第11-2話 竹藪の落とし穴を探すうどん
うどんは河原で考えている。
「こっちで倒した魔物って、持って帰れるのかな?」
顎の下を手で触って考える。
「生きてたら魔魚が襲ってくるけど、死んでたら?大丈夫?」
土手を登りながら、食べれそうな魔物なら戦ってみようかと思っている。
「もう、長剣いらないな。」
うどんが長剣を取りに戻ると、スライムはいなくなっていた。
長剣を肩に担ぎ、河原に持っていく。
草丈の高い場所を選んで、長剣を置いた。
「此処なら対岸からは見えにくいよね。」
土手を登り返す。
「よし!」
やるぞ、という気分で声を出した。
覆面を外してポケットに押し込んだ。
土手の途中から草原を見回して探すと、草が不自然に揺れている場所がある。
何かが居るようだが、高い草に隠れて見えない。
クナイがギリギリ届きそうな距離だ。
(投げてみるか。スライムじゃありませんように。)
神経を集中して、放つ。
クナイが魔物に届くより前に、2本目のクナイを構えた。
「ピギっ」
魔物が草むらを右に奔る。
土手下に出ると、魔物の姿が見えた。
イノシシの魔物だ。牙が見事な大きさに発達している。
あの牙で刺されたら大怪我しそうだ。
うどんに気付いて突進してくる。1本目のクナイは胴に刺さっている。
ハチナイを見習って、眉間を狙ってクナイを投げた。
うどんの2本目のクナイは、見事に眉間に刺さったが、刺さりが浅いのか、少し速度が落ちたものの、そのまま迫ってくる。
3本目を投げたが避けられた。
「くそっ。」
鞘から短剣を抜く、盾を構えた。
魔物の衝撃、牙と盾が当たる音は不快な音がした。
1mくらい飛ばされたが、イノシシの魔物を盾でうまくいなした。
魔物は横を走り抜けていき、反転して、身構える。
魔物の闘志が膨らむのが分かる。
クナイを構えた。
突進してきた。
今度はクナイを目を狙って投げた。
左目に刺さる。
魔物が吠える。
突進は止まらない。
うどんは良い案がひらめいて、棍棒を持った。
手を前に出して盾を軽く持ち、小さくなって盾の陰に身を隠すようにする。
盾が小さいから、全身は隠れないけど。
魔物が盾を弾き飛ばすと同時に、棍棒を横殴りに振った。
狙いは眉間に刺さったクナイを棍棒で叩いて深く刺すこと。
左手の盾は手から離れ、右手の棍棒はクナイを上手く叩けた。
走りすぎた魔物は、反転しようとして横ざまに倒れた。
「よし!」
短剣を抜いて駆け寄る。
心臓と思える場所を刺すと、動かなくなった。
「ふーーーー。」
(そう!血抜き!)
分からないなりに、首筋を短剣で切った。
後ろ足を持って、お尻側を土手側に上げる。
重い。首から出た血が地面に溢れ、滲みていく。
「ひとまず。」
クナイを全て回収し、盾を取りに行く。
イノシシの魔物の元に戻ると、スライムが首から流れ出た血を吸っていた。
「血だけならいいぞ~。」
とスライムに声を掛ける。
さっきと同じスライムかどうかは分からない。
体当りされるのを警戒して、スライムに盾を向けて草むらに座った。
初めて魔物を倒した。
コボルトの時はハチナイお師匠が居て、俺が倒したとは思えない。
マイエも居てパーティの安心感があった。
今回は全部一人。
「以外に冷静に出来たなぁ、俺。」
スライムは血を吸うと満足したのか、草むらの向こうへピョコピョコプルプルと去っていった。
「重いよな、このイノシシ、どうやって運ぼう・・・。」
かなりの高度の上空に大鷲が飛んでいる。
旋回しているので、鳶かもしれない。
(でも鳶って、あんな高さで旋回したっけ?)
ふと、そんなふうにうどんは思ったが、職人がうどんを呼んでいる声がする。
覆面を被ると、土手に上がって手を振る。
こちらの岸で作業をしていた若い職人の一人だ。
「こちらでしたか、うどん様。」
と、言いつつ、目で全身を確認された。
「怪我はしてないよ。」
笑って言う。
「すみません。うどん様の安全にも注意するようにと、言い遣ってるもんで。」
ポリポリと職人が後頭部を掻く。
「今日の作業は終わりました。街へ帰ります。」
うどんはふと、思った。
(櫓で渡すか。)
「悪いけど、一緒に魔物を運んで貰えるかな?」
うどんが魔物を指さして言うと、職人が魔物を見てニヤリと笑う。
「インシリーですね。中々良いサイズだ。」
「へえー、この魔物インシリーって言うんだ。」
「うどん様の領地には居ませんか?インシリー。」
「そうなんだよ、ははは。」
(しまった、そう言えば、ロフ様の縁戚で他領から来た事になってるんだった。)
後ろ足を持って、
「そっちを持ってくれる?」と前足を持つように促すと、
「大丈夫ですよ、これぐらいなら。」
と、職人は一人で後足を持って背負ってしまった。
(そうなんだよ、こっちの世界はこの位の力持ちは普通なんだよ。50kgは越えてると思うんだけどな。)
うどんは、長剣を取りに行って、職人を追いかけた。
職人は手際よくインシリーの4本足を縛って、櫓のロープを使ってあっという間に向こう岸へ渡した。
「流石だ、仕事が早いねー。」
「そうですか? ありがとうございます。冒険者ギルドに運んでおきますよ。」
「ありがとう、助かるよ。」
職人がするするとロープを伝って対岸へ渡ると、こちらの岸、ニューランド側はうどん一人になった。
街側の岸には、まだ職人も複数居るし、自衛団も居る、中にはお師匠のハチナイも居て、見つめられていた。
ハチナイと目があって、うどんは両手で大きく丸を作る。
(元の世界へ戻る手掛かりは見つからなかったけど、怪我もなく、無事にいるのだからやっぱり丸だ。)
ハチナイもうどんを真似て、同様に丸を作って答えた。
土手にいるマイエの元に、母のエスタがやってきた。
離れているが、うどんとハチナイの丸の遣り取りが見える。
それを親子で並んで見ている。
「良かった、うどん様ご無事そうね。マイエもホッとしたわね。」
「うん。」
「日没まで居るつもり?」
「ダメ?」
「うーん、ダメって言いたいところね。」
エスタが腕を組み、娘の表情を見る。
「ハチナイ様と一緒に居なさい。
この辺りは人通りが無いから、心配なのよ。
これから日が暮れるし。」
「分かった! ありがとうお母さん!!」
とハチナイの元へ駆けて行く。
その様子にハチナイが気付いて、エスタに会釈した。
エスタも会釈を返しながら
「お願いします、ハチナイ様」と呟いた。
これから日没。初めての川のこちら側、ニューランド側の日没はかなり怖い。
魔物が出ても、うどん一人なので、助けは来ない。
自力で切り抜けるしか無い。
土手の近くから離れないようにしなければ。
とは言え、街側から見える位置に長時間居るのは良くない。
領主ロフや、街の幹部の面々の顔が浮かぶ。
皆が入念に準備をしてきたのだから、うどんもそのやり方に従わなければ。
うどんは街側から見えない位置に、櫓の下の土手に降りた。
元の世界へ戻る手掛かりを探していた時間は、街から見える位置に居るのは仕方なかったが、今日のところはもう見つからないと諦めている。
きっと、何かの条件が満たされないと、元の世界へは帰れないのだろう。
それがどんな条件かは分からないけれど・・・。
誰かがうどんを呼ぶ声がする。
脳に直接声が聞こえる。
最初は小さかった声が、徐々にはっきりと脳に響き出した。
「うどんよ、うどんよ、うどんよ。」
周りを見回すが、何が自分を呼んでいるのか分からない。
ニューランド側に人が住んでいるとは思えない。
それに、耳でなく、脳に直接響く声。
(テレパシーなのか?)
「土手の前の草原に出ろ。」
敵意は感じないが、怖い声、意志の強さを感じる声。
(嫌だと言ったら?)
通じるのかな?と思いながら、頭で念じてみた。
「そこだと櫓が壊れる。だから草原に出ろ。」
櫓を壊されては堪らない。
渋々、草むらの中を進んで、櫓から離れた。
突然、真上の空から大きなモノが降りてきた。
うどんは身の回りの草むらを突然覆った影を見た。
強い風が起こる。
大きな羽音をさせて、巨大な黒い大鷲が目の前に現れた。
「ひいいいーーーー。」
3階建ての建物程もある大きさの、黒い大鷲の着地時に、巻起こった風に飛ばされたモノが舞う。
拳サイズ以下の石も吹き飛ばされ、それが頭部に直撃した。
うどんは気を失って倒れた。
大鷲が大口を開けてうどんに覆いかぶさる。
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