第19話 スキル 強制連携+3の威力

 ラビナ領スワンの街


 今日はナカタ橋開通の日。

周辺の街から橋の見物に訪れた人 。

同日に開催される、お祭りが目当ての人。

ニューランドに渡ろうと、他領からも冒険者が多く訪れている。

開通日には間に合わないが、スワンを目指して移動している冒険者が続々いると、他の街や他領の冒険者ギルドから連絡が入っている。


 冒険者は、滞在する街の冒険者ギルドに登録する事が一般的だ。武具防具や素材、アイテムの売買など、滞在している街のギルドと取引をする必要があるから。


 ナカタ橋効果か、スワンの冒険者ギルドの冒険者登録数が急激に増えていた。

ニューランドからは、稀少価値のある鉱石が採れる。

その鉱石で武器を作りたい鍛冶職人も、移り住み始めている。

商人も、山を越えて商品をスワンに持ってくる。


 うどんは、昔のゴールドラッシュってこんな感じだったのかなと思う。

街の規模が変わる様子を、目の前で体験しているのだ。

不思議な高揚感だった。

元の世界では感じた事の無い高揚感。

ナカタの名が、誰からも敬われている不思議。


 だが、気を引き締めなければ、司書長のワラに習った、勇者フタの転落。

身バレすると、勇者フタの様に、欲にまみれた者達が身近に湧いてくる。

色仕掛けは、ちょっとだけ、ちょっとだけ体験してみたいのが本心のうどんだったが…。


 早朝から、領主の館は繁忙を極めていた。

ナカタ橋開通記念式典

ナカタ橋開通記念祭り

来賓の接待。

告知した日数が5日前と短かった為、来賓は貴族本人より、代理人が大半だ。

その代理人も、山越えの移動をこなせる体力がある、貴族の子息らが多い。

昨日から、ロフの館の部屋が8割がた埋まったと云う。

正確な数は知らないが、20部屋近く空き部屋があった気がするので、うどんは少し恐縮している。

うどんが滞在している部屋は、中でも高級な方の部屋に分類されるから。


「使用人部屋にでも移りましょうか?」

とテイに言ったら。

キレられた。


ハチナイが来てくれたので、二人で領主館を出る。


「お師匠、体調は大丈夫ですか?

お見舞いに行けなくて、すみませんでした。」


「回復しましたよ。

差し入れて下さった高位ポーションや、お弁当のお陰でござる。」

ニコニコと話す。


「まあ、回復度5割かな。血の量は急には増えませんな。」


「出歩ける程の回復はまだ先だと思ってましたから、お師匠はやっぱり凄いです。」


「ハハハ。」


「ユニちゃんから聞きました、私にお願いがあるとか?」


「それですじゃ、わしを刺したケヤキ、あれを牢から出そうと思う。」

フワリとハチナイが言う。


あまりにも軽い言い様に、ヤモへの根回しは済んでいるのかと思った。

「へー、ヤモさんがよく許しましたね。」


「いえ、ヤモどのには、何も話してませんよ。」


「…?

それってどういう?」


「脱獄させるんじゃ。」

ハチナイが悪い顔をして言う。


「えええーーー!!!」

そんな気軽に、コンビニに買い物に行くくらいのノリで言われても…。


「自衛団の屯所には、自衛団員が居ますよね。」


「当て身を食らわせて、眠って貰いますでな。」


「牢の鍵は?

あっさり見つかりそうな場所に、保管しませんよね。」


「鍵を見つけるのはメンドクサイので、鉄格子ごと斬るつもりじゃ。」


「ひえっ。」


「んで、森にでも連れてって、木に繋いでおきましょう。」


「その後は?

どうするんです?」


「此処までは、わし一人でも出来ます。うどん様への願いは此処からじゃ。」

一呼吸置いて、ハチナイが言う。


「ケヤキをうどん様のパーティに入れて欲しいのじゃ。」


「ええーー!!」

 脱獄の話しも驚いたが、パーティに入れる話しにも驚いた。

自分を殺そうとした男を仲間にする?

普通は刺した方も刺された方も嫌がるでしょ。


「まだ、ケヤキの恨みは解けてませんよね?

仲間にしたら、大変な事になりませんか?

いや、そもそもケヤキが嫌がるでしょ。」


「断れませんよ、ケヤキは。」


「はい?」


「うどん様が大鷲から付与されたスキル。

忘れておいでか?」


「あっ、強制連携+3?」


「そんなスキルの持ち主、この世に居ませんわぇ。」


「まだ使った事無いですよ、そのスキル。」


「じゃあ、試しましょうか。

おーい、そこの人達。」


 ハチナイが、同じ方向に歩いている冒険者パーティを呼び止めた。


「なんだよ?」

 振り向いたのは、一癖も二癖も有りそうな、大男がリーダーっぽいパーティだ。

弓使いの女性アラサー。

魔法使いと僧侶が可愛い系と綺麗系の女の子で、よくもまあ、この不細工な大男が勧誘に成功したなと思える程の、不釣り合いなパーティだ。

もしかしたら、脅されてムリヤリ仲間に入れられてるのか?


(この女の子達は無理だよー。

大男が絶対に許さないよ。

無理無理。)


そう思っていると、ハチナイが大男を指差した。

「お前さん、ウチのパーティに入らんかぇ?」


(えーー、そっち?

大男?

女の子より無い無い。

大男が女の子と離れて、おじさんと爺さんのパーティに入る訳ない。)


「ああ!!」

大男が怒った。

「ジジイふざけてんのか?!」


ハチナイに円らな瞳で、肘でつんつんされる。

スキルを試せって事ね。


「俺からもお願いす、る、よ。

ウチのパーティに入って。」


すると、

真上から、何か矢の様にも見えるエネルギー的なモノが、大男にスコンっと入ったのが、見えた気がした。


「仕方ねぇなぁー。

渋々だけどな、入ってやるよ。」


俺も驚いたけど、女の子達も驚いた。


「はあああーーー???」

「……。??」


「じゃあ何?

あたし達とのパーティ解消するの?

本当?

良いのね!良いのね!」


「こっちに誘われたからな、しょうがないだろ。

今までありがとな。」


それを聞くと、女の子3人がダッシュで逃げた。

本気で走ってった。


(ホントに脅してパーティ組んでたのか…。

良かったね、開放されて。)


「うどん様、こっちじゃ。」

ハチナイは上機嫌で、近くの林へ向かって移動する。


「うどん様、大男とパーティを解消して下され。」

と、大男に聞こえない様に囁いた。


「ああー、わ、悪いんだけど、仲間から外れてくれないかな?」


すると、また矢の様な、エネルギー的なモノがスコンと上に抜けた。のが見えた気がした。


「はぁ、さっき仲間になったばかりでもう解消かよ。

おまえ、ふざけんなよ!」


大男は怒ったが、怒ったのは超怖いが、パーティから抜けたのはなんとなく分かった。


ゴスっ!


ハチナイが大男の横から当て身を入れた。

大男が気絶して、地面にハチナイが寝かせる。


「いやーー、想像はしてたが、うどん様のスキルはエラいもんですな!」


「これ、ちょっとヤバいスキルを貰ったんですかね?」


「ヤバいスキルですじゃ。

わしも長く生きとるが、初めて聞いたスキルじゃもの。」


ふわあああ……。

何か先の見えない怖さに震えるうどんだった。


「善行善行。」

ハチナイが街へ戻る道を歩き出す。


「あの大男、そのままにしとくんですか?」


「多分、明日まで起きんじゃろうと思います。」


そんな感じで、うどんのスキルの特殊さが判明した朝だった。

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