第3-2話 冒険者ギルドで最弱レベルを笑われる
翌朝、うどんはマイエの声で起きた。
「うどん様、朝食の準備が出来ました。」
目を開けると、もう既にかなり日が高い。
綺麗な晴れ空だ。
随分ぐっすりと眠り込んだ様だ。
「今起きた。マイエ、おはよう。」
扉の向こうに声を掛けると、マイエが扉を開けて部屋に入ってきた。
「昨夜は楽しかったみたいですね。
遅く帰ってきた父が上機嫌でしたよ。」
「そうなんだよ、皆さんの話しが楽しくて、ずっと笑ってたな。
いい夜だった。」
「今日は父は二日酔いと寝不足で学校に出勤しました。
生徒達に二日酔いがバレなきゃ良いけど。」
マイエが持って来てくれた、暖かい濡れタオルで顔を拭きながら話す。
マイエを見ると、昨日のユニと同じ服を着ている。
メイドファッションに似た服だ。
この格好のマイエもかなりカワイイ。
「食堂に行きましょう。」
食堂には、マイエと同じ服の50年配の女性が料理を並べていた。
「おはようございます。」
「おはようございます。夕べの料理、美味しかったです。」
「そうですか!、料理長に伝えておきますね。
そう聞いたら喜びますよ。」
「シルさんです。
朝食はシルさんが担当です。」
マイエがうどんの椅子を引きながら紹介する。
「すみません、寝坊して、遅い時間の朝食になったんでしょう?」
「ふふふ、まだロフ様もテイさんも起きてきませんよ。二人はまだ寝てます。」
「あれま。」
「楽しい夜だった証拠ですね。うふふ。
暖かいスープからどうぞ。」
「うどん様は日中予定がありますので、起きていただきました。」
朝食を食べつつ、マイエに質問する。
「何をする予定?」
「わたしと一緒に冒険者ギルドと商人ギルドに行きます。
早く食べて下さい。」
「はーい。」
「出掛ける前に注意事項があります。」
「なになに?」
「うどん様は他領から来たロフ様の縁戚という事にしてあります。」
「はい。」
「条件が整えば、ロフ様の婿候補としてラビナ領にやって来た、としてあります。」
「え?」
「そういう設定にして、うどん様をナカタ様と別人物として存在させています。」
「なるほど。」
「条件をクリアしないと婿候補になれませんので、今はうどん様はただの人です。
なので、今のうどん様は、扱いとしては平民寄りの貴族です。」
「なるほどなるほど。」
「平民寄りの貴族ですので、町民に溶け込みやすい、目立たない存在になります。」
「うん、いいね。」
「その代わり、護衛が付けれません。」
「護衛無し…。」
「平民であれ、貴族であれ、護衛が付けば目立ちます。
目立つとナカタ様が扮したうどん様の存在が他領の手の者に悟られてしまいます。
なので、あえて、目立たなくして、護衛も付けません。
これは、父も含めた上層部で話し合われた決定事項です。」
「上層部の決定は尊重するよ。」
「そうは言っても、ラビナ領としてはうどん様を奪われるわけにはいきませんので、影の護衛が付きます。」
「影の護衛?」
「うどん様にも敵にも悟られず警護する部隊を編成したそうです。
衛兵隊と自衛団から優秀なメンバーを選んで組織されたと聞きました。
私にもその構成員は教えられていません。」
「人数も?」
「人数も教えてくれません。」
「近くでガチガチに護衛に守られる生活は気詰まりではあるからなぁ。
その方がいいか。」
「一般のスワンの町民達には、ナカタ様は既にどこか他領に誘拐されたと集団催眠を掛けてありますので、その積りで。」
「集団催眠?」
「昨日の炊き出しの時に既に。
ナカタ様を目立たずこの館にお連れするのが、炊き出しの第一の目的だったのですが、
ちょうど皆集まったので、念には念を入れてナカタ様の記憶を消すという大掛かりな工作が行なわれました。
昨日の集団催眠を掛ける時点で、ナカタ様と一言も会話して無い町民の記憶からは、完全にナカタ様の存在が消えています。」
「じゃあシルさんは、うどんとナカタが同一人物とは思ってない?」
「はい、ユニもです。」
「昨日の昼の会議のメンバーと、マイエちゃん、エスタさん、ケイちゃん、ケイちゃんの母ライラさん、だけが俺の秘密を知る人って事だね?」
「はい。それと影の護衛部隊くらいですね。」
「分かった。用心するよ。」
「それがナカタ様を守る最良の選択だと、ロフ様を含めた上層部の判断です。」
領主館の門を、うどんとマイエは連れ立って出た。
街を歩き、冒険者ギルドに向かう。
すれ違う人は多いが、誰もうどんとマイエを気にしない。
これが目立たなくするって事かとうどんは得心した。
冒険者ギルドに着くと、マイエは受付の女性に断って、2階最奥のギルド長の部屋の前にうどんを案内した。
マイエが扉をノックする。
「どうぞ」
とギルド長トギの声がする。
扉を開けて二人で入った。
「うどん様、冒険者ギルドへようこそいらっしゃいました。」
トギがニヤリと笑う。
小柄だが無骨な元戦士は目つきが異様に鋭い。
「この石版に右手を置いて下さい。」
トギに言われて、うどんは石版に右手を置いた。
すると石版の上部にうどんのデータが、表示された。
レベル1
職種なし
適正 水
魔力 0
攻撃力1
防御力1
力1
技1
素早さ1
知1
幸運1
耐1
これを見てトギが
「おいおい、これは領民学校に入る前の子のレベルだろう。」
明らかな低レベルに、トギが蔑みの目を向ける。
「トギさん!」
マイエが慌ててトギを諌める。
「領民学校って何歳から入学するの?」
「5歳からです。」
「じゃあ俺、4歳レベルって事ね…。」
「ロビーで、レベル確認しなくて良かったなぁ!30歳半ばでレベル1ってよう。
別の意味で話題になるぜ。」
「トギさん!」
「ははは…。」
トギが机の引出しからカードを出して、石版の上に置いた。
うどんのデータがカードにコピーされた。
カードをうどんに渡しながらトギは言う。
「レベル1で冒険者ギルドに登録するって、前代未聞だぞ、
ランクFからしか無いからFだけど、お情けでF貰ったと思えよ!」
「トギさん!」
冒険者ギルドをヘロヘロになって出たうどんは、泣きベソをかいていた。
「商人ギルド行かなくてよくない?
行くの止めよう?
ねー。」
「もー、頑張って下さい。
行かなきゃ私が怒られるんです!」
「やだー、行かない。
ポンコツでごめんなさい!」
「大丈夫ですってば、ねっねっ。」
往来で駄々を捏ねる中年とそれをなだめすかすマイエ。
いかつい体躯と風貌の男がマイエを見つけて寄ってきた。
「おめえ、マイエを困らせてるんじゃねえ!
いい年して。」
かなりのドスが聞いた声にうどんは怯えた。
「……。」
「商人ギルドに行ってくれなくて。」
「なんだ、そんな事かよ。」
うどんはその屈強な男に腰をひょいと持ち上げられて、商人ギルドまで運ばれた。
うどんは怖くて抵抗出来ない。
商人ギルドに着くと、屈強な男はうどんを下ろして去って行った。
商人ギルドの建物に入ると、商人長のフクロはあいにく接客していた為、しばらく商人長室で待たされた。
扉が開くと、フクロと給仕の若い男が入って来た。
若い男は温かそうに湯気が立つカップを3人の前に置き、静かに部屋から辞去した。
「申し訳ありません。お待たせしました。
温かいうちにお茶をどうぞ。」
うどんは震える手でお茶を飲んだ。
「うどん様、お元気無いですね。
どうしました?マイエさん?」
「実は冒険者ギルドで…、カクカクシカジカ…。」
「なある、それで…。」
放心しているうどんをチラリと見た目に、少し蔑みの色合いを帯びたが、フクロは直ぐにその表情を笑みで隠した。
「大丈夫ですよ、うどん様。
商人ギルドに登録なさいますか?」
「登録する為に連れて来られたんでしょうから、
出来れば、可能ならば、登録します。」
「商人ギルドは冒険者ギルドと違ってレベルは取り引き金額ですよ。
入会金は皆さん一律同じ金額を払って頂きますが。」
「入会金は銅貨50枚です。」
マイエが言いながらテーブルに50枚の銅貨を出した。
「ではこれを」
フクロが商人ギルドのカードをうどんに差し出す。
「取り敢えずランクFのカードです。
商人ギルドとの取り引きが増えると、金額に応じてランクも上がりますからね。
今後のうどん様の活躍が楽しみです。」
フクロが揉み手しながら話す。
「マイエちゃん、そのお金は誰が出したの?」
「ロフ様ですよ、と、言いたい所ですが、
ロフ様は今朝寝坊されたので、まだ今日はお会いしてません、
なので、それは私のお金です。」
「えっ!悪いよそれは!登録は今でなくてもいいんじゃない?」
「フッフッフ、私はラッキーだと思ってます。
だって、マイエがうどん様の金主って事なら、今後うどん様が生み出す利益で私にも分け前が少し入ってくるという事なので。」
ペロリと舌を出すマイエがかわいい。
「まー、マイエちゃんがそう言うのなら。」
フクロが簡単に説明してくれた事によると、
商人ギルドに持ち込める物は、武器・防具・魔法道具以外の全てとの事だ。
畑で採れた野菜から、狩りで仕留めた動物、宝石、服に服飾品等多岐に渡るという。
(戦闘に係わる物以外は全部商人ギルドって事かな?)
と考えると納得出来た。
フクロに別れの挨拶をして商人ギルドを出る。
「任務完了!
では、お屋敷に戻りましょう。」
マイエに促され、二人は屋敷に帰る道を辿る。
途中に食べ物の屋台や、食堂、道具屋、服屋、八百屋、肉屋等、様々な店があって、うどんが見た事無い品ばかりで、歩くだけでも楽しい。
「お金持って無いから、何も買えないか。」
と呟くと、マイエが答えた。
「お屋敷に戻ったら、きっとお金貰えますよ。
依頼の案件の前金が出ると思います。」
「そうだった、報酬が出るって話しだったねぇ。」
「はい!」
「さっき通った屋台の料理が良い匂いしてたからさぁ、報酬貰ったら買って食べたいよ。」
「その内、スワンの美味しい料理、全部食べちゃいましょう。」
「うん、是非。」
物陰にひっそり集まる4人。
「移動中を陰ながら護衛すると、見失ったり離れ過ぎたりで、護衛の役目に不安があるな。」
「そうだな、建物の中に居てくれてる間は、護衛し易いな。」
「それは不審者が建物の中に居なければ…、って条件でだろう?」
「我らの気付かぬ間に隠れて入りこまれたらマズイな。」
「離れた護衛方法のままでは、襲撃者に二歩も三歩も遅れを取りそうだ。」
「うどん様の傍にせめて一人は配置せんとな。」
「しかし、衛兵隊にしても、自衛団にしても、どちらも目立つ。」
「だな、甲冑を脱いで平服だとしても、町衆は我らの顔を知ってるしなぁ。」
「どうする?」
「仕方ない、ロフ様含め上に相談するか。」
うどんとマイエが領主館に戻ると、テイが待っていた。
「両ギルドに入会出来たかい?」
「はい、無事に。
ただ、うどん様のレベルが1なので、トギさんがうどん様を小馬鹿にしてしまって…。」
「あいつ、脳筋だからなぁ。
まっ、うどん様にはレベルどうこうは必要無いかもしれないし。」
「そうなの?」
「とは言っても、川向うに渡ったら影の護衛は居ません、
自分の身は自分で守らなければいけませんので、それなりに装備は必要です。
隣の部屋に準備しました。」
3人で隣の部屋に移動すると、うどん用に準備された装備類が机に置かれている。
革の帽子、革の胸当て、膝下迄あるブーツはうどんにも見て分かった。
「これは?」
革製の物を指差す。
「それは手甲です。」
こうやって、と言いながらテイが着け方を教えてくれる。
「武器を幾つか用意しました。
どれにするかお決め下さい。」
机に並べられているのは、一昨日見たのと同様の片手剣と盾のセット。
片手剣より長くて重そうな両手剣。
大きい斧。
直刃の槍。
反り刃の槍。
見るからに魔法の杖。
見るからに僧侶の杖。
「俺、腕力が無いから、剣も斧も使えないと思う。」
と言いながら、直刃の槍を持ったが、腰がフラフラする。
これを振り回すのも無理そうだ。
仕方無く魔法の杖と取り替えてみる。
「あっ、ダメですね。じゃあこっち。」
テイはうどんが魔法の杖を持った途端に、魔力がない事に気付いたらしい。
うどんが僧侶の杖を持った途端に
「こっちもダメか…。」
「どうしましょう?」
武器選びの様子を見ていて不安になるマイエ。
「どうしようか…。」
「奥から軽い武器を持って来る、ちょっと待ってて」
言いながらテイは奥の扉から出て行った。
戻って来たテイが持って来たのは、刃渡り30センチ程の鞘付きナイフ、と作業用と思われる小型の斧、棍棒。
うどんはそれぞれ手に持ってみた。
これらならどれも使えそうだ。
攻撃力はとても低そうだけど…。
「気休め程度だなぁ。」
「テイさん、心の声が漏れてます。」
「スライム以外は逃げるしかない。」
「テイさん、聞こえてますって。」
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