第3-3話 最強の爺 登場
その頃、領主ロフの執務室では、衛兵隊長のアクスがロフに報告している。
「本日うどん様の影の護衛部隊を実践で運用しました。
うどん様とマイエが二人で街に出て行動をしております。
行動中は何事も起こらず、現在は館に戻っておりますが…。」
「が…、どうした?」
「部隊からの報告、進言によれば、
影護衛の位置からでは、もし屋敷の外で不意に襲撃された場合、
初撃と二撃目には間に合わない可能性が高く、
手練れをせめて一人うどん様の傍に付ける必要がある、との事です。」
「まあ、そうだろうが、手練れで目立たない人物、
とは中々に人選が難しくないか。」
「そうなのです。うどん様と連れ立って行動しても目立たない手練れ…、が思い浮かばず、ホトホト困ってまして。」
「衛兵隊と自衛団に所属していないスワンの町民に、候補者になりそうな人物はいないかな?」
「えぇー、スワンの町民では思い当たりません。
ラビナ領全域に範囲を広げて探すのと、冒険者ギルドに協力を仰ごうと思いますが、よろしいでしょうか?」
「詳しい話しは伏せて探せるなら、良しとするよ。」
「承知しました。早速手配します。」
「慎重に進めよう。」
「はっ。」
アクスが背筋を伸ばして部屋を出て行く。
4人の冒険者パーティが、スワン領内の管理ダンジョンの4階でこのダンジョンのボス、キングオークと戦っている。
既に10分以上も攻防が続いていて、どちらも傷だらけだ。
キングオークは左目にナイフが刺さっていて、攻撃力はかなり落ちている。
一方、冒険者パーティは、僧侶と魔法使いが瀕死の状態で、
重戦士は片腕が折れて、もう片腕の盾で防御に徹しているし、
剣士の剣は折れて短くなっている。
肩で息をしながら、最後に良い一撃を入れた方が生き残る、戦闘終盤の様相だ。
重戦士がキングオークの右目の視界に出入りする事でキングオークの意識を引き付け、敢えてキングオークの振りかぶった棍棒に盾ごとぶち当たって、動きを制した。
剣士が雄叫びを上げつつ、跳び上がってキングオークの首に折れた剣を叩き込む。
ザシュっと、キングオークの首に剣が半ばまで食い込み。
キングオークが音立てて倒れた。
勝った剣士も重戦士も倒れている。
冒険者パーティはギリギリ勝利した。
ダンジョンボスのキングオークが消え、盾と宝石が現れた。
4人は少し体力を回復させると、体を支え合いながらダンジョンの出口へ向かう。
出口が見え、もうすぐ外に出る所で、物陰から不意に現れた冒険者パーティに重戦士と僧侶の二人がいきなり刺された。
「お疲れ、頑張ったねー。
もしかして、キングオークを倒した?
悪いけど、お宝頂くよ、
やっと手にした君らには悪いけど。」
目つきの悪い4人組の、リーダーらしい男がニヤニヤ笑いながら剣を振りかぶった。
剣士と魔法使いは状況が呑み込めないまま、無惨に斬られようとしていた。
「お主ら悪い奴らだのう」
ヒュッという音と共にクナイが飛来し、剣を振りかぶった賊の右腕に突き立った。
悲鳴を上げて剣を取り落とす。
残った三人が出口を見ると、背の低い痩せた年寄りが立っている。
「まったく、苦労して戦った冒険者の戦利品を待ち構えてカツアゲか?
お主ら人の道を外れとる外道だな。」
突然クナイが飛んできて驚いた悪徳4人組だが。
リーダー格が腕に突き立ったクナイを引き抜くと、まだ戦える気構えを見せ、年寄りを睨む。
悪徳4人組は、邪魔をしたのが痩せて小柄な年寄り一人だけなのを見て
「おい、ちびジジイ、余計な真似すんじゃねぇ。
お前もやっちまうぞ。オイ。」
悪徳4人組のうち二人が、年寄りへ殺す積りの突きを入れる為に足を踏み出すがが、
年寄りの投げた二本のクナイが、二人の右足の甲を地面まで突き刺した。
二人の悲鳴。
年寄りがニィと笑う。
「この距離なら狙い違わず急所に打ち込めるが、手や足で済んでるうちに引き上げないかね?」
「分かった、引き上げる、引き上げるよ。」
「クナイは置いていけ。」
悪徳4人組は怖怖年寄りと入れ替わりダンジョンの外に出ると、三人が見交して三本のクナイを同時に年寄りに全力で投げた。
「返すぜ!」
それぞれが投げたクナイが、切っ先を年寄りに向けて飛んだが、
年寄りは流れる様な動作で三本とも片手で掴んだ。
ニィと笑う。
「もう一回やるか?」
「うわぁ!」
悪徳4人組は脱兎のごとく走り逃げた。
年寄りは腰の袋から治癒ポーションを取り出すと、冒険者パーティの傷口にそれぞれ少量ずつ掛けた。
みるみる傷が癒える。
「体力が回復するポーションは持っておらんのでな、町で誰かを呼んでこよう。」
剣士が感謝を込めて言う。
「ありがとうございます。危ういところを助けて頂いて、治癒ポーションまで。」
「なに、ワルを見過ごせぬ性分でな。
気にするな。」
朦朧とした意識の中で、年寄りがヒョコヒョコと町に向かって進み行く姿があった。
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