第14話
少し時間を遡る。
「白宝シキ……?」
私——朝比奈リンは雑談配信で出てきた名前を反復する。
私を助けてくれた謎の探索者。同じ学校というのは確信は持てるけど、それ以外は何もわからない。
ただ、コメント欄を見るに、知っている人がいそうだったので名前を聞いてみたのだ。
"最近話題のとんでも錬金術師"
"前に魔道具だけで下層無双してた"
"エリクサーとか賢者の石を作れるくらいにはすごい錬金術師"
「魔道具だけで下層無双……エリクサーとか賢者の石……、実在してるのか怪しくなってきた」
日本はダンジョン探索者後進国と言われている。法整備が遅かったり、エンタメ要素に寄りすぎてたり……他の国から見たら、探索者のレベルはかなり低い。
そんな中で、エリクサーや賢者の石といった錬金術の秘奥とも呼べる超高等級のアイテムを作れる錬金術師がいるなんて……私は思いもしなかった。
けど、そんな人なら下層の魔物相手に無双することもできちゃってもおかしくない。
「え? というかなんでみんなそんなに詳しいの? その人何かやってる?」
"URL、配信者だよ〜〜"
"最近ダンジョン配信始めてた"
"個人勢だと思う"
私はコメント欄を見つつ、URLをクリックする。シキの錬金術チャンネル……ヘッダーやチャンネルアイコンは正しく動画初心者ですよと言わんばかりのクオリティだ。
自己紹介とかも未設定……SNSアカウントや他サイトへのURLもなし……登録者数八万!?
「うそっ!? 個人勢でこんなに伸びてるの!?」
"やばいよね"
"もう登録者数八万超えてる……"
"切り抜きがクソバズってる"
"ほんとにいるんやな天才って……"
「ちょっと動画流してみるけど、画面共有とかしてもいいかな?」
"オケ"
"おねがいしまーす!"
"何気に初見だから楽しみ"
"↑マジぶっ飛ぶから覚悟しときな?"
私はコメント欄の反応を見つつ、動画を幾つか再生してみる。
内容は至って普通の錬金術の動画。編集とかカメラワークはちゃんとしてる……。とても素人とは思えないクオリティだ。
ただそれ以上にぶっ飛んでるのが……。
"エリクサーで草"
"エリクサーをポーションと言い張る人"
"虹色のポーションで大草原"
「エリクサーってあの……? 海外勢でもあんまり出回らない錬金術の魔法薬だよね?」
"オークションとかで百万からで取り引きされてるようなやつ"
"噂によると飲むとどんな傷とか病気も一瞬で完治するらしい"
"あまりにも貴重すぎて使われてるところほとんどないらしいけど"
私の頭の中はフリーズしてた。ポーションの作り方動画でエリクサーを作る錬金術師。この人がどんな目的で動画投稿をしているのかわからない。趣味かもしれないし、もしかしたら別の意図があるかもしれない。
私はただただ勿体無いと思った。むしろ腹立たしいくらいだ。こんなダイヤモンドみたいな原石を前にして、無造作無加工で放置みたいな所業、一配信者としてなんだか心がモヤモヤしてきた。
「あ、みんないろいろ教えてくれてありがとうね! じゃあ、最後にスパチャ読みいっくよ〜〜!!」
"待ってました!"
"スパチャの時間だ!!"
"今日も爆笑スパチャ転がってますように!!"
"切 り 抜 きの時間だ!"
取り敢えず明日、このローブを返さなきゃ。私はそう思いながら配信に集中するのであった。
翌日、登校した私は早速白宝シキについて聞き回る。……けど。
「白宝シキ……? ごめんわからない」
「誰? 知らないよ」
「いやうちのクラスじゃないんじゃないかな……?」
「なんで見つからないの……!!!」
私はローブが入った紙袋を持ちながら、そう口にする。
朝登校してから昼休みが始まるまで、使える時間は全て白宝シキを探すために使った。昼休みに一緒にご飯を食べようという誘いも断って、探してるのに一向に見つかる気配がない。
同じ学校、それも同じ学年というのは確信を持っている。けれど私が知っているような友達とかはみんな口を揃えて知らないというのだ!
「こうなったら絶対に見つけてやるんだから……! これを返さないといけないし、それに……!!」
昨日の雑談配信や助けてもらって冷静になって色々と言いたいことが増えた。自分の身勝手な感情というのはわかる! けれどこの感情は本人に伝えなきゃ収まる気がしない!
けどそんな私の思いとは裏腹に昼休みも一向に白宝シキが見つかる様子はない。ドンドンと溜まっていくフラストレーションに、私自身、彼を前にした時何を言い出すか分からなくなってきた。
「何を話そう……? 助けてくれてありがとうは当然だとしても、けどいつも通りの私で話せるかな……? 変なこと口走らないかな私」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、階段を登っていく。その時だ。考えごとをしながら歩いていたせいか、普段は行かない屋上付近まで私は階段を登っていた。
「あ、ここ屋上じゃん。戻らないと……」
と思ったその時。
屋上から男子二人の笑い声が聞こえてくる。ああ、そういやうちは屋上解禁してたんだっけ。そんなことを思いながら階段を降ろうとして、私は足を止める。
「この笑い声って……」
もしかするともしかして……私が探している白宝シキのものなのでは?
私はそろーりと扉の隙間から屋上を見る。
そこには学生服姿の白宝シキ、それともう一人背が高い男子生徒がいた。あれ? あの人は確か大氾濫の時に白宝シキと一緒に戦っていた……。
けどそれ以上に……私は白宝シキに視線が釘付けとなっていた。
あんな風に戦っていた子が、あんな風に笑うんだ。
私よりも少し背が小さい男の子。あんな小さくて細い身体で、彼はキマイラと戦っていた。
あの日の光景がフラッシュバックした私は、気がつけば足を踏み出していた。もうこの足は止められない。
取り敢えず、私は言いたいこととか、自分のキャラクターとか、そういうのを全部抜きにして、ただ頭を空っぽに、彼へ胸の奥から言いたいことを言おう。
「み、つ、け、タアアアアアア!!!!」
それがまさかこんな声だったとは私も思わなかったけれど。
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