第18話

 ヒナは手際良く撮影作業を進めていき、脅迫や時として暴力を振るっているところもカメラに収めた。


「よしっ! 後は編集してリークするだけ! さてさて〜〜どんな手でこらしめてやろうか」


「楽しんでるねヒナ」


「元々その気配はあったが、日に日に性格がねじ曲がりつつあるからな……」


 ヒナにもいろいろあるのだろう。今度ゆっくりと話を聞いてもいいかもしれない。


「でもこの場を見過ごすことになってしまうのは心が痛むな……。ここで何かできることもないし」


 僕は視線を業田たちへと向ける。今もこうして行われている行為。ここで下手に介入しようものなら状況が悪化してしまうかもしれない。


 ここはグッと我慢。理性がそれを理解していても、本能は何かしなければと思っている。


「耐えろシキ。負けが確定している状況で戦うのは得策ではない。たとえそれが義で戦ったとしても」


「それは……そうなんだけど」


 歯を食いしばって僕はそれを耐える。何もできない自分の無力さを感じながら。


「ま、安心してよお兄ちゃん。あいつらの目的が何かは知らないけど……絶対に奴らには相応の報いを与えさせるから。

 それに、きっとお兄ちゃんができないことをするために、お兄ちゃんの相棒は色々と動き回っているんだと思うよ」


「そうだね。ヒナと……今はジンを信じて待つよ」


 僕に相互探索者互助会のことを教えてくれたジンは今、色々やることがあるらしく、動き回っているみたいだ。


「ささ、私たちは取り敢えずここに来た目的。探索に行かないとね!」


「そうだな。魔物を倒して溜まりに溜まった鬱憤を晴らそうじゃないか」


 本来の目的を忘れてはならない。僕らは今日探索をしにきたのだ。取り敢えず、相互探索者互助会のことは一旦忘れよう。


 今から行こうとしている下層、深層は他人の心配をしながら戦えるほど優しい場所ではない。


 僕らは気持ちを切り替えて下層へと潜っていく。


 下層に入ると探索者の人数は一気に減り、代わりにピリピリとした冷たい空気が漂う。深層に近づけば近づくほど、その空気は鋭く、冷たくなっていく。


『クオッッッケエエエエエシャアアアア!!!』


「ヒナの獲物みっけ!」


 下層と深層の間くらい。そこで鶏と蛇が合体したような見た目の魔物——コカトリスと遭遇する。


 コカトリスは毒系の攻撃を多用し、ほぼ全ての攻撃が猛毒を帯びている。見かけたらとにかく逃げろ。それが探索者たちの常識だ。


 しかし僕たちにそんな常識は通用しない。コカトリスを見かけたヒナは超高速でコカトリス目掛けて跳んでいた。


「武装創造——地脈砕き」


『クオッ!?』


 それがコカトリスの最後の鳴き声だった。次の瞬間、ほぼ二発同時に放たれたヒナの攻撃。それはコカトリスの鶏の頭部と尻尾のように生えた蛇の頭部の二つを砕く。


 ヒナはいつの間にか手に持っていた半透明の超大型ハンマー……恐らく大きさ三メートルは越すだろうものを地面に突き立てる。すると、それは影も形もなかったかのように霧散して消滅した。


「相変わらずすごいなヒナの武装創造」


「えへへ〜〜そうでしょ! 前よりもたくさんの武器を作れるようになったんだよ!」


 ヒナのメインジョブはウェポンクリエイター。ヒナは武器をその場で作ることができる。


 もちろんいろんな制約があったり、使いこなすのに訓練が必要だ。でも使いこなした場合の戦闘における対応力は、錬金術師の僕を遥かに上回る。


「毛皮を取るためとはいえ見事な手口だ。腕を上げたなヒナ」


「お姉ちゃんにそう言われるとすごく嬉しいや……。ありがと!」


 ヒナは笑顔でそう言いながら、ポーチから小さな青色の石を取り出す。これは転移結晶。物や人をダンジョンの外に送れる。


 魔物の死骸は基本的に転移結晶でダンジョンの外に送り、ダンジョンゲートで換金だったり、解体の依頼を出したりするのが基本だ。


 魔物の死骸はとにかく使い道が多い。特に強い魔物は特殊な生体器官を備えており、それはあらゆる物に利用される。魔物の死骸は高値で企業や国が買い取ってくれるのだ。


 転移結晶でコカトリスを転移させたら、探索再開。下層も奥になると魔物の数が減る。代わりにそれより上の層では考えられないほど強い魔物が出現するようになるのだ。


 探索を再開してから数分。僕たちは二体目の魔物に遭遇する。


『グギャオオオオオ!!!』


「ライトニングワイバーンか。よし、私の獲物だ。ちょっとブレスを浴びてくる」


「気をつけてね義姉さん……」


「本当に浴びるつもりなんだお姉ちゃん……」


 全身が青色の輝きを持つ鱗に覆われた翼竜。ライトニングワイバーン。


 ワイバーンは様々な種がおり、中層から深層までと広く生息している。強さは当然深層になるほど強くなっていく。


 ライトニングワイバーンはそのワイバーンたちの中でもトップクラスに強い。青色の雷を身に纏い、その雷をブレスにして解き放ってくる。

 大きさは四メートル前後とワイバーンにしては一般的な大きさだけど、攻撃力、防御力、速度は群を抜いているだろう。


 ライトニングワイバーンは自分の前を歩く探索者、義姉さんを視界にとらえると口を大きく開いて、全身の雷を口元に集める。


 ——ライトニングブレス。落雷の何十倍の威力を誇るライトニングワイバーンの必殺技。直撃を喰らえば、深層の魔物さえ消し炭になるだろう。


 しかし、そこに立っているのはトップクラスの探索者。義姉さんはライトニングブレスに対して、特に何をするわけでもなく、ただ平然と立っている。


『グギャオオオオオ!!!』


 それを見て怒り狂ったのか、ライトニングワイバーンはブレスを義姉さん一人に浴びせる。本来なら大群を薙ぎ払うようなブレス。それを一人を殺すためだけに集中させている。


 その威力は計り知れないだろう……しかし、義姉さんの実力はそれを遥かに上回る。


「一、二、三、四……なんだ意外と余裕だなこれ」


「嘘でしょ……」

「義姉さんって何でできているの?」


 義姉さんはブレスを全身に浴びながら指折りで秒数を数えていた。


 あまりにも異常な光景に僕とヒナはドン引きしていた。いやいやこれは普通に考えてありえないもん。一体どんなスキルを獲得したりすればこんな風に耐えられるんだ……?


「七、八、九、十。ヨシ、お返しだ。受け取っていけ」


 義姉さんがそういうとだ。ブレスが一瞬のうちに消滅した。そして、次の瞬間。義姉さんの前の空間からライトニングブレスが解き放たれる。


『ギ……ギャオオオオオオ!!!?』


「反射した……!?」


「ただの反射じゃないよお兄ちゃん。多分あれ威力数倍は盛ってる」


 ライトニングワイバーンは雷を操るため、当然雷系の攻撃には高い耐性を持つ。しかし、その耐性があっても受け入れないほどの雷の奔流。


 ライトニングワイバーンはそれに耐えきれず、身体の端から炭化していき、やがては完全に消滅した。


「完全消滅……」

「それも義姉さんは無傷というね」


 何事もなかったかのように踵を返して僕らの元に戻ってきた義姉さんはドヤ顔でこう口にした。


「これがお姉ちゃんの実力というやつだ」


 マジで義姉さんが僕たちの味方でよかった。



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