第27話 対面

「茉莉花!」

「あ、桜來」


 お弁当を食べ終わって、梗にそろそろ教室に戻ろうと話していた頃。


 桜來が手を振りながら走ってこちらにやってきていたのが見えた。


 どうやら委員会はようやく終わったみたいだ。


「どうしたの?」

「はあはあ…… 茉莉花がここにいるのが教室から見えて来ちゃった」

「だからってそんなに走らなくても」


 桜來は額にじんわりと汗を滲ませながら、息を荒くさせていた。


 別にそんなに急いで来る必要ないのに。


「ほう。これが噂の桜來ちゃんだね?」


 すると急に梗が立ち上がって、桜來の方に近づいて行った。


 まるで品定めでもするかのように顎に手を当て、じっと凝視している。


「え、えっと、茉莉花……」


 桜來は何がなんだか分からないみたいで、わたしに目配せをして、助けを求めている。


「ちょっと、梗」

「わっ……」


 わたしは梗の服を引っ張って、こちらに引き寄せた。


「桜來、困ってるでしょ」

「あー、ごめんごめん。それにしてもやっぱり桜來ちゃんは可愛いねえ」

「それは分かる」


 確かにじっと見とれちゃうくらい桜來が可愛いのはよく分かる。


「ちょっ、茉莉花!」


 可愛いって言うと照れちゃうところまで含めて、全部可愛いのが桜來だ。


 おそらく桜來も梗もそこまでの面識はない。


 ただわたしが二人ともと仲が良いということもあって、お互いの顔と名前くらいの認知はしているはずだ。


 それに、桜來に関して言えば、桜來は可愛いで有名な存在。


 桜來と全くかかわりのない先輩でも桜來のことを知っている人が多いくらいだ。


 だからいくら違うクラスだとはいえ、桜來のことを知らない人はなかなかいないことだろう。


「えっと、確か呉羽さん? だよね? 茉莉花と中学の頃から仲が良いっていう……」

「そ! 呉羽梗! 梗でいいよ!」

「あ、うん……」


 なんたるコミュ力の高さ。桜來も若干引き気味になっている。


 でもわたしにとって梗のこういうところは本当に尊敬でしかない。


 そのコミュ力半分くらいわたしに分けてくれないかな?


「なんで呉羽さ…… あー、えっと、梗ちゃんはなんで茉莉花と一緒に?」

「もー、別にわたしにちゃん付けなんてしなくていいのに」

「でも急に呼び捨ては……」

「うーん、まあいっか。よそよそしさはなくなったし。それでえーっと、なんだっけ?」

「なんで茉莉花と一緒に?」

「あー、そうだそうだ。えっとねえ……」


 すると、梗はにやりと口角を上げた。


「それはわたしと茉莉が付き合っているからなのです!」


 そう言って、梗はわたしの腕に勢いよく飛びついてきた。


「「……!?!?!?」」


 開いた口が塞がらないってたぶんこういうこと。


 顔の筋肉が硬直しているみたいな感じ。


 目だけはなんとか動かすことができたので、桜來の方を見てみると、桜來もわたしと全く同じ状況に陥っているようだった。


 この場では梗だけがにこやかな笑顔を発動させている。


「……あはは! 嘘だよ嘘! 冗談だって! 二人とも素っ頓狂な顔しちゃって!」

「ちょ…… ちょっと梗!」

「ただわたしも友達が体育祭の実行委員だったから、茉莉花と一緒にお昼ご飯食べてるだけだよ!」


 桜來は面を食らったような顔から表情が一切動いていなかった。


「梗! 桜來に変な──」


 変な冗談言わないでよ!


 そう言おうとしたわたしの言葉を大きすぎるチャイムの音が遮った。


 これは授業十分前を告げる予鈴だ。


 残念だけどもう梗に突っかかっている時間はないと宣告されてしまった。


「はあ…… もう教室に帰らないと。早く行こ」


 そう言って、わたしは二人の間を抜け、二人を引っ張っていくように先頭を早足で歩いた。二人とも少し離れてわたしの後ろをついてくる。


 二人は何か話をしているようだったけど、なぜかこそこそと話しているようでわたしの耳は聞き取ることができなかった。


(桜來に変なこと吹き込んでないといいんだけど……)


 わたしは少し不安になりながら、それでも歩く速度を落とすことなく、変わらず足早に教室に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る