第40話 これからもずっと

「茉莉ちゃーん! こっちこっち!」

「お姉さん!」

「ごめんなさい、待たせちゃって……」

「ううん、大丈夫だよ」


 あれから桜來とはちゃんと仲直りをすることができた。


 ちゃんと話し合ったことで、桜來の大切さを再確認することができたのだ。


 やっぱ人と話し合うって大事だなあ。


「そ、それで、その……」

「言いたいことは分かってます」

「え……」


 わたしはお姉さんの両手をギュッと握った。


 ちょっと緊張するな。なんだか唇が渇いてきた気がする。


 しかも心臓はドクドクドクドクいってるし。


 だけどこの心臓の音がわたしに勇気をくれている、そんな気がしている。


 わたしは深呼吸をして、決めていた言葉を発した。


「月宮雫さん。わたしと…… 付き合ってください」


 わたしは今日会ったら、まずこの言葉を伝えようと決めていた。


「っ……! ま、茉莉ちゃん……」

「え、ちょっ!?」


 お姉さんの目から涙が頬を伝っているのが目に入った。


「なんで急に泣いてるんですか!?」


 わたしはびっくりしてしまって、慌てふためくことしかできなかった。


 こんな状況にはもう強くなったはずなんだけどな。


 最近誰かを泣かせてばかりだ。


「へへっ、ごめん、嬉し泣きってやつ。あのときは強がっちゃったけど、実はちょっと不安だったから…… 桜來ちゃんの方に行っちゃうかもしれないって」

「もう、ちゃんと戻ってくるって言ったじゃないですか」

「うん…… 嬉しい……」

「全く…… わたしの何がそんなにいいんだか…… とりあえず涙ふいてください」


 わたしはカバンの中からポケットティッシュを取り出して、お姉さんに渡した。


「茉莉ちゃん、わたしの名前知ってたんだね。初めてちゃんと呼んでくれた」

「わたしって記憶力良い方ですから」


 お姉さん、改め月宮雫さん。


 わたしは人生で今が一番、人を愛しいと思っている。


 人を好きになると生まれる感情は「好き」という感情だけなのかと思っていた。


 だけど違うんだ。本当に好きだなって思うときって、「好き」以外にも「愛しい」だとかそんなものまで一緒に生まれてくるんだ。


 少し前のわたしは知らなかった。この世にこんな感情が存在するなんて。


「それで、今日はどこ行くの?」

「遊園地にでも行こうかと。大丈夫ですか?」

「遊園地!? やった! すごいデートっぽい!」

「いや、それが…… 実は桜來も来ることになってまして……」

「え?」

「いやあ、そのお……」

「茉莉花ー!」


 わたしが言い訳をしようとすると、それを遮るようにわたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。


「さ、桜來……」

「へへ、お待たせ、茉莉花!」

「あ、うん……」


 確かに桜來とは仲直りをした。


 だけど全く前と同じ関係に戻ったわけではなく……


「ちょっ、茉莉ちゃんどういうこと!?」

「どういうことなんでしょうか……」

「お久しぶりです、お姉さん。わたしですね、茉莉花に告白したんです」

「あ、うん、聞いた……よ……?」

「それでちょっといろいろあって。茉莉花にずっと好きでいて欲しいって言われたんです。わたしも好きだからって」


 なんかよく分かんないけど、桜來は頬を赤らめている。


 どうしてこんなことになったのだろうか。


 お姉さんは声を出さずに、わなわなと震えている。


「それでわたし気が付いたんです。別に茉莉花のことを諦める必要ないって!」

「へ!? 桜來さん!?」

「えへへ、茉莉花、好きー」


 な、なんだこれ。何がどうなってこうなったの? ちゃんと付き合えないとはいったはずではあるんだけど……


 しかもなんか桜來がものすごく素直で……


「めっちゃ可愛いんだけど……」

「茉莉ちゃん!? ねえ、茉莉ちゃん!? どういうこと!? ねえどういうことなの!?」


 お姉さんがわたしの肩を掴んで、強く揺らしてくる。


「そ、その! わたしに言われましても……!」


 どうして桜來がこうなってしまったのか、わたしが知りたいくらいだ。


 わたしのせい……ではないよね?


「ふふふー、じゃあ行こ、茉莉花!」

「ちょっ、桜來!」

「ちょっと待って二人とも! 近すぎじゃないかな!? 茉莉ちゃんはわたしの恋人なんですけど!?」

「えー、でも茉莉花とは友達ですから。何か問題あります?」

「う、ううう……!」


(あ、あはははは……)


 いろんなことがあった。本当にいろんなことが。


 知らないお姉さんに急に告白されたり、仲の良い友達に告白されたり。本当に今まで生きてきて、今が一番激動だと言ってもいいかもしれない。


 だけど、これから大変で騒がしい、楽しい日々になりそうな予感がしている。


 いや、この二人とならきっとそうなるんだと思う。


 これからもずっとね。

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知らないお姉さんに告白された!? モンステラ @monstera1246

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