第8-2話 だって孫弟子でしょう?

 マイエは困っている事がある。

たまに冒険者のサクラとばったり会う事がある。

ハチナイはサクラの事を遥かに年下だけど"お師匠どの"と呼んで敬っている。

偶に少し煙たそうにもしてるけど…。

 

 サクラにとって、うどんは弟子の弟子だから孫弟子という事らしい。

とは言っても、サクラとうどんは同い年で35歳。なのにサクラのうどんに対する態度が横柄過ぎていつも会うたびマイエは嫌な気持ちになる。

 しかも、サクラはハチナイに隠れて何かを要求したりする。

宝石だったり、服だったり。


「孫弟子なんだからそういうものよ。」


とマイエに言い放つ。


(ハチナイ様に隠れてやってる時点で酷い女だと思う。

本人はあまり悪気は無いみたいだけど。

会うとげんなりするから、会いたくない。)


とマイエは思う。


(うどん様は大人だから、サクラさんの要求を嫌がりながらも、あまり顔に出さずに叶えている。

うどん様はサクラさんから何も教わって無いのに…。)

とも。

 

 最近マイエが嫌いになった言葉がある。


「だって孫弟子でしょう。」だ。

 

もしハチナイが沢山の弟子を受け入れたら、サクラがどんどんのさばっていく構図も嫌いだ。

 

 サクラと会わないで済む方法は無いものかと、悩むマイエだった。

 

 ただ、うどんとハチナイと3人で過ごす毎日は、平和で心が安らぐ日々だ。


「この生活がずっと続いたら良いのに。」


とマイエが独り言を呟いた時、近くに居たケイに聞かれてしまって、変な誤解を与えてしまった。

その時ケイは、何も言わずニマニマしていた。


 

 うどんとハチナイとマイエの3人で街に出る事も抵抗が無くなってきた。

うどんが来たばかりの頃は、川向うから来た「ナカタ」という人物が、他領や盗賊に連れ去られる危険性があったが、時間とともにその危機意識は随分薄れた。

 

 うどんがスワンに住み始めて、そろそろ一ヶ月になる。

随分スワンの街に馴染んでいた。

 うどんはハチナイから、主にクナイを習っている。

それと短剣術を少し。

ハチナイに言わせると、戦闘では接近戦になった時の用意に剣術が必要だと言う。

だが、うどんが元来非力な為、長剣ではなく短剣術という選択になった。短剣術に関しても、少し自信が付いてきたうどんである。

 

ある日、


「腕試しにダンジョンに行ってみようと思うが。」

とハチナイが切り出した。

 

うどんの返事はいつもの様に短く

「はい。」

である。


「マイエちゃんはどうする?行くかえ?ダンジョン。」


「うどん様のサポート役ですよね?」


不安そうに聞く。


「勿論じゃ。」


少し考えたが

「行きます!」

と返事した。

 

「では行こう。」

とハチナイはダンジョンに向かって歩き出す。

 そのまま行くのがハチナイらしい。

いつも飄々としている。


 

 ダンジョン1階、うどん、ハチナイ、マイエの順に進んでいく。

 

 幾つか右に左に折れて、マイエは入り口に戻れる自信が無くなった。

後ろも前も同じ景色に見える。


「その先に何かおるな。」


「はい。」


ダンジョンが左に曲がっている。

 うどんがクナイを構えて音を立てずに進む。

ハチナイもマイエもついて行く。

 

曲がり角で立ち止まり、うどんが先を覗く。

素早く一歩踏み出してクナイを放った。

1本、2本、3本。


 マイエからは姿が見えないコボルトの吠え声が迫って来る。


 うどんが鞘から短剣を抜いた、前に出ながら斬りつけると、曲がり角なので残った右足しか見えなくなる。

 

 コボルトが咆哮を上げて息絶えた気配がする。

 

うどんが膝を付く。

 

マイエがはっとして、


「うどん様!」


と、駆け寄る。

慌てて確認したが、怪我はしていない。

 短剣がコボルトの左脇腹に突き立っている。

あとは、クナイが4本、コボルトに刺さっている。

 

首、肩、腕。と眉間。

ゼーゼーと肩で息をして、


「師匠、ありがとう、ございます。」


とうどんが言う。


「なになに。」

とハチナイ。


「初めての実践で、Cランクのコボルト相手に、上出来上出来。」


満足そうだ。

 

 うどんが短剣を鞘に収め、クナイ4本を引き抜き、1本をハチナイに渡す。

眉間に刺さったクナイはハチナイが投げ撃った物らしい。


「も一ついこうか。」


「はい。」

 

 コボルトの死骸が消え、コボルトが持っていた剣と何かアイテムが地面に残る。

ハチナイが2つを拾った。


「次は何に気を付ける?」


「撃つ前の脱力に。」


「いい案じゃ。」


ハチナイが感心した顔で言う。


「では、次はこちらから呼んで見ようか。準備は良いか?」


「はい。」


 うどんがクナイを構える。


「うおーー!!!」


 小さな体の何処からこんな声量が出るのかと思う叫び声を、ハチナイが発した。

 

 ハチナイの叫びに反応して、前からコボルト1体が殺到して来る。

 

さっきのコボルトは不意打ちの1投目、標的は止まっていた。

 

今度は物凄い勢いで迫って来る標的。

 うどんがクナイを放つ、1本、2本、3本。

コボルトが剣を振り下ろす。

 

うどんが短剣を突き出しながら前に出る。

 

コボルトとうどんが”ドン”とぶつかる。


「もう一刺し!」


「はい!」


 うどんが脇腹を刺した短剣を抜いて首に刺す。

 

コボルトが倒れた。

 

 今度はうどんは立っている。

短剣を鞘に収め。

コボルトの体から4本のクナイを引き抜く。

 

腿、胸、首、眉間。


「ありがとうございます。」

と言いながら、眉間のクナイをハチナイに渡す。


「上出来上出来。」


「はい。」

ニコリとうどんが笑う。


「マイエちゃん、うどん様の左肩に回復魔法を頼むよ」

 

どうやらコボルトの剣元を肩で受け止めた様だ。


「はい!」


「ありがとうマイエちゃん。」


言いながら、少し腰を屈めて肩をマイエに向ける。

 

 剣の根本で受けたので、傷は深くないが、合せて打撲的な痕もある。

 

地面に残ったコボルトの剣とアイテムをハチナイが拾う。

 

 うどんがマイエの回復魔法を受けていると、深部から冒険者パーティがやってきた。


「おや、ハチナイ!」


「おぉ、お師匠どの。」

 

 やってきたのはサクラのパーティだった。


「何階まで行かれましたかな?」

とハチナイが聞く。


「3階だ、4階へ続く階段を見つけた所でポーションとMP切れだ」

ドヤ顔で答える。


「今までで一番コボルトを倒したぞ。

全部で11体だ。」


「流石はお師匠どの。」


ハチナイもニコニコ答える。


「ハチナイもダンジョンに潜る積もりなら、一緒に連れて言ったのに。」

サクラが猫なで声で言う。


「いやいや、儂らはココで撤退です。」


「うどんは確かFランクだったな?」

とサクラ


「はい、Fランクです。」

素直にうどんが答える。


「FランクがCランクのコボルトを相手にすると、すぐ死ぬぞ。

次は肩では済まんかもしれん。」


「はい、私はまだまだ未熟者です。」


「うどんは強くなれんだろう、諦めてハチナイを私に返せ。」


「申し訳ありません。

もう少し稽古をつけていただきたいです。」


「早目に見切りをつけろよ。」

立ち去りながらサクラが言う。

 

 サクラのパーティが居なくなると、うどんとマイエが

「ふうー。」

と溜め息をついた。

 

 肩の傷はかなり癒えたが、マイエは回復魔法を止めない。

今戻るとまたサクラに会いそうだ。


「私はまだまだ未熟です。」

とうどんが言うが。


「なに、そんなに卑下するもんでもないぞよ。」

かかか、とハチナイが笑う。


 他のパーティも奥から帰って来た。


「ハチナイどのじゃないか、冒険者に戻ったのか?」

と笑顔で声を掛けられる。街の居酒屋の知り合いらしい。


「付き添いに来ただけじゃよ。」


「そうか、あんまり無理すんなよ。」

「気を付けてなー。」

「また居酒屋でなー。」

「バイビー。」

 等とうどん達にも声を掛けて明るく通り過ぎて行く。


「腹が減ったな。儂らも出ようか。」


「はい。」


「マイエもお腹すきました。」

 ハチナイに先導されて、ダンジョンを無事に出た。


「お師匠、初ダンジョンでした。ありがとうございました。」


「マイエも初ダンジョンでした!」


「初ダンジョンで初魔物討伐成功じゃ、祝杯をあげよう。

今夜の酒は旨いぞ。」


「いや、コボルトを仕留めたのはお師匠のクナイなので、討伐と言えるかどうか…。」


「初の戦闘で、投げたクナイが全部魔物に刺さってるだけでも驚異的さ。

良い弟子を持ったよ。」


「ハチナイ様、うどん様はそんなに凄いんですか?」


「あぁ、知り合いの冒険者に聞いてみよ、Fランクで仕留めた魔物がコボルトなぞ、中々聞かぬわい。」


「わぁ!」

マイエがパチパチと手を叩く。


「だからお師匠、あれ、私が仕留めたと言えないのでは?」


「おまけ、おまけじゃよ。」

 

 3人は足取り軽く森の中を街に向かってゆく。






○○○○○○○○○○

章の末尾まで読んで下さり、ありがとうございました。

これから、主人公うどんが少しずつ無双化していく予定ですが、そんなうどんを観たいよって方は ☆ 等で応援をよろしくお願いいたします。

@kuwanoharu


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