第15話
僕は突然現れた朝比奈リンにびくりと肩を震わせる。ややややややばい!! あれは怒っている!!
何がだめだったんだ……? ローブを着させたこと……? そ、それともカッコつけたようなセリフを言っちゃったこと……? それともこちらから挨拶に出向かなかったことかなあ!?
頭がグルグルと混乱している僕をよそに、朝比奈リンはいつのまにか僕に近づいていた。ま、まさか暗殺者のスキルツリー伸ばしてたりする!?
「先ずはこれ、ありがとうございました。一応知り合いの裁縫士の子に頼んで洗濯とクリーニングしてもらったから汚れとかはないと思うけど、一応確認してもらえる?」
「ひ、ひぃ!? ああああえええと、ありがとうございます? お手数おかけしました?」
突き出された紙袋。その中には綺麗に折り畳まれた僕のローブが入っていた。あの時、僕が朝比奈リンに着させたやつ……。
「丁重にお返しします」
「え……えぇ!? ど、どうして!? ちゃんと綺麗にしてあると思うけど……」
「いやそんなことはなくて気遣いはすごくありがたいんですけど朝比奈リンさんが一度着たりしたものを受け取るのはなんだがこう、上手く言葉にできませんが僕の中で許せないものがありまして。それはあげます。だからそのまま朝比奈リンさんがお使いください」
う、ウワアアアアア!!! ぼ、僕は一体何を超高速の早口で言っているんだ!?
だだだだだだだめだ! 上手く話そうとして上手く話せない! 僕は何を上手く話そうとしているんだ……?
困惑して頭が混乱している僕と、僕の対応に困惑している朝比奈リン。その間にジンが割って入る。
「すまんのぅ。こいつコミュ障でこの学校だとまともに話せるのはワシだけなんや。
まあそれはリンちゃんが使い。お近づきの印にあげると言っとるで」
ジンの言葉に乗って頭をぶんぶんと振って頷く。
ジンがいなかったら致命傷だった……助かったジン。僕の相棒は君以外考えられない。
「ええ……でもそれじゃ私だけが助けられて……。それにこんな高性能な魔道具を貰うなんて……」
「それくらいの魔道具ならこいつはすぐ作るから平気や平気! なあシキ!」
またもぶんぶんと頭振って肯定の意を示す。
まあそれはヒナが裁縫士のスキルで作ったローブに錬金術で効果を付与したものだからすぐには作れないけれど……いや、ヒナだったらなんだかんだすぐに作るか。
まあ僕ら二人からしたら大した手間がない魔道具だ。
「あーじゃあ、連絡先の交換とかしませんか? その、今度機会があえばコラボ配信とか……」
「こらぼ……はいしん……?」
朝比奈リンと僕が?
いやいやいや住む世界が違いすぎる。魔界と神界くらい住んでいる世界に違いがあるのだ。
無理無理無理無理。コミュ障の僕と、事務所に所属しているようなダンジョン配信がコラボ配信!? 僕の脳みそが溶けて消滅しちゃう!!
いつも錬金術に使っている脳みそを、普段使わないコミュニケーションに使ったせいか、僕の脳みそはオーバーヒートを起こす。今頃、二人の目にはボスッ! と頭から黒い煙が出ているように見えるだろう。
「ごごごごごめんない!! 本当に勘弁してくださいいいいい!!!」
「え……えぇ!? なななななんで逃げちゃうの!?」
「あーこの光景久しぶりに見たなあ。ままままリンちゃん、あいつには早すぎた世界ちゅーことでな、色々とすまんわほんま」
なんで逃げているんだ僕!? 後ジンナイス! そのままフォローよろしく今度ラーメン奢るからアアア!!!
そんなこんなで僕は脱兎のように教室へ駆け込むのであった。
***
「今日はなんか色々と疲れた……」
「む、珍しいな。シキがそんなことを口にするなんて。よし、お姉ちゃんがハグしてやろう。今日だけは特別だ」
「あーお姉ちゃんずっこい!! 今日は私が来ているんだから私がお兄ちゃんとイチャイチャするの!!」
「ふん、愚妹め。押しかけたくせに何をいうか」
学校が終わって、僕は動画のため、義姉さんのギルドハウスにきていた。
そこで一息つこうとしたが……今日はいつも見ない顔ぶれがいる。
現在進行形で義姉さんとグギギと争っている少女。いや顔とかは童顔だなあって思うけど、身長は多分一七〇くらいはあって、足もスラリと長いモデル体型。
綺麗に染めた金髪をツインテールにして、幼さを残し、ニコリと笑えば天真爛漫な少女のような印象を与える顔。
そう、今僕の目の前で争いを繰り広げている彼女こそが白宝ヒナ。僕の義妹である。
「……なんでヒナがいるの?」
「ヤッホー! お兄ちゃんひっさしぶり〜〜! え、だってお姉ちゃんとこんな面白そうなことをしているなんて知ったら混ざるでしょ! 今日は事務所の会議で配信お休みだしさ!」
「私がここにこようとしたら無理矢理ついてきてな。全く困った妹だ」
はぁ……とため息をつく義姉さん。あ、でもヒナに伝えないといけないことがあったからちょうどよかった。
「そういや、僕が使ってたローブ。色々と訳あって朝比奈リンさんにあげたよ」
「…………マジ? まあでもだんちょーならいいか。あれ自体そんなに作るの苦労しないし」
あのローブはヒナが裁縫士のスキルで作ったものだ。それに僕が錬金術でさらに効果を上乗せしたみたいな。
事後承諾になってしまったけどヒナが許してくれてよかった……。
「はいはい。今日は次の動画を決めるぞ。この際だ。ヒナの意見ももらうぞ」
「ハーイ! 個人勢のそれもお兄ちゃんの動画会議か〜〜ワクワクするね!」
「そうかなあ? そんな大したことしていないはずだけど……」
そんなこんなで次の動画を決める会議が始まる。
基本的に流れは僕が考えてきた動画の案と義姉さんが考えてきた動画の案、その二つを出し合って、どれができそうか、どれが視聴者の役に立ちそうかを考える。
「採取系素材はやったから次は魔物系素材はどうかな?」
「ありだな。ただ、素材解説系が連続するから一回は別の動画挟みたいと私は思ってる」
「はいはーい! じゃあ錬金術のスキルツリーの伸ばし方とか、このスキルを目指そう的なやつは? 本職のお兄ちゃんならより詳しい解説できそうだし」
「あ、確かにそれは盲点だった。生物系のスキルツリーはあんまり伸ばしていないけど、それ以外なら解説できそう」
と言った具合に義姉さんがホワイトボードに書き込んでは消して、書き込んでは消してを繰り返し、三十分程度で動画のテーマが決定する。
「よし! 次は錬金術のスキルツリー解説、一旦簡単な魔道具製作動画をあげて、その次に魔物系素材解説で行こう!」
「おぉ! 魔道具かあ……何を作ろうかな」
水が湧く水瓶か……それとも植物の成長速度を早める植木鉢とか……あの辺なら簡単に作れるし、極めたら素材に困らなくなるから丁度いいかな。
あとは解説するスキルツリーについても思い出さなきゃ。でもどれから取るべきなんだろ……流石に魔法薬系か? 需要高そうだし。
動画のネタであれこれ考えているとトントンとヒナが僕の肩を叩く。ヒナは僕の顔を覗き込むようにしてみると、こう口にした。
「ねえ、お兄ちゃん。久しぶりに探索いかない?」
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最後まで読んでいただきありがとうございます!
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