第1-2話 自宅裏の竹林で、異世界へ落ちてしまった
「えー?俺が伝説の勇者?」
(どゆこと?)
(浅い川を渡っただけなのに・・・)
(靴を濡らしたくなくて、裸足で歩いて失敗したなぁーって思ってたダメ男なのに)
「家に来て下さい」
「みんなにあなたの事を伝えないと!」
脇の下に両側から手を入れられて、立たせようとしてくる。
「ちょっと待って、靴を履くので」
「ハンカチどうぞ」
「足を怪我してますね、痛みますか?」
右足の親指と人差し指から血が出ている。
爪の近くの皮膚がべろりと向けている。
靴を履いたが、怪我している右足は踵だけで歩く。
土手を登るとき、女のコ達に手を借りた。
(まー、絆創膏を貰って貼れば大丈夫だろう)
土手の向うの林を抜けた所に、集落が広がっていた。
どれも石作りの、頑丈そうな建物だ。
日本なのだろうか?
見た事無い建物群だ。
まるでテーマパークの様な。
ただ、テーマパークとの違いは生活している気配がある事か。
日の当たる場所に洗濯物があり、建物脇に家庭菜園もある。
進むに連れて、人が集まってきた。
物凄くウエルカムな視線を感じたり、戸惑いの視線を感じたり。
両脇の女のコは、興奮と誇らしげな顔付きをしている。
自分が何処へ来てしまったのか、不安はあるけれど、身の危険を感じないのは二人のお陰かと思う。
「私の父と母です」
最初に出会った女のコの家に着いたらしい。
玄関にご両親が待っていた。
やはり母、体型も細くて、顔立ちも良く似ている。
「マノウと申します。
これは妻のエスタ、川を渡って来られたと聞いてます。
足を怪我されてますな、中へどうぞ。」
「仲田と申します。お邪魔します。絆創膏を貰えますか?」
「私、マイエと言います。すみません、名乗るのが遅れてしまって」
「私はケイ!父ちゃんと母ちゃん呼んでくる」
最初に出会った女のコがマイエ、二人目がケイか、ケイが駆け出していく。
家の中に入り、玄関が閉まる時外をちらりと見ると大勢人が集まっていた。
俺を見に来たらしい。
マノウさんと私は向い合せでソファに座った。
「外から来た人間が珍しいんですかね?」
と、玄関を指差す。
「いえ、外から訪れる人は珍しく無いですよ。
ただ、川向うから人が来たのは、おそらく300年振りです」
エスタさんが私の前に片膝をつき、怪我をした右足の爪先に、両掌を翳した。
掌から淡い青い光が出て、怪我した部位がヒンヤリした感覚に。
「えっえっ、何ですかこれ?!」
「回復魔法ですよ、ご存知ない?」
と、エスタさん。
マイエ、マノウ、エスタの三人が意味ありげに目配せする。
「回復魔法?魔法?えっ、魔法?」
「はい、右足治りましたよ」
傷口が跡形もなく消えている。
ズキズキしていた痛みも消えている。
「ナカタ様、先程バンソウコウ?を欲しいと仰ってましたが、バンソウコウとはどんな物です?」
「えっと、傷に貼るテープで、それを貼っとくと一週間位で治るんです。
そんな、一〜二分で怪我が治るなんて、マジですか…。」
エスタさんが腕と首の切り傷にも回復魔法を施してくれた。
すべての傷が10分程で治ってしまった。
「回復魔法、始めて体験しました。
傷を直して頂きありがとうございます。」
(回復魔法って、ヒンヤリして気持ち良いんだなぁ)
「ナカタ様は、魔法使えませんか?」
不安そうな顔でマイエに問いかけられた。
「はい、魔法使えません。
私だけじゃなく、私の世界では、全員、魔法使えません。」
マイエとケイは、俺を伝説の勇者様だと言っていた。
失望させるが、嘘はいけない。
「父ちゃんと母ちゃん連れてきたよ!」
ケイが勢いよく玄関から入ってきた。
両親を家に入れて、素早くドアを締めかけて、顔だけ外に出し
「後でちゃんと説明するから!一旦皆帰って!お願い!」
そしてドアを締め、鍵を掛けた。
「ケイの父のヤモです。妻のケイラです。」
声が少し裏返っている。
此処まで急いで来たようで、二人とも息を弾ませている。
ヤモさんは制服らしき服を着ている。
きっと警察官だな。
ケイラさんは私服だけど、几帳面そうだ。
「んー、どうやら迷子の仲田です」
ポリポリと耳の後ろを掻く。
エスタさんが皆の前に、淹れてくれた紅茶を無言で置いていく。
「私から、いくつか質問していいですか?」
ヤモさんが言う。
「川の向こうでまずマイエと会ったそうですが、その前は何処から?」
「竹藪に穴があって、気付かずにその穴を落ちたんですよ。
頭を打って暫く気を失ってて。
気付くと河原に。
でもおかしいんですよね、竹藪の穴で気を失ってたのに、誰かに河原まで運ばれて来たんでしょうか?
自分的には気を失ってた時間は4〜5分なんですけどね。」
「では、河原の土手の向こう側は・・・。」
「分からないです。見てないですね。
すみません。」
と、頭を下げた。
「謝らないで下さい。
ナカタ様が川を渡ってこちらに来た事は事実なんですから。
それは、我々にとって凄い事なんです。
川の水は温かいですか?冷たいですか?」
「川の水は冷たかったです。」
「川の水に入って、何か異常は出ましたか?
つまり、毒、の様なものとかは、感じましたか?」
「いえ、毒は感じませんでした。
無害なただの川の水だと思います。
そのまま飲めそうな位綺麗でしたし。」
「これは大事な質門なのですが。
もし、もう一度川を渡ろうと思ったら・・・、渡れますか?」
途中ゴクリと生唾を飲み込むほどの、質問らしい。
「渡れると思います。
次は靴を履いたままで行きますね。
怪我をしたくないので。」
と、俺が言うと、ガッツポーズや、手をつないで見つめ合う様な仕草が見られた。
「川に邪悪な気配の様なものも感じませんか?」
「はい、何も危険な感じはありませんでした。」
「これは、会議を開いて決める事になる事柄なのですが、
ナカタ様に仕事として川を渡って貰う依頼をした場合、
受けて貰えますか?
報酬はお支払い出来ると思います。
金額については会議を開いて決める事ですので、今はまだなんとも。」
「あの川を渡るのが、それほど難しい事とは思えないのですが、
報酬までいただけるんですか?」
(んー、分からない)
「皆さんが川を渡れないから、私が代わりにって事ですね。
皆さんが川を渡れないというのが不思議だし疑問なんですが。」
「魔道士カラが掛けた魔法で、我々が渡ると魔魚が襲って来ると言われてますし、
実際に襲って来たのを見たこともあります。」
「魔道士に魔魚?」
聞き慣れない言葉に、私は戸惑った。
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