第4-1話 無名のジジイが強すぎる
「ロフ様、ロフ様」
衛兵隊長のアクスが、大声を上げながら、領主ロフの部屋に早足で近付いて行く。
扉を守って廊下に立っている二人の衛兵が、何事かと驚きの目をしてアクスを見る。
「入れてやれ」
中からロフの声がした。
二人の衛兵が扉を開ける。
「幸運続きですぞ、我がラビナ領は!」
執務机に座るロフに近付きながら、アクスが笑顔で部屋を進んで来る。
「どうした?」
「うどん様の護衛役に適任の者が現れました。」
「ほう。」
「年寄りにしてはめっぽう腕の立つ、
クナイ使いの浪人でして。」
ギルド長から報告のあった出来事をアクスは詳細に語った。
「名前は?」
「ハチナイと名乗っています。
偽名でしょうな。
クナイを投げるからハチナイ。
ですかな。」
「なるほど、背が低くて年寄りの暗器使いか。
心当たりはある?」
「ありません。」
「名の知られた冒険者では無いという事だね?」
「そうです。
偽名だとしてもクナイ使いは珍しい、しかも年寄り」
「各国を渡り歩いてるならとっくに有名人になってるぞと。」
「強い冒険者の噂は、遠国からも聞こえて来ます。
が、ハチナイ殿の噂はさっぱり。」
アクスがニヤリと笑う。
「アクスは人が良いから、人を直ぐに信じる。
それがいつもは貴方の美点だが、今回の護衛役の件は慎重に…。」
「はっ。」
「そのハチナイ殿の素姓をしかと確認してくれないか。
護衛として雇ったが、他領に内通していたという事態は避けなければいけません。」
「畏まりました。」
「ケイとハチナイ殿を会わせたらどうかな?」
「あぁ、確かに、ケイならその手の能力が有りましたね。」
「護衛役の事は伏せてな、人を見極めようとすると、変に緊張してハチナイ殿に警戒されるかもしれん。」
「承知しました。」
アクスが退出する。
時は少し遡り。
冒険者ギルドのロビーで、トギが4人の冒険者パーティと向かい合っていた。
「ダンジョン攻略おめでとう!
今年2組目の攻略パーティだ。」
「へへへ、俺等も強くなったなぁ。
順調にレベルも上がってるし。」
重戦士が剣士と魔法使いと僧侶に笑いかける。
剣士と僧侶が、バッグから宝石や短剣等のダンジョンでの戦利品をカウンターに並べる。
「ソアラ、幾らになるか計算してくれ」
「はい」
トギにソアラと呼ばれたギルドの制服を着た若い娘が、手帳を持って現れた。
「いや、俺等もダンジョンボスのキングオーク戦で総力を使ったからなぁ、
MPは無くなるし、
回復アイテムは全部使ったしで、ホントギリギリ勝利。」
「で、やっとこダンジョン出る手前で賊が出て来たってか。」
「あぁ、あの爺さんが助けてくれなかったら、戦利品を全部獲られてたな。」
「賊は4人組だろ?」
「あぁ、4人だ。」
「爺さんに仲間は?」
「居なかったよ。一人だった。
ムチャクチャ強かったぜ。」
と剣士が言うと。
「4人の賊も格の違いに気付いたのか、タジタジだったもんなぁ。」
と重戦士。
「その賊まだその辺に居るかもしれねぇ。
特徴を教えてくれ。」
「リーダーらしい男が40代、後は30代位か。
剣士が二人に魔法使いと弓使いだった。」
「剣士の一人は右手の手首と肘の間にクナイ傷がある筈だ。」
「もう一人の剣士と弓使いの左足の甲にもクナイ傷がある。」
「治癒ポーションを持ってれば傷は癒えてるかもしれねぇが、この町で治癒ポーション買ってるか、治癒魔法を受けてるかもな。」
「パーティに僧侶が居なかったからな。
ありうる。」
「4人の人相や服装は?」
「そうだな……。」
トギが次々に質問して、メモしていく。
大方賊に関する質問が終わると、
「その爺さんなんだが、どんな感じだった?」
「人の良さそうな、見た目は弱そうな爺さんだよ。
小せえし。
痩せてるし。
体型はゴブリンっぽい。」
「ただ、俺等に話し掛ける顔は優しかったけど、賊に話し掛けた顔は別人かと思うくらい凄みがあったな。」
「完全にあいつら雑魚扱いされてたし。」
「多分街の何処かに居るだろうから、見かけたらギルドか衛兵隊に顔を出すように伝えてくれ。
治安を守ってくれたお礼を言わなきゃな。」
「俺等も礼をしたいから、ギルドを出たら探すよ。」
「じゃあ、もし見つけたら、何処に居るかギルドに使いをくれ。」
「分かった。」
「ソアラ、戦利品の買取り金額は?」
「金貨25枚と銀貨8枚です。」
ソアラが盆に乗せて金貨銀貨をカウンターにだす。
「体力回復ポーション持たせてダンジョンにギルドから一人派遣したから、
ポーション代と手間賃に金貨一枚だな。」
「分かってるよ。
金貨一枚引いてくれ。
助かったよ。」
トギが盆に乗ってる金貨から一枚取ってソアラに渡す。
「衛兵隊に連絡しに、ちと出てくるぜ。」
「行ってらっしゃいませ。」
トギはソアラの明るい声に送り出された。
街の居酒屋、ハチナイは隅の席で静かに料理を食べていた。
酔って声が大きくなる冒険者や、仕事終わりの職人達が酒を呑み料理を食べ、一日の疲れた体に英気を養っている。
話し声や食器の音、給仕の女の掛け声や足音等で店内はざわめいている。
誰も隅で静かに食事する、痩せて小柄な爺さまを気にも留めていない。
「今日スワン ダンジョンが今年2回目の攻略だってよ。」
大柄で粗暴そうな男が言う。
「へー、やるなぁ。」
隣に座る男も負けずに大柄だ。
「俺ら何回潜っても3階で撤退してるのによ。」
「真面目にコツコツ修練詰めってか?俺等のガラじゃねーな。」
「この町の武器屋は値段に見合う武器が置いてねぇ。」
「ちゃんとした武器が売ってりゃあ、俺等もとっくに攻略してるさ。」
その会話を別のテーブルで飲み食いしている。
屈強そうな外見の男達が聞き咎めた。
「なに?この町で売ってる武器が悪いだぁ。」
「てめえ等のヘナチョコを棚に上げて、武器に文句つけてんのか?」
「俺達はこの町の鍛冶屋だよ。
喧嘩なら買うぜ?」
男達がニヤリと笑って立ち上がり、手を伸ばせば届く距離まで近付いた。
他の客は料理とグラスを持って店の端に避難する者、囃し立てる者様々だ。
「やめてよ、店が壊れる。
喧嘩は外でやって。」
給仕の女が叫ぶが、素手で取っ組み合いの喧嘩が始まった。
「なあなあ、店の人」
ハチナイが給仕の女を手招きする。
女が近付くと
「この喧嘩を仲裁したら、飯代をタダにしてくれんかえ?」
「えっ、出来るんですか?」
見るからに細くて小さい爺さまだ、筋肉の鎧を着ているかの様な喧嘩中の男達とは、体の大きさが全然違う。
すぐにうんとは返事出来なかった。
疑うというより危ない事はしないで欲しいという気分が強い。
「お嬢さん、ここの店主に聞いてきておくれ。」
返事をしないのは、タダにするのに店主の了解が要るのだろうとハチナイは思ったらしい。
「父が店主なので、お代は大丈夫ですけど、
お爺ちゃん怪我するから。」
「成功報酬じゃしな、損はさせんよ。」
ハチナイはクナイを4本取り出すと、
座ったまま右手を左側に振りかぶり4本を同時に投げた。
正確には"同時に"とは言えないのかもしれない、リリースポイントを絶妙に意識して変えないと、4本はほぼ同じ場所に飛ぶ筈だ。
しかし、ハチナイの投げたクナイは喧嘩中の男達にそれぞれ一本ずつ、
肩や腕等致命傷にならない場所に突き立った。
「うがあぁ~~!!」
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