第21話 分からない
「茉莉ちゃん?」
「は、はい……」
「どういうことかな?」
「さ、さあ……」
「なんであんなことになったの?」
「分かりません……」
梗が急に帰ってしまって、取り残されてしまったわたしとお姉さん。
なぜかわたしが怒られているような構図が出来上がっている。
わたし何もしてないのに……
「はあ…… あの子何!? 好きって何!? ねえ、茉莉ちゃん~!」
「ちょ、そんな大きい声出さないでくださいよ!」
お客さんがあまりいないのがラッキーではあるんだけど、はっきり言ってこんな話、ファミレスで話すような内容ではない。
今すぐどこか人のいないところに移動したいくらいだけど、お姉さんがそれを許してくれない。
お店出ませんかと提案したはしたけど、そんなことより、そんなことよりの連続パンチでわたしももうファミレスから出ることは諦めた。
「なんでライバル連れてくるの!?」
「い、いやわたしにも何がなんだかよく分ってないんですって!」
今はお姉さんと一緒にいるから、あまり深くは考えすぎないようにしているけど、早く一人になって考えを整理したい。
梗がわたしのこと好きってどういうこと?
今までそんな素振りを見せたことなんて本当に一度もなかったし、ずっと仲の良い友達だと思っていた。
それを急にわたしのことが好きだなんて言われても、正直信じられないっていう気持ちが一番大きい。
あー、だめだ、考えすぎちゃう。
「あー、どうしようどうしようどうしよう…… 茉莉ちゃん、さっきの子と付き合っちゃうの?」
「え? いや付き合わないですけど……」
好きではないから付き合わないっていうお姉さんと同じ理由ではあるけど、わたしと梗の関係はお姉さんとの関係よりも複雑だ。
お姉さんとわたしの関係は今までまっさらだったのに対して、梗との関係にはいろんなものが詰まっている。
「じゃあわたしとはまだ付き合ってくれない?」
「……どう、なんですかね」
自分でもよく分かっていない。
お姉さんの気持ちに応えてあげたいのはやまやまではあるというところまでは来ている。
お姉さんのことを嫌いでないということはもう自分の中で確定してはいるんだけど、恋愛に発展する特別なものがわたしの中にはまだない。
それがどうやって生まれるかも分からない。
「あの、どうやったら好きって思えるんですか?」
わたしは今まで一度も人を好きになったことがない。
経験がないから、いつどのタイミングで好きになれるのかがよく分からない。
分からないことだらけだ。
「んー、わたしもよく分かんない」
「え?」
「好きってわたしにとってはなんていうか、直感的なものだから説明はできないんだよねえ」
「そうですか……」
「でも一回好きって思っちゃえば、あとは好きが積み重なっていくだけだから! あ、もしかしたらわたしと試しに付き合っちゃえば、好きが見つかるかもよ? どうどう!?」
「…………」
わたしはきっと今までもお姉さんに付き合って欲しいと泣いて頼まれれば、きっと付き合っていたと思う。
わたしなんかのことを好きだって言ってくれる人はもうこの先現れないかもしれないんだし、別に好きな人も付き合っている人もいないんだから、いいかなとは思っていた。
でも……
それはもうすでに過去の話。
今はどうかと聞かれると、無理ですと言わないといけなくなっていた。
梗の言葉が本当だとするなら、わたしが何も考えすにお姉さんと付き合うという選択をすれば、梗はどう思うだろうか。
「すいません……」
だからお姉さんと付き合うことはやっぱりまだできない。
「……はあ。そんな悲しそうなことは顔されたらもう何も言えないじゃない」
「ごめんなさい……」
「……もういいわ。しんみりしたのは終わり終わり! それより茉莉ちゃん、日曜日って暇?」
「え? あ、ああはい、暇ですけど」
「じゃあ一緒に遊びに行こうよ! ね!」
「……はい、いいですよ」
こういう人の優しさを感じるとすごく心があったかくなって泣きそうになってしまう。
「やった! あー、楽しみだなあ。茉莉ちゃんと一緒に一日デート…… うふ、うふふふ……」
……前言撤回。泣きません。
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