まずさ、梗はわたしのこと本当に好きなの?」
「うん、そうだよ」
「うっ……」
(恥ずかしがるな、わたし…… こんな当たり前ですけどみたいな顔されたからって照れるなわたし……)
「それっていつからなの?」
「えっとねえ、中学一年の時からかなー」
「え!? そんな前!?」
中学一年なんて梗と出会ってまだ一年目。
そんな前からわたしのことを好きだったなんて…… 確かに梗とは最初から仲は良かったけど、さすがにもうちょっとあとの方だとばかり……
「えっと、じゃあ……さ。なんでわたしのこと好きなの?」
結局これが一番聞きたかったところ。
好きになられるようなことをした覚えが本当にないし、なんなら逆に迷惑をかけた覚えしかない。
だからこそわたしは梗の好きという言葉を飲み込めなかったのかもしれない。
「んー、まあすごーく簡潔に言うと、茉莉の優しさ……かな?」
「優しさ?」
「そうそう」
「……わたしって優しいの?」
そりゃ優しい人でありたいとはいつも考えてるよ?
でも考えてるだけで、自分のことを優しいって思えないことの方がたくさんあったからなあ……
「……自覚してない時点で優しいってことなんだよ。まあとにかく! わたしは茉莉が好きってこと! 分かった?」
わたしは梗に両手でほっぺをぎゅっと押さえつけられた。
梗の目はわたしを真っ直ぐに見つめている。
「ひゃ、ひゃい……」
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