第20話 うどん 犯罪をお手伝いする
ナカタ橋開通記念式典が始まろうとしていた。
うどんとハチナイは群衆の外側で、式典が始まりそうな気配を感じていた。
人が多く集まっていて、式典会場までは遠い。
魔法道具なのだろう、拡声器で音楽が流れ、司会が式典の開始を告げた。
領主ロフや、来賓の貴族及び貴族の代理人達が土手に上がり、紹介されていく。
挨拶等の進行が続き、
領民学校の生徒達が土手に上がった。
全員で歌声を披露する。
その歌声の清らかさに、うどんは涙を流した。
自分でも、突然涙腺のスイッチが切れたのが不思議だった。
子供達は未来への宝物だな、と思う。
目を閉じて、歌声の中に自分の子供の歌声を聞き取ろうとした。
マジックレスマントを着た子が30名居る筈だ。離れているから、うどんの位置からは数えられない。
マントの数より、子供達の数が多い。30着では足らないので、マントは交換しながら3〜4回使い回して、橋を体験する予定だ。
神官が、群衆の前で吊り橋を真ん中まで移動した。
人々が初めて目にする、人が川の上に居る光景。
群衆全員がどよめいた。
歓声が上がった。
拍手が沸き起こった。
神官が女神に祈りを捧げながら、
米を撒き、
御神酒を撒き、
紙吹雪を撒いた。
歓声がまた湧いた。
神官が岸に戻ると。
ロフをはじめ来賓の番。
子供達の番。
緊張した顔もいれば、笑顔もいるだろう。怖くて泣いてる子はいないだろうか…。
ハチナイに袖を惹かれた。
二人で式典を離れる。
向かうは自衛団の屯所だ。
街の人々は、ほとんど式典会場に行っていて、街は静寂に包まれている。
自衛団の屯所をそっと覗き込むと、3人の自衛団員が、暇そうに座っている。
ハチナイが自衛団員に、小石を3人分同時に投げた。
小石に何の属性を纏わせたのか、うどんには不明だが、強くもない小石が当たると、3人とも気絶した。
小石を回収して屯所を奥に進み、また1人気絶させた。
階段を降りると、幾つかに仕切られて牢があり、ケヤキが居た。
ケヤキ以外に入牢している人間が居ないのが幸いだった。
打ち合わせた通り、真っ先に、
「俺のパーティに入ってくれ。」
と言った。
また、真上から、何か矢の様にも見えるエネルギー的なモノが、スコンっと入ったのが、見えた気がした。
ケヤキはポカンとしたまま、ハチナイとうどんを交互に見ている。
声を出すなと身振りで合図して、
ハチナイが一本の鉄格子に、短剣を2回振るった。
キンっ、キンっと高い音がする。
上部と下部が切れた鉄格子の鉄を、床に落ちる前にハチナイが掴む。
「迎えに来たぞよ。」
小さな声で言ったハチナイが、慈愛に満ちた眼差しをした気がして、うどんは不思議に思った。
ケヤキは素直に付いて来た。
街を抜け、森に入る。
誰にも気付かれない森の奥で、3人が立ち止まった時、
ケヤキが
「うわぁーー!!」
叫んだ。
精一杯胸に溜めたモノを、吐き出す様な叫びだった。
うどんとハチナイは、ケヤキの気が済むまで叫ばせていた。
マイエは、ナカタ橋開通記念式典会場で、子供達のお世話に追われていた。
さっき子供達と一緒に歌った歌は、あの人に届いただろうか。
マジックレスマントに身を包み、
紙の兜を被ったり、
花飾りを被ったり、
紙で作った剣を紐で襷掛けしてる子。
魔法の杖を襷掛けしてる子。
怖がる子も、生き生きと目を輝かせてる子も、どの子も可愛かった。
14〜5歳の歳上組は頼れる存在だし、マイエをとても助けてくれた。
領民学校の校長である、父のマノウと目が合った。
父は嬉しそうに微笑んでいた。
式典の間中、マイエの首の涙型翡翠が仄かに光っていた。
日中だから、マイエにも他の人にも光っているのは見えていないけれど。
式典が終わり、
待ちかねた冒険者パーティが、ナカタ橋を渡ってニューランドへ、続々と渡って行った。
男も女も、見目好い冒険者が渡る時、大きな歓声が上がった。
マジックレスマントを着た冒険者も多数いる。
通行料の1人銀貨20枚。
銀貨容れの箱が、2箱3箱と積み上がっていく。
ナカタ橋管理組合の集金係も、大忙しである。
自衛団が橋の周りで警戒している。
警備中のヤモとヤス親子の姿があった。
式典後は祭りに移った。
川に近い広場に沢山の屋台が出ている。
どれを食べるか悩むが、全ての屋台を食べるのは不可能だ。
音楽が流れ。
大道芸人がパフォーマンスを繰り広げている。
ナカタ様の活躍を紙芝居にしている者もいて、その紙芝居には子供達が群れていた。
子供達は、今日の式典で橋を体験出来たのは、ナカタ様の発案だと聞いて、知っているから。
「通行料の1人銀貨20枚は、私が払うので、子供達に橋を渡る体験をさせて下さい。」
と領主ロフ様に掛け合ったと聞いている。
感動した領主様は、随分金額をまけてくれたそうだけど、それでもナカタ様が驚くような大金を払ったのは間違いない。
マントまで用意してくれた。
領民学校の生徒全員で、感謝の歌を歌ったけど、聞いてくれたかな?と紙芝居を見ながら思っている子がいた。
ザカの居酒屋。
祭りの喧騒を離れ、神官と神職達が慰労会を開いている。
神官が号泣している。
呑み過ぎている様だ。
「こんな、こんな名誉な事は無い。
領主ロフ様を差し置いて、
私が、私が一番先に橋の上に立ったのだよ!
こんな名誉な事は無い。
ナカタ様ーー。」
もう、同じ言葉をさっきから何度も繰り返している。
ザカもカヤも、他の神職達も困り顔だ。
「怖かったーー、
女神への祈りを捧げる時、
魔力を籠めずに祈る!
祈れる?
無にして、君、無にして祈ってみて
魔力が厳禁の橋の上で、祈れるの、私以外に誰がいるの。
私がやるしか無いでしょ!ね!
怖かったー。」
これもさっきからループしている。
悪酔い神官の言葉だ。
でも神職達は知っている。
神官が手順を間違った事を。
当初打ち合わせした内容は、
吊り橋の土台から吊り橋全体に向かって、
女神への祈りを捧げ、米、御神酒、紙吹雪を撒く予定だった。
運営側からは、橋の上で祈りを捧げろなどとは一言も言われて無い。
神官が式典の進行中、勝手に感動して、勝手に舞い上がって、勝手に橋の上に行ってしまった。
運営本部も神職達も青ざめた。
スルスルと橋の上に進んだ神官を誰も止められなかった。
お辞儀するくらいして、土台へ戻ってきて、祈りを捧げれば良いものを、間違った恥ずかしさに神官は戻れなくなった。
橋の上で祈りを捧げ始めた時、神職達も本気で祈りを捧げた。
死にませんように!
「疲れたー、今日の式典、ホントに疲れた。」
「なぁ、なあ。」
神職達は神職達で愚痴ってる。
「もし、神官さんに魔魚が飛んできて死んでたら、パアだぞパア。
何もかも。」
「誰だよこんなバカ、神官にしたの。」
「親の七光りだよ。」
「呑もうよ、呑んで忘れましょ。」
「こんな、こんな名誉な事は無い。
領主ロフ様を差し置いて、
私が、私が一番先に橋の上に立ったのだよ!
こんな名誉な事は無い。
ナカタ様ーー。」
また、神官の本日何度目かのループが始まった。
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