第14話 キマイラとハチナイ
領主ロフの執務室。
領主ロフ
衛兵隊長アクス
自衛団長ヤモ
冒険者ギルド長トギ
秘書官テイ
の5人が深刻な話しをしている。
「コボルト騒ぎの次はキマイラですか。」
ロフが感情を抑えて言う。
「架橋作業完了を目前にして、これでは吊り橋のお披露目とお祝いどころではありません。」
テイの表情も硬い。
「ギルドから討伐を依頼した冒険者パーティが3組、無惨に敗退しています。」
トギが、申し訳なさそうに報告する。
「1組は、"スピードスター"ローワが率いる、全員がAランクのパーティ。
2組目は、"鉄塊"ウキが率いる、これも全員がAランクのパーティ。
3組目は、"幻影"こと魔法使いレビが率いる7人組のパーティ。
こちらは、ランクはAとBが混在してますが、7人と人数が多く、この3組では一番強いパーティです。」
「他領にも名が知られる冒険者パーティばかりですね。」
ロフが3組の討伐履歴に目を通している。
「これだけの実績があるパーティすら、瀕死の状態を負わされるか。
キマイラ、書物で読んで知識としては知っているが、実在するとはな…。」
ヤモとしても何か手を打ちたいが、架橋作業の警護にも多くの人員を出している。
「その3組より可能性のあるパーティに討伐依頼は出せないの?」
テイがトギに視線を向けて言う。
「もう、その3組以上に強いのは近くに居ないのだ。」
「あとは、他領から実力者のパーティを呼ぶしか思い浮かばん。」
冒険者を把握しているトギにとっては、苦しいところだ。
「ハチナイ様に頼んだら?」
テイが言うのを。
「パーティを組んでないハチナイ様が、キマイラを倒せるとは思えんが…。」
ヤモが疑問を口にする。
「俺も、もしかしてと思って打診したんだ。
もう断られたよ。役不足じゃよ、とな。」
「後は総力戦で冒険者、衛兵隊、自衛団で、100人編成の部隊でも作って戦う事位しか思い浮かばん。それでも勝算は低いかもな。」
アクスも歯痒い。
「時間が掛かるが、さっきの3組の回復を待って、3組連合の討伐隊を編成かな。
今回ばかりは手を組まざるを得んだろう。」
妙案の無いトギの言葉は歯切れが悪い。
「3組は仲が悪いのか?」
「テイさんよ、強いパーティはどこも主張が強い。
いつも張り合ってるよ。
だが今回ばかりは、手を組むと思う。」
「今は衛兵隊も自衛団も人数を減らしたくない。3組の回復を待とう。」
ロフには、この消極的な策しか手立てが無いのがもどかしい。
「キマイラの餌になりそうなモノで街から遠ざけられないか、検討して欲しい。打てる手を打とう。スワンを守る為に。」
ロフが願いを込めて言う。
最悪の場合、スワンがキマイラによって、壊滅的な被害に合うかもしれない。
そんな切実さを思い知ったロフだった。
ハチナイが1人、森を歩いている。
この森には目的があって来た。
ハチナイが所有する長剣を、とある木のウロに隠してある。
「どこじゃったかな?」
左右を見回しつつ進んでいる。
「あの木じゃあの木じゃ。」
手を差し込んで、木のウロから取り出した長剣は、ピカピカに光っており、優雅さと高貴さを兼ね備えた上等な剣だ。
ハチナイは森を抜けて、スタスタと歩いて行く。
向かっているのは、キマイラが出没する西の丘だ。
「さて、多分この辺りじゃが…。」
しばらく待っていると、人の匂いを嗅ぎつけたか、キマイラが木立の中から丘に出て来た。
「おー、良かった良かった。空振りを避けられた。」
キマイラを前にして、まったく動じていない。
自分より2〜30倍は有りそうなキマイラを呑気に見上げる。
キマイラが、獅子の頭とヘビの頭で威嚇する。
獅子は咆哮し。
ヘビは、首の長さを活かしてハチナイの背後を狙う。
まず、ヘビが襲い掛かる。
ハチナイは長剣でヘビの首を斬ろうとしたが、皮膚が硬く弾かれた。
しかし、ハチナイの長剣の威力は強く、キマイラの体の後方までヘビの頭が振り飛んだ。
「やはり、硬いの。」
キマイラは、ハチナイに獅子の前足を振り下ろす。
ハチナイは驚く程の速さで体の下に潜り込んで、前足の付け根を左右とも長剣で切った。
駆け抜けて、キマイラの横に居る
キマイラの血が噴き出す。
キマイラの回復魔法が発動し、徐々に傷が塞がる。
キマイラが怒り狂う。
「ヘビの鱗以外は、普通の硬さかな。」
この巨大なキマイラを前にして、ハチナイの態度は平静だ。
「では、こっちに来い。」
ハチナイが近くの林にキマイラを誘う。
キマイラが吠えながらハチナイを追う。
「いいぞいいぞ。来い来い。」
林を背に立ち止まるハチナイ。
「回復するより早く斬り刻まれたら、堪るまい。」
ハチナイがキマイラに飛び込んで、鮮やかに前足を斬り落とし。
次いで転倒したところを、後ろ足を斬り飛ばし。
獅子の頭を斬り落とし。
獅子の胴体と、ヘビの頭の付け根を、スパっと斬り断った。
あっという間に、キマイラ討伐が終わった。
「ほい。」
ハチナイが林の地面に剣を入れる。
と、ズバッっと地面が裂けた。
「ほい」「ほい」
場所を変えて数度地面を斬ると、大きな穴が出来上がった。
キマイラの死骸を穴に放り込んでいく。
キマイラを討伐する時間より、穴を掘って埋める作業の方が時間を要している。
とはいえ、穴を埋め戻すと、さすがのハチナイも少し疲れた様だ。
少し盛り上がった部分はあるものの、そこにキマイラの死骸が埋まっているとは誰も気付かないだろう。
ハチナイがキマイラを隠す作業を終えて、もと来た道を歩いて戻っている。
長剣を元の木のウロに隠した。
「今日の酒も旨いぞー。
晩飯は何を食おうかのう。
今日の気分はポテサラかなぁ。
フフン、ザカの居酒屋に行こうか。」
満足そうに、スワンの街に帰るハチナイだった。
10日後。
瀕死の状態から回復した、3組のパーティ。
"スピードスター"ローワ組
"鉄塊"ウキ組
"幻影"レビ組
の総勢15人は大量のポーションを背負って、キマイラの出る丘に来た。
全員が雪辱を期して、やる気に満ちている。
気力は充実し、鼻息も荒く乗り込んだのだが、何日待ってもキマイラが現れない。
そよ風が吹き、小鳥が囀る丘は、強面の冒険者達に不似合いな場所のまま、静かに時が過ぎる。
「俺達を恐れて、さすがのキマイラも怖気づいて出てこれないらしいな。」
「全くだ、やはり、たかが魔物風情だな。勝てぬと察知して逃げおった。」
等と口々に強がるものの、内心は
(キマイラがどっかに行ってくれて良かったー。)
と皆が思っていた。
パーティ事に囁き合う。
「このままキマイラは出て来ないのか?
また来るのか?」
「また出るなら早くスワンを立ち退こう。」
「キマイラが別の街に移動した可能性もある。」
「どの街だよ。行かないぞ、絶対行かないぞそんな街。」
スワンを出るか、それとも残るのか。キマイラの居る場所だけは、何としても避けたい冒険者達の葛藤は、数日間続いた。
ココまでお読みいただいて、ありがとうございます。
小説を書くのは初めてなので、よくここまで長い文章を繋いでこれたなと、感慨深いです。
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やる気出ます。@kuwanoharu
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