第13話
激動の週末が終わり、月曜がやってきた。週末に大氾濫があって、キマイラと戦って、チャンネルがバズって……そんなことがあったとは思えないくらい、日常は何事もなく進行する。
当たり前のように学校あるし、僕は当たり前のように授業を受ける。そして、いつものように学校の屋上で、ジンと昼休みを過ごしていた。
「平和だねえ……」
「あんなことあって、それいえるお前さんの胆力に驚きやわ」
いやいやいや、あんなことがあったからこそ、変わらない日常に平和を実感するんだよ。
「しかしすんごい勢いやな。チャンネル登録者数、十万人。そろそろわしと同じやんけ」
「まさかそこまで伸びるなんて……。けど、これからどうしよう……? 本格的に固定客作りに行きたいんだよね」
「ワシみたいな業務提携じゃあかんのか?
素材を取ってきてもらう代わりに、リターンとして魔法薬や魔道具を専用調合するっていう条件」
「それはジン以外にはなあ……。コミュ障の僕に対して信頼寄せてくれるような人がいるかどうか……」
「それもそうか」
僕がちゃんと話せるのはジンと義姉さん、それとヒナくらいだ。
コミュ障の僕に対して、業務提携みたいな話を持ちかける人がいるかどうか……。それにジンみたいに専用の魔道具とか魔法薬を専用調合するために、話とか聞くこともできないし……。
「どっかの探索者系の大企業の娘さんが、お前さんのこと溺愛してスポンサーになってくれたらええのにな!」
「またまたそんなことあるはずないじゃないかあはは〜〜」
「それもそうやな! キハハハ!!!」
……あれ? このやりとり前もしなかったか? そして現実にならなかった?
いやいやそんな今回は流石に夢物語が過ぎる。流石にそんなことが起きたら、僕に何か取り憑いているんじゃないかって疑うよ。
「でもなあ、このまま配信者一択でもええ気がするんやけど、その辺どうなんや?」
「うーーーん、それも考えたけど……。でも錬金術師としてお店とか持ってみたいんだよね僕。配信はそのついで」
配信は固定客とかを集めるための手段の一つだ。僕の目的はあくまで錬金術師として商売すること。
いつしかはフリーマーケットの一等地でお店を……なんてこと考えている。あそこの土地代すごいけど。
「ということでジン。また知恵を貸して欲しい。お客さん作るためにはどうしたらいい?」
「そう言うと思ってな、もう考えてきてあるんや」
おおっ! 流石ジン! 頼りになる!!
「ポーションの素を売ってみるつもりないか? 多分作れるやろそういうの」
「ポーションの素……?」
ジンから説明を聞く。
僕の錬金術師としての実力は動画や配信で一定の信頼を得ている。ならば次のステップとして、何かグッズを売り出そうということだ。
ただのグッズではない。錬金術師らしく、実用性に溢れたグッズだ。
その第一歩として水に混ぜるだけで簡単にポーションが作れるポーションの素を販売してみたらどうだ……それがジンの戦略だ。
「お前さんが作るポーションはほとんどエリクサーの域やからな。これが売れて本当に効果があった! となれば錬金術師としての信頼も上がり、必要もする探索者も増えるやろ! どや? いけそうか?」
「いけなくはないけど……試算した感じ普通にポーション買うよか割高だし、手間がすごいから大量生産はできないよ。多分だけど」
「……マジ?」
「あ、うん。今の数秒で試算終わった。コスパ悪いねこれ」
頭の中でポーションの素を作るための手間と、そのためにかかるコストを試算する。
水に溶かすだけでポーションになるというのは発想はいいけど、実用するのは難しいだろう。材料を乾燥させたり、粉末状にする手間、調合に時間がかかってしまう。
さらにハーブ系列は乾燥させたり、粉末にしたりすると効果が変わってしまうから、そこまで考えると品質厳選は必要になるからかなり割高になる。
「もう少し設備があったらポーション直販売するけど、流石に簡易キットだけじゃなあ……。あ、でも味変する粉とかなら作れそうだよ」
「味変する粉ぁ……? ああ、そういやポーションって普通は激まずなんか。お前さんのしか使わんから、危うく忘れるところだったわ」
ポーションは普通激まずなのだ。それもハイポーションやエリクサーなど効果が強いものになるにつれて、その味も不味くなっていく。
味変スキルをとった僕はそこら辺の味変ができるけど、他の人は不味いのを我慢して飲まなくてはならない。
「前試作したことあるんだよね。割と手軽に作れるんだよ味変パウダー。そこに需要あるかは分からないけど……」
「うーーーん……どうなんやろなあ。面白いアイディアとは思うが、行けるんか? いやいっそ数量限定にして、ポーションとのセット販売とかなら」
錬金術の試算とかは得意だけど、商売の試算はジンの得意分野だ。
「ポーションと味変パウダーの数量限定販売。百セットは作れそうか?」
「材料さえあれば丸一日くれるならできるよ」
「よっしゃ! じゃあ、固定客作りの第一歩として、ポーションの販売からやろうや! チャンネルのリンクから専用サイトに飛べるよう、販売ページも作ってやるわ!」
「おおっっ!! 流石ジン! 頼りになる〜〜!!」
チャンネル登録者数が増えて次のステージ。僕の固定客を作るための策が本格的に決まった。
あまりにも上手くとんとん拍子に話が進んだもので、僕らは周囲の目を気にせずにはしゃいでいた。まあ、屋上使う人あんまりいないし……。
「み、つ、け、タアアアアアア!!!!」
突然屋上に響いた大声に僕らはびくりと身体を震わせる。
もしかしてはしゃぎすぎた……!?
そんなことを思いながら視線を向けるとそこには。
「朝比奈リン……さん?」
ぜーはー、ぜーはーと肩で息をしている朝比奈リンが屋上の入り口に立っていた。
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