第22話 うどん 着ぐるみを着る
うどんがインシリーの着ぐるみを注文した翌日。
領主館の食堂。
ハチナイが、インシリーの着ぐるみを剥製屋から受け取って、領主館に来た。
20歳位の女の子を伴っている。
背が低い、ハチナイと同じくらいの背丈だ。
「このコをポーターで雇いたいと思います。」
「サッシーです。よろしくお願いいたします。」
可愛く頭を下げる。
「うどんです。
ドワーフ?ですか?」
「はい!
ドワーフ族です。」
「へえー、ドワーフ族の方には初めて会いました。」
(ドワーフは男性も女性も毛が濃いイメージだったけど、全然普通だな。)
「力の強さは、わしが保証しますでな。」
「それと、インシリーの毛皮です。」
ハチナイが大きな袋に入った物を渡す。
「お師匠、遠回りさせてすみません。」
「なんの。」
「部屋で着てきます。」
うどんは袋を抱えて自室に戻った。
食堂にユニが出て来て、
「ハチナイ様、おはようございます。
いつもの様にコーヒーで構いませんか?
そちらの方は飲み物はどうしましょう?」
「おはようユニどの、わしはコーヒー、このコには果実ジュースを頼めますかな?」
「承知しました。」
ユニが厨房へ向かう。
ユニが厨房からコーヒーと果実ジュースを運んで来て、テーブルに置く。
うどんがピンクのインシリーの着ぐるみを着て食堂に現れた。
ピンクの耳のカチューシャも着けている。
座っていたハチナイも、サッシーも思わず立ち上がった。
ユニが硬直する。
次の瞬間、ユニとサッシーがうどんに駆け寄る。
「ナニコレ、ナニコレ!」
「カワイイ! 凄くカワイイ!」
二人が騒いだので、何だ何だと、他の行儀見習いや召使い、厨房のシルさん迄出て来た。
うどん、女子たちに取り囲まれる。
歓声を浴びて、幾つかポーズを取るうどん。
その度にキャ~と歓声が上がる。
(めっちゃ受けてるなぁー。)
うどんが思ったより、予想以上な好感触に驚いた。
あまりの騒ぎに衛兵隊が何事かと確認に来る。
そして、着ぐるみの可愛らしさに、これは報告せねばと、ロフの執務室に走る衛兵隊員。
領主ロフと秘書官のテイが食堂にやって来た。
「ロフ様ロフ様!見てみて!」
とメイド達が手招きする。
「ナニコレ、可愛いー!!」
と、ロフがうどんに抱きついた。
スリスリする。スリスリスリスリする。
「私も!」
テイも抱きついて、スリスリする。
私も私もと、取り囲まれたうどんだった。
存分にスリスリして、メイド達がそれぞれの持ち場に帰っていった。
食堂には、ロフ、テイ、うどん、ハチナイ、サッシーの5人が残った。
「うどん様には驚かされてばかりですよ。」
ロフが感心する。
「どこで作ったんですか?」
テイが毛並みをナデナデしながら聞く。
「街の剥製屋です。」
「剥製屋、確かナナが結婚した商人が剥製屋でしたよ、ロフ様。」
「はい、昨日、若女将のナナさんにお願いして、作っていただきました。
お知り合いなんですね。」
「去年まで、ここで行儀見習いをしてたんですよ。
よく、知ってます。」
「ロフ様、久しぶりにナナに会いたくなりましたねぇ、呼びましょうか。」
テイもニコニコ顔だ。
「手が空いてる時に来てって、連絡しておいて、テイ。」
「承知しました。」
「これ、当然うどん様の発案ですよね~。」
テイが少し悪い顔をして言う。
「はい。」
「これ、ナナの事だから商品として、売り出すでしょうねー。」
「そう、言ってましたね。」
「やっぱり、ちゃんとマージンが入る様に取り決めたんでしょうねー。」
「はい、まあ。」
「何%?」
「テイ、それは聞き過ぎです。」
ロフに、悪いテイが釘を刺される。
「すみません。
でも、これいくらで買ったんです?」
「えーと、えーと、ナナさんがこの商品をいくらで売る積もりなのかを聞いてないので、なんとも答えられません。」
「ちっ、うどん様、手強いな。」
「テイなら、いくらなら買い?」
ロフがテイに聞く。
「そうですね、見てこれだけテンション上がるから、銀貨18枚なら出しますね。」
「客引き用に、商店の前にこれ着た人が居たら、人が集まりそうです。」
サッシーが言う。
「商売に効果的なら、商人は銀貨25枚でも買いそうな気がしますね。」
テイがサッシーの言葉を聞いて、金額を訂正する。
「マジックレスマントに続いて、この商品。
うどん様はスワンの街に活気をもたらしてくれる、特別な人材だと心から思います。」
ロフが熱意のある眼差しで言う。
「た、たまたまです。」
「そんなうどん様が、明日、旅立たれるとは…。
寂しくなります。」
「それはもう、私も寂しいです。」
「ねえ、うどん様。
バイシク国の件が終わったら、例え大鷲に次を頼まれても、このセイショ国ラビナ領スワンに戻って来て下さいませんか?」
「えっ、そのお気持ちはありがたいですが。」
「いえ、貴方が生み出す商品を期待しての言葉では無いんですよ。
貴方は、貴方のいる場所で、きっと身近な人を幸せにするでしょう。
でも、それをほっとかない欲にまみれた者共も、引き寄せてしまいます。
スワンに戻って来て、静かにリセットする期間を設けませんか。
もし次があるなら、リセット出来た後で、また旅立てば良いのです。」
うどんの右手に、両手を重ねて話すロフ。
うどんの身を案じる気持ちが溢れている。
「ありがとうございます。
確かにそうですね。
スワンは私の心の平衡を保ってくれる場所ですね。
確かにそうだ。」
うどんがロフに、皆に頷いた。
ハチナイとサッシーが食堂を出ると、テイがハチナイを呼び止めた。
「ハチナイどの、ハチナイどのを刺した男が、自衛団の屯所を脱獄したと、報告が有りました。
仲間が居たみたいです。
申し訳ありません。」
テイが神妙に頭を下げる。
「今、自衛団で逃げた行方を探しています。」
「そうですか、もう油断しませんので、わしは大丈夫じゃ。」
「そうは言っても、また付け狙われるのでは?」
「うどん様と一緒にスワンを出れば、もう、わしらを探す事は不可能でしょう。
気にされずとも、良いですよ。」
「ハチナイどのなので、大丈夫とは思うが…。
脱獄に手を貸した仲間は、そうとうな手練れだとの事。
魔力を籠めた鉄格子がスパリと斬られていたらしい。」
「んー、それは、用心いたします。
隠れるが勝ちかもな。」
「スピードスターと、幻影のパーティのAランク剣士に、鉄格子を試しに斬らせたら、剣が折れて泣いたらしいです。」
「それは…、災難でしたな。
わしらは戦わずに逃げ回りますよ。
では、失礼する。」
「十分にお気をつけて。」
脇門を出て行くハチナイとサッシーを、テイが見送っている。
ハチナイとサッシーは、領主館を出て、街に向かって歩いている。
「ハチナイ様、パーティに誘っていただいて、ありがとうございます。
私、感動しました。」
「そうかい。」
「うどん様、ロフ様、とても良いヒューマンでした。
私、うどん様パーティのポーター、安心して努めれます。」
「こちらこそじゃよ。よろしくな。」
背の低い二人が、石畳を並んで歩いて行く。
午後、泣き腫らした目で、マイエが領主館の食堂にやって来た。
うどんとハチナイとの旅は、父のマノウ、母のエスタに反対されて、許可が貰えなかった。
何度も頑張って説得を試みたが、両親の首を縦に振らせる事が出来なかった。
悲しくて、泣いても泣いても枯れなかった涙が、うどんの着ぐるみ姿を見て、驚いて涙を忘れた。
マイエに気付いたうどんが、無言でコミカルな動きをして、マイエを歓迎する。
「うどん様、なんて可愛い。」
うどんがお尻をフリフリする。
マイエも真似してフリフリする。
一回転してバアをする。尻尾の動きも可愛い。
「なんて言ってお別れをすればいいのか、分からなかったのに。」
「マイエちゃんには、笑ってて欲しくてね。」
マイエが毛並みをナデナデする。
「朝からずっとこの格好してたら。女性陣に取り囲まれて凄かったよ。」
「想像できます!
これだけ可愛いと楽しくて興奮しますね。女子達は。」
「領民学校の子供達に見せたら、喜びそうじゃない。」
「絶対喜びますよ。
興奮して授業にならないかも。」
「子供には笑顔が必要だからね。」
「うどん様も、笑っていたいですもんね。」
「マイエちゃんもね。」
「バイシク国の件が終われば、スワンに帰って来ますか?」
「さっき、ロフ様にも言われたよ。
バイシク国の件が終わったら、必ずスワンに帰って来る。」
「じゃあ、うどん様の代わりに、私が時々、この毛皮を着て、子供達と過ごしますね。」
「これ、"着ぐるみ"って言ってね。
インシリーの剥製を加工して作って貰ったんだ。」
「インシリーなんだ。
耳も、とっても可愛い。」
「耳のこれ"カチューシャ"。」
はい、とマイエの頭にカチューシャを載せる。
「マイエちゃんカワイイ!!」
「もうー。」
「うどん様と私じゃ身長が違いますよ。
着ぐるみのサイズ、私が着て大丈夫かしら?」
「大丈夫、大丈夫、短足になって俺よりもっと愛らしくなるから。」
「短足?短足はやだなぁ。」
「そういうフォルムが愛らしさをアップするんだよ。着ぐるみって。」
「ええーー。」
物陰に隠れて滂沱の涙を流しているのは、衛兵隊の格好に身を包んだケイだった。
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