第8-1話 だって孫弟子でしょう?

 領主の館の食堂に、うどんとマイエ、ケイとテイの4人がテーブルを囲んでいる。

 

4人の前には温かい飲み物と、甘いクッキーが置いてある。

飲み、食べながら、ケイの話しを聞いている。


「でさでさ、魔法使いのシムスさんの魔法の杖がコボルトにバシッて叩かれて、手から飛んでったの。

 私はその時、炎魔法を詠唱しててね、シムスさんにコボルトが大口開けて噛みつこうとする寸前に詠唱が間に合ったの!」


「おおー。」

3人が息を呑む。


「ファイヤーって、撃ってね。間一髪でシムスさんが噛まれる前に、私の炎がコボルトの顔に、こうよこう。」


 顔に炎が当たる様子を身振り手振りで説明するケイ。


「すごっ」

とテイ。


「私の炎が間に合わなかったら、シムスさんの首が、この辺ね、ガブー!!

ってね、なるところよ。まさに危機一髪。」


「それでそれで。」

うどんがゴクリと喉を鳴らす。


「私の炎魔法でそのコボルトは死んで、シムスさんは慌てて杖を拾うの。戦士のスタンさんがコボルトとこんな感じで組み合っててね。

 コボルトと顔が近いじゃない?だから結構噛まれてた。コボルトって口大きいね。

 鎧面を被ってるからスタンさんの顔は無傷だったけど、あれはそうとう喉ちんこ見えてたわね。

ヨダレまみれ。」


「いやー、汚い。」

マイエが目を覆う。


「スタンさんがコボルトにガブガブされてる間にシムスさんが雷魔法でバリバリって、棒立ちになったところをズバッと水平斬りで、コボルトの頭がポーンと離れてさ。」


「かっこいい。」

とうどん。


「でもヨダレまみれの人よね。」

とマイエ。


「僧侶のセラムさんはサクラのとこに駆け付けて。

 動きが悪かったから、どっか怪我してるってすぐにセラムさんは気付いたらしいの。

連携って大事ね。

回復魔法よ、回復魔法。したらさ、あのサクラが動きが良くなって。

 クナイを右手でシュピッっと投げたらコボルトの首に刺さってさ、そのモーションのまま連続技よ連続技。

こんな感じで回転しながら右回し蹴りを首に。

ボキって首が折れてさ。まー、その時の足がしゅっと伸びて美しかったのなんのって。

強い人って、動きがキレイよね。

無駄が一つも無いって言うかね。」


「おおー。」


3人で拍手する。


「それで、コボルト4体討伐完了よ。」


「質問質問」

とテイが手を上げる。


「はい、テイさん。」

 

ケイが威張って質問を受ける。


「サクラさんの投げたクナイって、刺さっただけでコボルト死んでないよな?」


「良い質問ですねー。

そう、コボルトはサクラのクナイが刺さったくらいじゃ死にません。

動きが悪くなるくらい。」


「ハチナイ様のクナイと明らかに威力が違うわね。」


「おぉー、そうか、確かに。」


「どっちが師匠だよっ、て感じ。

ぷぷ。」


「はい!」

マイエが手を上げる。


「マイエ君どーぞ。」


ケイがまた威張って言う。


「ケイの炎魔法凄いんだね、コボルトを倒しちゃったでしょ。

学校の頃と全然違う。

何か特訓しましたか?」


「私の炎魔法のお陰ですよ、1発目で僧侶を救けてー、2発目で攻撃力の高い魔法使いを守ったのー。」

と、胸を張る。


「と、超喜んでたんだけど、でもねー、段々疑問になってきて。

私にそんな、強い魔法撃てる?って。」


「あぁー。」

と3人。


「セラムさんと二人で冒険者ギルドに連絡に行く道中にも疑問が膨らんじゃってー。

森に戻って私が倒したコボルトの死体を確かめたの。

そしたらね。」


「そしたら?」

と3人。


「後頭部にクナイが刺さったっぽい傷が残ってた。」


「それってサクラさんのクナイが?」


「サクラのクナイじゃ死なないよ。」


「あっ!」と3人。


「そう、私の魔法に合せてハチナイさんがクナイを撃ってるのよ、きっと、間違いない。」


「面白!」

とテイが感心する。

 

 3人にたっぷりナデナデされて上機嫌のケイは、ロフにも報告するんだとルンルンで執務室に向かった。


「うどん様、ハチナイどのに弟子入りしたって聞きましたよ。」

とテイが言う。


「はい、体力が回復したら、ハチナイさんにクナイを教えて貰える約束をしました。」


「焦らなくてもいいのですよ。」


「ありがとうございます。

ケイちゃんの武勇伝を聞いたら、俺にもやれそうな気がしてきました。」


うどんが笑顔になる。


テイが立ち上がり。


「それにしてもハチナイどのって、何者なんでしょうね。」


と窓の外に目を向けてテイが言う。


「美人の師匠より、弟子のお爺さんが断然強いって、とっても変ですね。」


マイエが明るく言う。


「まったくだね。」


テイが複雑な顔をして笑う。


「強さを隠すのは、何の意味があるんでしょうか?」


うどんが疑問を口にする。


「まるで、目立ちたくない行動をあえてしている様な。」

 

とテイが言いながら、目を見開く。


「うどん様と同じ?存在を薄く、目立たなく、している…。」


「その共通点は無理やりな気が…。」


うどんが困り顔で言う。


 

新ダンジョン目当ての冒険者パーティが沢山集まって来て、スワンの街は活気づいていた。


 今度のダンジョンは手強いと、もっぱらの評判だ。

一階からコボルトが出るらしい。

と言っても1階では1体ずつしか出ないで、2階から2〜3体の出現と冒険者が話している。

 いきなりCランク魔物が出て来るので、戦闘は大変な分、落ちるアイテムは高価に取り引きされる物ばかりらしい。

なので、冒険者達はせっせとダンジョンに通っている。

 冒険者ギルドも商人ギルドも仕事が忙しく、嬉しい悲鳴を上げている。


 

 マイエはすっかりうどん付きの侍女、的な立場が定着していた。

 領主館の幹部会議で、新たに決まった事がある。

うどんの外出時、ハチナイと同行している場合は影の護衛は無しになった。

 

 それと、マイエの領主館での行儀見習いは一時中断となった。

両親からも"うどん様に付いてなさい"と言われている。

なので、ここのところ毎日うどんと行動を共にしている。

 

 ハチナイ、うどん、マイエの3人は、雨が降らなければ、毎日領主館を出て、森へ行ったり草原へ行ったりして、うどんがクナイを習っている。


 領主館の広い前庭で修行する提案も幹部から出たが、ハチナイが館で修行するのを嫌がった。

修行内容を知られたくないらしい。

マイエも、修行内容は他言無用とハチナイに約束させられている。


ただ、修行をマイエが見ていても特にヘンテコな修行は無いと思う。

 

 うどんは体調の回復と共に、筋肉や体使いが出来てきて、みるみる上達している。


「教え甲斐があるのう。」


とハチナイがマイエに漏らす事しばしばだ。

 

 うどんのハチナイに対する態度は師匠と弟子そのもので、二人のやり取りはマイエから見ていても微笑ましい。

 

 1時間でも2時間でも、クナイを投げ続ける集中力には、いつも感心させられる。


「クナイと的と風しか感じない境地でやってるのさ。」


とハチナイが教えてくれた。


「私も、うどん様が修行している傍で、回復魔法の修行します!」


とマイエが言い出し、学校の授業で習ったことを思い出しながら反復練習を始めた。

うどんの修行に対する集中力が伝染したのかもしれない。


 

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