第3-1話 び、美味だ…この世界のアルコール

 部屋の椅子に座っていた全員が席を立った。


「それでは、この会議で決まった内容を部下に周知する事。

頼みましたよ。」


 領主ロフの指示を受けて、ロフ以外の全員が部屋を退出する。

 

 衛兵二人は扉の横で警備についた。

 

 歩きながらテイが言う。

「今日からうどん様はこの館に逗留して下さい。

部屋を用意してあります。」


 会議の内容からして、予想していた事だ。


「お昼ご飯を食べましょう、炊き出しの料理を食堂に運ばせます。」

 

 食堂に案内され、ティと向い合せに座るとマイエとエスタが料理を運んできた。

 トロミのついた野菜たっぷりのスープにハード系のパンと、乾燥肉を水で戻して焼いてある。


「お腹すいたでしょう?会議が長引いたみたいですね。」

とマイエ。


「うん、なんだか怖い様な内容も沢山聞かされて、どっと疲れたよ。」


「では元気になるように沢山召し上がって下さいね、ナカタ様。」



「その名前なんだけど…、川を渡って来られたナカタ様は、どこか他領の賊に連れ去られたよ。

こちらのお方はうどん様だ。」


と、意味有りげな眼差しで、テイがエスタとマイエに告げた。


「なるほど、そう云う事になりましたか。」


「そう云う事になったね。」


 料理を食べながら、テイが言う。

「今日からうどん様は3番の部屋にお住いになる。

 食べ終わられたらマイエがご案内してくれる?」


「分かりました。」


「あら、ウチにお泊まりなのはたった一日になってしまいましたか。」


エスタが寂しげに言う。


「仕方ありません。事情が事情なので。

その分こちらで、丁重におもてなしします。」


「ティさん、悪いおもてなしはしませんよね?」


「ふふん、どうかなぁー。

相性の良し悪しは確かめないと分からないし♡」


「コラ!」


「ふふーん♡」


「ティさんは悪女ですから引っかからないように、うどん様。」


「分かりました。」


(どんなおもてなし?悪女?相性?

今のテイさん、ちょっとエロい感じがしたが…。

 それにしても、領主様の部屋を出たら、テイさんかなりざっくばらんな感じに変わったなぁ。)

 

 エスタは炊き出しの片付け途中だったからと、退出して行った。


 

 うどんとテイが料理を食べ終わると、20代前半と思える屋敷のメイドが現れた。

食器を下げに来た様だ。

左目の下の泣き黒子が愛らしい。

テイがうどんに紹介する。


「メイドのユニです。ユニ、こちらがうどん様よ。」


「ユニです。よろしくお願いいたします。」


「うどんです。今日からお屋敷でお世話になります。」


 ユニが食器を持って退出したので、テイは立ち上がった。


「私はロフ様の元へ戻ります。

敷地内では自由にして下さい。

 ただ、住人の部屋もあちこちにありますので、勝手に扉を開けるとトラブルになるかもしれません。」


「分かりました。」


 テイが立ち去りながら言う。

「私の部屋は勝手に入って構いませんよ。

皆が寝静まった夜中にどうぞ。

8番です♡」


「は、はぁ。」


「うどん様。」

マイエに睨まれる。


 

 マイエに案内されて、廊下を歩く。


「領主様のお屋敷の事、詳しいね?なぜ?」


「昨年から行儀見習いに通っているんです。

親が望めばロフ様は受け入れて下さいますので、

 私と同様に通いで行儀見習いに出ている子も、何人も居るんですよ。

さっきのユニもその一人です。」


「へー、行儀見習いって何人居るの?」


マイエが少し考えて


「今、私を入れて5人ですね。当番で泊まる事もあります。

10日に一度位ですけど。」


 マイエが立ち止まって扉を開けた。


「こちらがうどん様のお部屋です。」

内装や調度品が豪華で広い部屋だ。


「炊き出しの片付けも済んでる頃ですので、私は皆と家に帰ります。

何か用事が有りましたら、廊下で誰かを呼べば来ると思います。

居なければ、先程の食堂で声掛けすれば、誰がが居ります。」


「ありがとう。

昨日から何から何まで。」


「明日は行儀見習いに来ますので、

また明日お会いいたしますね。」


 ニッコリ笑い、失礼します、と言って扉を閉めた。

 


 部屋に一人になっても、何もする事が無い。

 期待を一身に受けてる感じが非常に重たい。

 会議の内容も俺中心で重たかったなぁと思う。

する事が無いから眠気が訪れた。


「昼寝しよ。」


 ベッドに横になった。

自分の手を見つめる。

重かった片手剣を思い出す。


(あんなに重い武器を安々と振り回せるのが戦士だよなぁ。

 日本刀だって、重いと聞いた事あるし、これから体を鍛えなきゃなんないのかなぁ…。

 不安だ。スマホが無いから、情報を取れなくてさらに不安だ…。

色々不安だ…。)


(スパルタの鬼軍曹とかが俺の担当になって、毎日血反吐を吐くような訓練の日々…、

 なんて事は無いよなあ。俺、ごくごく平均的な体力に運動能力だもんなぁ。

 なんーにも秀でてるモノが無い、って自覚あるし。)


 部屋の中は静かで、自分の腕時計のカチカチ動く音だけが聞こえる。

時が静かに過ぎてゆく。


 

 夕方になると部屋にユニが

「お風呂に入って下さい」

と呼びに来た。

 

 屋敷の風呂は20人位が一度に入れそうで、広々した風呂を貸切にできて、最高に気持ち良かった。


「うどん様の服は洗いますね。」

浴場の外からユニの声がする。


「了解でーす、ありがとう。」

 

 長風呂から上がると、服が一式用意されていた。この世界の服だ。

 もしかしたら、もう前の世界の服を着る事は無いのかも知れない、と思いながら袖を通した。


 

 夕食の会場には、領主ロフ、テイ、マノウ、ヤモ、衛兵隊長アクス、うどんが顔を揃えた。


「まずは食べましょう。」


 ロフが言いながら薄く黄色い酒精が入ったグラスを持ち上げた。

 

 皆で唱和する。

「乾杯、ラビナの平和に」


 うどんは興味津々でグラスの酒精を飲んでみる。

生姜の様な匂いがする。まろやかで、ピリっとする感じもある。

よく見ると液体の中に小さな気泡も見える。

微発泡がピリっの原因かと思う。


「うまい!」


「美味しゅうございますか!」

マノウが破顔する。そして、


「昨日は突然のお越しで、あまりおもてなしする事が出来てませんでしたなぁ。」


「これはスワンの自慢の酒でピピと言いまして、スワンの大事な交易品の一つなんですよ。」

テイがニッコリ笑う。


「他領でも人気の酒でな」


アクスは既に二杯目を半ばまで呑んでいる。


マノウがうどんのグラスに二杯目を注ぐ。


「このピピのお陰で気持ちがゆったりほぐれました。」


「この前菜は如何です?」


 菜の花の煮浸しの様な物、の上にナッツを砕いた様な物が振りかけられている料理だ。


「これまたうまーい!」

うどんの喜びように、皆の表情も緩む。


「料理はどんどん出て来ますよ、存分に召し上がって下さい。」


ロフも嬉しそうにしている。

 

 歓談しながら次々と料理を食べると、親睦が急速に深まったのを感じた。

 

 アクスがホロ酔いに任せて、魔獣退治の時の失敗談を面白可笑しく語りだすと、皆で腹がよじれる程笑った。

 

 ヤモはケイの幼い頃の利発さを自慢し始め、親バカぶりを呆れられた。


(異世界かもしれないけど、料理もお酒も口に合う。

そして何より、この人達は朗らかで良い人達だ。)


マノウ、ヤモ、アクス、テイは


「ダンジョンに持っていける道具が一つだけだったら、何を持っていくか?」


の話に夢中になっている。


「まだ呑めますか?」

ロフ様が気遣ってくれた。


「えぇ、あと少しだけ。」

ニッコリ笑うと


「では、これも呑んでみて。」

と言いながら小瓶から青い液体を数滴ピピに注いだ。


「味変です。」


うどんがそれをゴクリと呑んでみる。


「うわっビリビリな味に変わった。」


 ほんのりした甘みが無くなり、より度数の強いアルコールに変貌した様に思う。


「これはこれで美味しい。」


「でしょう!私は5滴が一番美味しく感じます。

うどん様もお好みの味を見つけて下さいね。」


 そうして深夜まで楽しい時は続き、やがて自室に戻ったうどんは、酔った目で窓の外の夜空を眺める。

 星が沢山煌めき、賑やかな星空だ。


「この世界でなんとかやっていけそうだなぁ」


 

 ロフの部屋では、ベッドで神様に祈りを捧げるロフの姿があった。


「うどん様はとても良い人でした。

 これからうどん様に降り注ぐ苦難が、乗り越えれる程度の苦難でありますように…。」


 楽しかった夜が寝静まっていく。




 

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