第7-2話 新ダンジョン捜索隊に爺が加わる
コボルトが同時にピクンと何かに反応したのを、シムスとセラムは見ていた。
シムスは瞬時に見つかったと思い。
雷魔法の詠唱を始める。
コボルトの1体が、サクラ達が居るであろう方向に進んでいくと、その後咆哮を上げた。
残りのコボルトも敏捷にサクラ達に向かって森に飛び込む。
シムスは見えないながらも、コボルトの位置を推定して雷魔法を放った。
森の上空で一つの雷が幾つかに分裂し、バリバリと音立てて落ちた。
シムスの雷魔法の数秒前。
コボルトが吠えたので、サクラとスタンは見つかったと確信した。
「逃げるよ!」
サクラがスタンに向かって言う。
脱兎のごとく森の中を進む。
スタンが遅れるのは、サクラにとって想定済みだ。
スタンが立ち止まった気配を感じて、サクラも振り向いた。
既にクナイを手にしている。
コボルト1体と組み合っているスタン。
サクラはそれにクナイを投げた。
コボルトの首筋に刺さって、スタンとコボルトが離れた。
「こっち!」
言いながらもう一本クナイを放つ。
スタンがこちらに向いて走り始めたので、サクラも走る。
もう一本も何処かに刺さった筈だが、倒した手応えは無い。
コボルトの吠え声が増える。
シムスの雷撃が森に落ちた。
残念ながらどのコボルトにも当たらなかった。
だが雷撃でコボルトの動きが少しの間停まった。
サクラとスタンは仲間の元へ走る。
半分ほどシムス達の近くへ戻れた。
サクラは手近な木の枝に身軽に飛び上がる。
クナイを構えてスタンの後ろのコボルトに放つと、右目に突き立った。後ろから別のコボルトが2体来る。
その内1体は2本のクナイが刺さっている。
既にクナイが刺さっているコボルトは無視して、無傷のコボルトに次のクナイを放つ。
スタンは下を駆け抜けた。
振り返るとシムス達も近い。
が、その時サクラの横腹をコボルトの頭突きが襲った。
4体目のコボルトが何処かから跳び上がって来たらしい。
木から落とされながら、コボルトに右手刀を入れる、次に左の蹴り。
サクラもコボルトももんどりうって地面に落ちた。
立ち上がりながらスタン達の方を見ると、3体のコボルトがサクラのクナイが刺さったまま殺到している。
スタンの剣が、1体のコボルトの右腕を断ち切った。
凄まじい咆哮を放って、残った左の腕を振る。
スタンに爪の斬撃が当たる寸前、シムスの雷撃がコボルトを襲い、コボルトが倒れた。
他の2体のコボルトの内の1体がスタンを襲う。もう1体はセラムに向かっている。
猛々しいコボルトの目、大きく開いたヨダレまみれの口、尖った牙で迫り来ると、セラムの顔が恐怖に歪む。
セラムの斜め後方から、火炎魔法が飛んできてコボルトの顔に当たり、コボルトの動きが遅くなった。
攻撃系の呪文を持たないセラムが、この火炎魔法で命拾いした。
実はこの火炎魔法、ケイが放った魔法だ。
サクラから助けを呼びに行く役割を戦闘前に命令されていたが、木立の中で戦闘を離脱せずに残っていた。
(ハチナイさんがいるんだから、たった3体のコボルトなんて簡単にやっつけてくれるわ!)
とサクラの作戦を無視していた。
この時、サクラはコボルトと戦っている。脇腹を傷めて動きが悪い。
サクラとスタンの間にコボルト1体がシムスの雷魔法で倒されて死んでいる。
スタンはコボルトに組み付かれて剣が振るえない。
コボルトの腕力と拮抗していて振りほどけない状態になっている。
セラムに向かっていたコボルトは、ケイの火炎魔法を受けて転進した先にシムスを見つけてシムスに遅い掛かり、魔法使いの杖を弾き飛ばした。
コボルトの牙がシムスの喉を襲う寸前で、もう一度放ったケイの火炎魔法がコボルトに当たり、コボルトが倒れた。
シムスは慌てて杖を拾い、攻撃魔法を詠唱する。
セラムはサクラに走り寄り、回復魔法を詠唱する。
スタンと組み合っているコボルトに、シムスの雷撃が脳天を直撃し、体が離れたところを、すかさずスタンの剣がコボルトの首を刎ねた。
セラムの回復魔法で脇腹の傷が癒えたサクラが、クナイを投げてコボルトの喉に突き立て、怯んだコボルトに、すかさず右の鮮やかな回し蹴りで首を折った。
コボルト4体を無効化し、戦闘が終了した。
「やったー!!倒せたー!!」
ケイが森から喜びながら出て来た。
離れて後ろからハチナイは無言で出て来る。
「うおーー!」
スタンが吠える。
そして駆け寄ってサクラを肩車し、もう一度吠える。
シムスとセラムは座りこんでいる。
シムスは小さな声で
「危なかったー。」
と呟いた。
ケイのはしゃぎ様はスタンに負けていない。
何度も飛び跳ねている。
スタンとケイに触発されて、サクラもスタンの肩の上で
「わー!」
と大声を上げる。
歓喜が森の隅で木々を震わせている。
「じゃあ、頼む。」
サクラがセラムとケイに言う。
戦闘後に岩屋を確認したら、やはり新ダンジョンの入り口だった。
冒険者ギルドに急ぎ連絡しなければいけない。
土地勘の有るケイと、疲れが少いセラムが街に急ぎ戻る事になった。
「あいあい、了解しました。」
ケイは機嫌良くサクラに敬礼して、セラムと街に戻った。
スタンはコボルト4体の両耳を切り落とし、袋に入れて岩屋に戻った。
岩屋には、コボルトが持っていたと思われる剣が4本、集めて置かれている。
サクラ達を見つけて突然戦闘になったので、コボルトも慌てて剣を装備し忘れた様だ。
「こいつら、剣を持ってたら強さが2割増だったかもな。」
サクラがゾッとするという感じで話す。
「杖を殴り飛ばされた時、もしコボルトが剣を持ってたら、杖じゃなくて俺の首が飛んでたぜ。即死。」
とシムス。
「そりゃー、生き返れない死に方だな。」
スタンが同情する。
ハチナイがダンジョンの入り口に座っている。
「どうだ?」
サクラがハチナイに近付いて聞く。
「魔物の気配はござらんよ、お師匠どの。」
「ダンジョンで生まれた魔物って、基本外に出て来ないよなぁ?」
「ですな。何故だか儂にも分かりませんわい。」
「偶然入り口の近くに群れてたかな?」
「でしょうかな。」
「ところでハチナイ、冒険者登録は?」
「10年前と同様でごさる。
冒険者は30年前に隠退いたした。」
「ならさーならさー、今回ので貰える報奨金、ハチナイ抜きで5人で割っていい?」
猫なで声で、サクラが尻を振りながら言うのを、シムスとスタンがトホホという表情で聞いている。
「ダメー!!!絶対ダメ!!」
ケイが怒っている。
「あんた達はどうなのさ!?」
怒りの目がシムス、スタン、セラムにも向けられる。
「一緒には居たけど、ハチナイさん、戦闘に参加してないしなぁ。」
とセラムが言う。
「まあまあ、おケイちゃん、その通りじゃし、儂もう冒険者ギルドに登録しとらんし。」
「ハチナイさんがそんな事言うから、コイツ等つけあがるんだよ!」
「まぁまぁ。」
ハチナイがケイの耳元で、
「戦闘前に約束したじゃろ、色々内密にな。」
と囁く。
冒険者ギルドのカウンターに報奨金が置かれている。
全員でギルドに戻って来て、分け前の分配で揉めたのだ。
「話合いは済んだかい。」
ギルド長のトギと、受付嬢のソアラが、カウンターで話し合いの行方を聞いている。
「じゃあ、5人で分けて良いんだな?」
トギが念を押す。
「きーっ!」
とケイが目を吊り上げるが、ハチナイに袖を引かれる。
「じゃあ、まず、コボルト討伐1体につき銀貨50枚、計銀貨200枚」
コホンとトギが咳払いする。
「そして、新ダンジョンをめっけた報奨金、金貨5枚」
5人からおぉー、と声が上がる。
「コボルトを見つけた者には銀貨5枚ってのは、まけてくれや。
生きたコボルトを見つけてくれたらってクエストだからな。
いいか?」
5人は、うんうんと頷く。
「ちょうど5人なら割り易い金額だったなあ。ウチは助かったぜ。」
それぞれに配分した金額を受取ると、書類に受け取りのサインをした。
「ケイ、ヤモには伝えてあるからな、今晩は御馳走だぞ。
無くさないように真っ直ぐ帰れ。」
「あいあい!」
とトギには良い返事をしたが、ハチナイに向くと、
「本当にいいの?」
と聞く。
ハチナイは頷いた。
「家まで送ろうかの。」
ハチナイがケイを促す。
「待ってハチナイ!何処の宿に泊まってるの?」
サクラはシムス、スタン、セラムの3人と普段の生活費の精算をしている最中で、終わるまでテーブルから動けない。
「あっ、行っちゃう行っちゃう、ハチナイが行っちゃう。」
サクラを無視してギルドから出る二人だった。
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