第10話
キマイラとの戦いから一夜明けて、僕は自室で目を覚ます。
「よく寝た……。今日が休みで本当によかった」
キマイラとの戦いの後、僕は義姉さんに連絡して事情を説明。昨日は動画撮影などせずにそのままぶっ倒れるように眠った。
「やっぱあれ、体力の消耗おかしいよなあ。改善しないと」
部屋の壁にかけた短剣型魔道具を見て、僕はそう呟く。
『
僕に錬金術を教えてくれた人がくれた魔道具。これを目指そうと、僕は錬金術をたくさん勉強しているが、中々これに辿り着かない。
しかし、久しぶりに真の力を解放したけれど、本当にこれの体力消耗は頭おかしい。もう少しキマイラが耐えていたら僕がぶっ倒れるところだった。
やはり僕はこの使い手には相応しくないのか……?
「ダメだダメダメ! ネガティブな感情になったら……ってん?」
僕はベッドの脇においてあるスマホを見る。コミュ障の僕がスマホに登録している連絡先は数少ない。そんな数少ない、義姉さんとジンから大量のメッセージが届いていた。
"これ、お前さんやばいことなっとる"
"今見たけどチャンネルの伸び方えぐいで。はよみ!"
"なんやねとんのか? じゃあ起きたらちゃんとみいよ!"
"何をしたんだ? シキ"
"昨日深夜からのチャンネル登録が止まらない"
"確認した、SNSでバズったな"
"起きたら連絡くれ。話し合いたい"
どれも今日の朝に送られてきたものだ。ってん? ああもう今昼前!? どんだけ寝ていたんだ僕!!
「とりあえず二人には今起きたって連絡して、とりあえず支度して着替えないと……!!」
二人に連絡を返して、僕は朝の支度を急ぐ。その途中だ。スマホが鳴り出したのは。
『おう、随分と遅い起床やな。まあ昨日、あれ使ったからしゃーないか』
「ごめん! 今起きたところで……一体何があったの?」
電話をかけてきたのはジンだった。僕は着替えながら、僕が寝ている間に何が起きたのかジンに聞く。
『いやな。昨日の
「……それで? 僕と何の関係があるの?」
『はあ〜〜〜鈍いやつやなお前さんはほんま』
ため息つかれた。それもめちゃくちゃ長い。
『お前さんの活躍がバズったんや。まさか、屋上で話してたことが現実になるなんて思ってもいなかったわ』
「……あ」
そ、そういうことか!! 確かに途中からは僕とジンしか戦っていなかったし……、配信してた人がいるならそっちの方を撮るよなみんな……。
っていうことはまさか。
「もしかしてだけどさ……僕の悪癖映った?」
『ああそりゃあもうバッチリとな。結構な人が大盛り上がりだったで』
うぎゃああああああああ!!!!
埋まりたい!! 今すぐ穴掘って埋まりたい!!
僕も自分の悪癖については理解している。僕の悪癖は戦闘中ハイになってしまうと口が悪くなってしまう。
ジンや義姉さんは最初こそ突っ込んでくれたけど、どうしても治らないから途中から放置されていた。僕自身、こんな悪癖が広まることはないでしょうワッハッハって思ってたらまさかこんなところで……。
『ワシは好きなんやけどな、あの状態のお前さん。見ていて頼もしいしな』
「やめてくれえ……。僕はそんなんじゃないよお……」
あれがいつもの僕とは思ってほしくない。かと言ってみんなの前できょどる僕をいつも通りだとしても複雑な気分だけど……。
『ま、チャンネル登録とか伸びたらここからが勝負やで。こんなチャンス滅多にないからちゃんと物にせえよ』
「ああ……うんありがとう。取り敢えず今から義姉さんと話し合いに行ってくるよ」
『おう、じゃあまたな』
と言って僕は電話を切る。ジンと電話している間に準備もできた。僕は取り敢えずダンジョンゲートに向けて走り出す。
***
「なるほど……。私が会議に出ている間、そんなことがあったのか」
「そういうことなんだよ。今もチャンネル登録の通知止まらないし」
チャンネル登録してくれる人が多すぎて、二百人が登録しました! 三百人がいいねしました! 百人がコメントしました!
みたいな通知がどんどん流れてくる。
「私はいつかこうなるとは思っていたがな。でもまあ、こんなに早くなるとは思わなかった……。流石に問題が一つできるな」
「問題……? 一体なんの?」
義姉さんはいつかこうなるって予見していたんだ……流石だ。
しかし義姉さんがいう問題というのがどんなのか、僕には想像もできなかった。
「チャンネル内のコンテンツ不足だ。Dチューブは動画投稿や配信の頻度が高くなると表示されやすくなる。最初はのんびりやりつつ、トンデモ錬金術でバズる。その頃にはチャンネル内コンテンツはある程度充実しているのを想定したのだが……」
「トンデモ錬金術って……。でもそうか。チャンネル登録者数が爆伸びしても、チャンネル内にコンテンツが不足していたら離れちゃう人もいるもんね」
これは以前ジンが口にしていたことだ。バズったとはいえ、チャンネル内のコンテンツ不足で登録者数自体はすごく伸びるわけじゃないって。
けど今は違う。色んな配信者が僕のことを映して、挙句僕の正体を考察する人まで現れ始めた。昨日のことで一気に話題性が上がって、コンテンツ不足など気にせず、取り敢えずチャンネル登録する人がたくさん流れ込んできている。
「投稿頻度上げたり、視聴者に無理に合わせてモチベの維持や動画のクオリティ下げるのはしたくないが……、チャンネル登録してくれた人を逃すわけにはいかない……」
「配信慣れしていないから、僕自身あんまり話せないし……。というか同接一万とか超えたら流石に緊張で吐く……」
今配信すれば注目浴びて、同接とかとんでもない数になるのは、配信界隈に疎い僕でも想像できる。
そんな事態になったら僕は吐く自信がある。だってコミュ障だよ? 一万人の前で話せるわけないじゃないか……!!
「うーーーーん仕方ない。ヒナを呼ぶか」
「……あ、そういえば最近会っていないけど元気にしてるの?」
「ああ。ヒナは私と違って事務所所属の配信者だからな。高校生活との両立でヒーヒー言いながらなんとかやっているぞ。電話出た」
と義姉さんはそう言いながら電話をスピーカーフォンに切り替える。そこから聞こえてきたのは眠たげな女の子の声。
『なに〜〜お姉ちゃん……。私、深夜まで雑談配信してて眠いんだけど……』
「シキがいるぞ」
『……嘘っ!? ちょっ! 今のなし!! また掛け直す!!』
ぷつりと電話が切れる。……え? 何が起きたんだ? スピード感が異次元で脳の処理が追いつかないのだが……。
義姉さんは隣でくすくすと肩を震わせて笑っている。数分後、義姉さんの電話が震え出して、義姉さんは電話に出る。
『久しぶりお兄ちゃん! 今日はお兄ちゃんとお姉ちゃんが一緒にいるなんて珍しいこともあるね!』
「いや……ごめん。さっきのあれからはちょっと、僕の理解が追いつかない」
『あああああああ!!! やっぱり聞かれてたあああああああ!!!! お兄ちゃん、あれはなし! なしだからね!! いいよね!? ええッッ!?』
「圧が強い……それと怖い……」
電話に出て早々、異次元のスピード感で話の主導権を握った少女。
彼女の名前は白宝ヒナ。僕の……義妹だ。
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