第21話 うどん 着ぐるみを注文する

ナカタ橋開通記念日の翌日。


領主館はざわざわしている。

来賓達がスワンの街を観光するらしい。

引率係のテイは大忙しだ。

観光のメインは、ナカタ橋と、ニューランドの鉱山である。

ニューランドの鉱山は、かってミスリル鉱石を算出していた。

来賓たちに鉱山の入り口くらい見せて、購買欲や関心を集めるのが目的らしい。


それらの観光組が出ていくと、静かになった。

昨日の式典も、お祭りも無事に終わったらしい。


うどんが食堂でハチナイを待っていると、観光組と入れ替わりにハチナイがやって来た。


「おはようございます、うどん様。

賑やかなグループとすれ違いましたが。」


「おはようございます、お師匠。

そのグループは、昨日の来賓の方々ですよ。

皆さんで観光に行かれました。」


「ほぉ。」

「ニューランドの鉱山まで行かれるとか。」


「それは、わしも行ってみたい。」


「冒険者が殺到しているでしょうね。」

うどんが苦笑する。


「では、出掛けますかな。」


「行きましょう。」


領主館を出て、森へ行く。

二人はケヤキの様子を見に行く。


昨日、ケヤキを脱獄させてから、森へ連れて行った。


ケヤキは、思いの丈を発散するように長い事叫んだら、とても落ち着いた様に見えた。

とはいえ、ハチナイを見る眼差しには、明らかに殺意も敵意もこもっている。

それでも、うどんの言う事には渋々従う気がある様だ。

なので、食料と野営装備を渡して、迎えが来る迄、森に隠れているように指示をした。


さて、うどんの指示を守って、昨日の森に居るのか?

それとも逃げ出したか。


昨日の場所に行くと、ケヤキは居た。

炊煙を上げて食事していた。


「おいおい、見つかるかもしれんじゃないか。」

ハチナイが心配そうに言うと。


「ふん、見つかったらこのパーティを離脱出来る。」

と、無愛想に返事する。


自分からパーティを抜ける積もりは無いらしい。

いや、出来ないのかもしれないが。


「これから街に行くんだ、

ケヤキさんは連れて行けないが、必要な物が有れば買ってくるよ。」

うどんは努めて優しく言う。


「特に無い、が、俺の装備は全て自衛団に取り上げられて何も無い。」


「分かった、ケヤキさんの分も旅の支度を整えるよ。」


ケヤキと別れ、うどんとハチナイは街に出る。


武具屋で足りない武器と防具を揃え、道具屋で旅に必要な道具類を揃える。

武具は冒険者ギルドで、

道具類は商人ギルドでも買えるのだが、ケヤキの分の装備類も買うとなると、普段の付き合いが無い店で買うのが、安全と思った。


殆どの買い物が済んで、最後に商人ギルドに寄る。


うどんとハチナイを見て、フクロが駆け寄る。


「うどん様、ハチナイどの、バイシク国へ旅立たれるとか…。」

今朝、街の幹部には、領主ロフから、うどんのバイシク国行きが通知されている。


「はい。それが、抗えない運命の様です。」


二人が背負った大荷物を見て、フクロは溜め息をついた。


「あの、着ぐるみが欲しいのですが…。」


「着ぐるみ?

何ですかそれは?」


上手く説明できないが、うどんはフクロに自分が欲しい物を伝える。


「うどん様が欲しい物かどうか分かりませんが、魔物の剥製屋は有ります。」


フクロがくれたメモに、剥製屋の場所が書かれていた。



うどんとハチナイは剥製屋を探して歩く。

「重い…。お師匠、すみません。

疲れました。」


「どこぞで、休憩しますかな。」


ベンチを見付け、二人は座った。


「んーー。うどん様、バイシク国へは長い道のり。

荷物も多くなるので、かなり難儀しそうですな。」


「山道を歩くんですよね。

荷物を背負って。」

(うあー、前途多難だ。俺の体力持つかな。)


「ポーターを雇うか、仲間にするか、どちらにしても、ポーターが必要そうですな。」


「ポーター?ですか?」


「ポーターは荷物持ち係ですな。

一般的には、力は強いが、戦闘能力が低い者がポーターを仕事にしています。」


(なるほど、マジックバッグもアイテムボックスも無いから、ポーター職は商人にとっても、冒険者にとっても必要な職種なんだね。)


「魔物との戦いで勝つには、瞬発力が必要ですが、ポーター職に就く者は、言い方は悪いが、ノロマな者が多いのです。」


「うどん様も、おいおいパワーアップするでしょうがな、この世界に来て日が浅く、重い荷物は持てなさそうですな。」


「………、すみませーん。」


「わしに心当たりが有るが、雇っても構いませんか?」


「お願いします。お願いします。」

(助かります。お師匠。)


ベンチで休憩後、剥製屋を見付けて店に入った。


剥製屋は、ヒップリー位の小さい魔物から、大きい魔物迄、色んな種類の魔物を置いている。

一番大きいのは、うどんの2倍程の大きさのミノタウロス、頭が天井に付きそうだ。

それを見て

(ううわ、ミノタウロス怖!)

腰が引けたうどんだ。


「いらっしゃいませ。」

可愛い女性の店員さんが声を掛けてきた。


「ご希望の魔物がございますか?」


「わたしと同じくらいの背丈で、まるっこい魔物はありますか?」


「?」

店員の顔がハテナになる。


とはいえ、店員さんも仕事なので、ハテナながらも魔物を紹介してくれた。


「このインシリーなら、ご希望に近いと思いますが、いかがですか?」


「確かに、このインシリーならサイズ感が良いですね。」

猪系の魔物のインシリーは、体系がまるっとしている。


「加工とか出来ますか?

頭を外したり、手足の先を切ったり。」


「はい?

出来ますけど?

調度品としてのご利用では無い?

という事?でしょうか?」


(うわぁー、店員さんの?が凄く多い。ゴメンネー。)


そこで、うどんはインシリーの剥製の使い方を店員さんに説明した。


「ステキです!

魔物の剥製をそんな風に利用するなんて、今まで考えもしませんでした!」

店員さんの目が輝いている。


「ハハハ、なので、色を塗りたいのですが、ピンク色とかに出来ますか?」


「ちょっと職人に聞いてきます。

少しお待ちを。」


店員さんはパタパタと奥に消えていった。


職人を連れて戻って来た。

あらかた説明は店員さんから聞いたらしい。


「色を塗る、うんぬんの前に、お客さんのご要望に沿って、加工してもよろしいですか?

インシリーの剥製の買い取りって事で、

剥製代をいただかないと、加工出来ませんや。」


「勿論です。お金は払いますよ。お金はここに持ってます。」

うどんはパンパンに膨らんだ金袋を見せた。


店員さんに伝えた希望を、もう一度職人さんに伝える。


「分かりやした、お時間はあまり掛かりませんので、奥で作業してきます。

少しお待ちを。」

職人はインシリーの剥製を奥の工房に持っていった。


30分ほど待つと、職人が剥製を持って戻って来た。

「こんな感じで、どうです?」


「では、着てみますね。」

うどんはインシリーの剥製を着てみる。


顔はうどんで、体はインシリーの着ぐるみである。


「可愛い!!」

店員さんがぴょんぴょん跳ねる。

職人もハチナイも、目を丸くする。

うどんも満足している。

思い付きでやってみたら、見事にハマった。


「この剥製をピピ、ピンクに塗ったら、可愛さ5倍増しですね!

タタキさん!

塗れますよね!

ピンクに!」

店員さんが凄い圧で職人に詰め寄る。

職人さんはタタキという名らしい。


「若女将、ピンク色はやった事が無いが、茶色やら黒やらは普段から着色してますんで、大丈夫だと思います。

問屋にピンクの染料があるか確認しないと。」


「すぐに確認して頂戴!」


「分かりました。

問屋までひとっ走りしてきます。」

と職人が店を駆け出して行った。


(店員さんかと思ったら、若女将だったのね。)


「申し遅れました、この店の若女将のナナと申します。」


「うどんです。

私のお師匠のハチナイ様です。」


椅子に掛ける様に勧められて、お茶を出してくれた。


「お腹の開口部は、留め具で付け外しが出来る様に致します。

袖口、首周りはステッチを施して、裂けにくい加工もしますね。

他にご要望はありますか?」


「インシリーの耳をカチューシャにしたいです。」

うどんはカチューシャの形状を若女将に説明した。


「さらに可愛さアップ!」


「うどん様、婦女子の萌ポイントを熟知してませんか?

あなた何者なのですか?」


「いやーー、ハハハ。」

(元の世界でも着ぐるみは人気だったもんなぁ。)


「うどん様、これは売れます!

若女将の私の感がピンピン反応してます。

真似して売り出して構いませんか?

勿論、売れた分のマージンは、うどん様にお支払いいたします。

どうか、どうか、お願いいたします。」


「ええー、このアイデアで良いなら、

お使い下さい。ハハハ。」


「マージンのパーセンテージは……。10%で、どうでしょう!」


うどんは正直、その手のパーセンテージの妥当な線が分からない。


隣からハチナイが、

「若女将。」

と、声を掛けた。

若女将とハチナイが見つめ合う。

「では15%」

「……。」


まだハチナイと若女将が見つめ合う。

「くっ、20%」


「うむ。」

ハチナイが頷く。

プハーと、若女将が

大きく息を吐いた。


「うどん様、商人ギルドカードを。」

ハチナイに言われて、うどんはギルドカードを若女将に出した。


「プラチナカード!!」


「貴族様ですのでな。」


マージンの振り込み先として、ギルドカードを登録した若女将だった。


職人が戻って来た。

「ピンク色有りました。」

と手に持った染料を見せる。


「すぐに加工をお願い!」

「へい!」


「いつお渡し出来る?」

「加工も色塗りも今日やりますんで、

染料は明日の朝には乾きやす。

明日の朝、お渡し出来ますぜ。」


「タタキさん、お願いね。」


「ナナさん、料金はお幾らですか?」


「剥製代と、加工賃と、染料代と、染付の手間賃。カチューシャ代。

うどん様、銀貨8枚頂きます。」


「では、銀貨8枚。」

うどんは銀貨を手渡した。


立ち上がると、うどんは若女将ナナに抱き締められた。

そのまま、潤んだ瞳で見つめられながら、

「今後とも末永く、よろしくお願いいたします。」

と言われた。

タジタジになりながら、

「はい。」

と答えるうどんだった。


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