第7-1話 新ダンジョン捜索隊に爺が加わる

「不思議ねー、お爺ちゃんの師匠がアラサーの美女。

お爺ちゃんが弟子。

アラサーが先生。」

 

ケイが思った事を口に出している。


「枯れた爺いが弟子、色気たっぷりの美女が師匠。」


「おい、そこの小娘、口に気をつけろ。」


 サクラが、ハチナイの二の腕に自分の腕を絡ませてケイに敵意を向ける。


「ハチナイは爺いだけど、その辺の爺いじゃない。」


「お師匠、おケイちゃん、流石に儂も"爺い"を連呼されると気が滅入る。」


「小娘、今から私達はハチナイを連れてコボルト捜索に行く。

お前は帰れ。」


と、サクラが冷たい声で言い放つ。


「はあ!ハチナイさんは私とダンジョン探しに行くんだからね!」


 ケイもハチナイの空いている二の腕に自分の腕を絡ませる。


「小娘うるさい。

ハチナイに10年振りに会ったのだ、察しろ。」


「おーぼー、それは横暴。

オバサンておーぼーが板についててイヤ。」


二人の間の空気がバチバチである。

 ハチナイはうんざりした顔をしている。

 トギが3人の前に立った。


「お前らの見ものは面白れーんだがな。

忙しいギルドの入口前ではヤメロ。

コボルト捜索に行け。

ハチナイどの、お願い申す。」


サクラがニンマリする、ギルド長がハチナイにコボルト捜索を頼んだのだ。


「そーいう事で行こう行こう。」


 サクラがハチナイの手を取って移動を促す。


「トギさん…。くっ。」


 サクラに連れて行かれるハチナイを見て、ケイも追う。


「トギさん、ダンジョン名簿に私の名前を書いといて!

書いといてよ!」


「分かった分かった。」


「トギさん、これ貸しだからね!」

 

 衆人の注目を浴びながら、サクラ、ハチナイ、サクラのパーティの戦士、魔法使い、僧侶、とケイの6人が街外れに向かって移動していく。

 

 やれやれと溜め息をつく、が、ニヤリとも笑うトギだった。


「私ケイ!」


 根が明るいケイは直ぐに打ち解けた。

といっても、サクラのパーティの戦士、魔法使い、僧侶にだが。


「俺はスタンだ」

戦士が言う。


「私はシムス」

魔法使いが言う。


「セラムだ」

僧侶が言う。

 

 ハチナイとサクラが進む後ろをケイ、スタン、シムス、セラムの4人で付いて行く。

 

 街を出て30分ほど離れた場所に来ている。

 既に森に入っていて、森は倒木や蔓類、下草等が邪魔して歩きにくい。

 

森の中にも人が歩く道は有る。

 だが、道を歩いていてもコボルトやダンジョンは見つからないという判断だ。

 大木が無数に生い茂っている森は、遠くの見通しが利かない。

 街からなら東の方角の目印になる雲山も、森の中にいては見えない。

 

 ダンジョンというのは不思議なもので、山の斜面に入口が開く事もあれば、草原に落とし穴の様に入口が開く事もある。


 ダンジョンは生きていると言われる。

 ダンジョンが魔物を飼い、ダンジョンは生き物の精気を吸ってエネルギーにしているという。

 

 ダンジョンボスが倒されると、次のダンジョンが発生する準備期間になり、新たなダンジョンが発生する時に地震と共に入口が開く。

 そして役目を終えたダンジョンは地震と共に入口を閉じる。

 

 入口が斜面に開くとは限らないので、山を捜索しても見つからないダンジョンも過去にあった。

 どのエリアを捜索するかはパーティの勘次第である。

 

 6人は離れない様にして、四方を見廻しながら進んでいる。


「セラムさんてさ、どんな回復魔法を使えるの?」


「怪我を治す、病気を治す、毒を消す、体力の回復、のオーソドックスな魔法だよ。

まだBクラスには遠いけどね。」


「どうやって詠唱時間を短縮してるの?

 私、昨日コボルトの群れに襲われたんだけど、

攻撃魔法を撃てなくて。」


「まずは経験かなあ。

経験不足だと、詠唱中に速さを変えちゃって発動しない事がよくあったよ。

 早く回復魔法を与えないと前衛がヤバいって時に、詠唱の後半に早口になると無発動で最初からやり直しとか。

そんな時は後で怒られるねぇ。

 自分の詠唱時間が何秒かってのは把握しとかないとね。」


「うーん、学校で習った事と同じだなぁ。」


「学校では、知識は教えてくれるけど、経験値は増えないよね。

やっぱ実戦経験かな。」

 

 ハチナイ、サクラ、スタン、シムスの4人は、ケイとセラムのほのぼのした会話を耳の端で聞きながら、索敵しつつ進む。

 

 先頭でサクラが立ち止まった。


 パーティの後方ではケイとセラムの会話が続いている。


「よし、次はコボルトに攻撃魔法撃ってやる。」


「当たる様に祈るよ。」


「当たんないの?」


「動いてるからね、向こうも。

意外に避けるし。

学校だと対スライム位しかやってないよね。」


「まじかー。」


「この先に魔物の気配がある。」

とサクラが言う。

 

セラムとケイは黙った。


「まず、確認しよう。」


コボルトかどうか。

何体いるのか。


「左に回り込もうか、移動すれば見えるかもしれない。」


 6人は静かに姿勢を低くして左へ移動する。


「ビンゴ」

 

 コボルトが80mほど遠くに見える。

3体とも居る。

山の下部が小さな岩屋になっており、何かを食べている様子だ。

2体はこちらに背を向けている。


「どうする?」


魔法使いのシムスが問い掛ける。

 このパーティではシムスが副リーダーだ。

サクラとシムスがBランク。

スタンとセラムはCランクである。

 

 このメンバーで討伐するか、このまま見張りつつ冒険者ギルドに知らせに走るか。


「コボルト2体なら、迷わず討伐といきたいが、3体もいると五分五分か四分六で分が悪い。」


 6人で頭を寄せてシムスが話す。


「それって、私とハチナイさんは頭数に入ってる?」


「入れてない。

ケイは論外だろ。

ハチナイさんは?」


と言いながらシムスがサクラを見る。

 

 サクラが顎に手を当てて考えている。

 

 ケイが話そうとするのを、ハチナイが服を引っ張って止めた。

 無言で小さく首を振る。サクラのパーティはその無言のやり取りに気付いていない。


「ハチナイの実力は知っている積りだが、あれからもう10年も経ってる。歳も…、あぁー、いや。」


(ハチナイさんがいるから、3体なんて一瞬で終わるよ〜。)


 とケイは言いたくて我慢している。


(でも、Bランク二人にCランク二人のパーティでも、コボルト3体が相手だとこんなに緊張するのか。

 ハチナイさんていったい何者?)


「コボルトの居場所を知らせるだけでも報奨金は入る。

小額だが。」

セラムが言う。


「あのコボルトの居る岩屋の近くにダンジョンの入り口があったら?」


とスタンが言う。


「応援を呼んだら、ダンジョンを見つけた時の報奨金、金貨5枚はパーだな。

応援が何人編成で来るか分からん。」


とシムス。


「100人位で来るかもな。コボルトの近くにダンジョンがあると、冒険者なら皆そう思ってるよ。」


とサクラ。


「もう少し近付いて、ダンジョンの入り口だけでも確認できないだろうか?」


とスタン。


「入り口があれば、コボルトに見つからないように離脱して、ギルドに知らせたら、報奨金は我らの物だな。」


とシムス。

 

うん、とサクラのパーティ4人が頷いた。


 作戦としては、拳士サクラと戦士スタンの前衛二人が、コボルトに近付いて、新ダンジョンの入り口を確認する。


 見つけたら即撤退。

コボルトに気付かれない位置に離脱する。


 その後、セラムとケイがギルドに知らせに走る。

報奨金を6人が無傷で山分けする。


 これが、6人の目論む最良のパターンだ。

 


 もし、コボルトに気付かれ戦闘になったら、仕方ないが応戦する。

 サクラとスタンをシムスとセラムとハチナイで後方支援する。


 ケイは離脱して助けを呼ぶ。


 これが、第二のパターンだが、こうなると、サクラのパーティは全滅の可能性もある。


と4人は思っている。4人は拳を合せて見つめ合った。


「武運を」

と小さな声で囁き合う。


 サクラとスタンが右に出て行く。

 右側からの方が、コボルトからも、サクラからもどちらも視界が悪く見えにくいからだ。

 

 シムスとセラム、ハチナイとケイの4人はその場に留まる。

 コボルトが見えているので、サクラとスタンが見つかった場合即応出来るからだ。

難点はサクラとスタンの位置が見えない点だ。

 

 シムスとセラムはコボルトを注視している。

 シムスは攻撃魔法の詠唱を始めるタイミングを考えている。

見つかったら即座に雷撃を放つ積りだ。

 混戦になると味方もダメージを受けるからだ。


 ハチナイがケイの袖を引く。

ケイがハチナイを見るとハチナイが後方をちょいちょいと指差す。

 

 無言で二人はシムスとセラムから離れたが、二人は気付かない。


「なに?」


ケイが小声で問う。


「儂はこっそりお師匠どのの支援に回る。コボルトに見つからずに作戦に成功したら、こっそり戻って来る。」


「うん。」


「もし、戦闘になったら、その時もこっそり支援する。

お師匠どのもクナイ使いじゃから誤魔化せるからの。」


「手柄を譲るって事?」


「良いんじゃ良いんじゃ。

もし儂がコボルトを倒しても、おケイちゃんも話しを合せてくれるか?」


「…、分かった。」


「ではの。」


そうケイとハチナイはやり取りして分かれた。

 

 ケイはシムスとセラムの後ろにそっと戻った。


 サクラが身を屈めて慎重に進んでいる。

 プリッと形の良い尻の、4〜5歩後ろをスタンが続く。

 装備が軽く、身のこなしも軽いサクラが周囲を警戒しつつ先頭を進むのに適任だ。

 注意する事があれば、サクラが身振りでスタンに教える。

 段差が有る。

 蔦が邪魔だ。

 木の根が出ている、等とサクラが教えてくれる。

 

 音を立てない様に進まないと、コボルトに見つかってしまう。

 

 もし見つかったら、シムス達が居る場所へ一目散に逃げる事を打ち合わせしている。

 戦うならバラバラより、4人の連携で戦ったほうが勝率は上がる。

 逃げる時は、まずサクラを逃がして、スタンがコボルトに立ち塞がる積もりでいる。

 鎧に身を固めたスタンは、守備力が高い。

 サクラさえ先に逃がせば、何とか時間を稼ぎつつ合流しようと思っている。

 

 もう随分コボルトに近づいたと思う頃合いに、

 サクラが木の葉越しに岩屋が見える場所に出た。


 岩屋の奥は陽が当たらず暗いが、しばらく見つめていると、何となく見え始める。

 3体のコボルトの後ろの岩屋の暗がりから、ヒョイと4体目のコボルトが出て来た。

 岩屋のサイズからして、もしダンジョンが無かったら、4体目のコボルトは初めから見えていた筈だ。

 つまり奥に空間が広がっている。

 サクラはダンジョンの入り口確定だと思った。


(胸が高鳴る。大金ゲットだ!)


 サクラはそこを離れる為に体の向きを変えた。

スタンに指で◯を作って見せる。

下がれ下がれとも合図する。

スタンも体の向きを変える。

 不運なことに、スタンの鎧の隙間に木の枝が入り


「ザザリっ。」


 と音が立った。

 サクラとスタンは(ヤバいっ!)と、動きを止めた。





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