第9話

「みんな〜〜! さっきのライブ来てくれてありがとう! 今日も元気にダンジョン配信やっていくよ〜〜!」


 私、朝比奈リンはダンジョン配信をする女子高校生だ。


 私がダンジョン配信を始めたのは一年前。女の大剣使いということで注目を浴び、みるみるうちにチャンネル登録者数は増えて、配信系事務所からのスカウトもきた。


 今は事務所の方針でアイドルに寄せつつ、ダンジョン配信をしている。歌やダンスの練習も必死にして、フリーマーケットでやった初の公開ライブは大成功だった。


 公開ライブを終えた私は数時間の休憩後、配信のためダンジョンに潜っていた。


 今日はパーティーメンバーとスケジュールが合わず、ソロでの活動。ソロでも中層なら難なく狩りを行える。流石にボスクラスの魔物は厳しいけれど……。


"団長〜〜!! 今日も可愛い〜〜!"

"こんリン!"

"さっきの公開ライブ行ってきたよ〜〜!"


"【豆乳プリン@朝比奈騎士団団員】

 ¥50,000

 今日の公開ライブお疲れ様! 超楽しかった!"


"【上杉】

 ¥620

 初スパチャです。公開ライブお疲れ様でした"



「みんな公開ライブに来てくれてありがとうね! 豆乳プリンさん〜〜赤スパいつもありがと〜〜! スパチャは家賃までだぞ!

 上杉さん、初スパチャありがとう!」


 Dカメ14Proに映し出されたコメント欄を見つつ、私はコメントを返していく。ソロで活動する時は事務所の方針でダンジョン内に幾つか点在している安全地帯セーフティーポイントで読むように義務付けられている。


「今から安全地帯セーフティーポイントを抜けますので、次の安全地帯セーフティーポイントまでコメント読めないからよろしくね!」


"了解です団長!"

"了解!"

"サーイエッサー!"

"団長のことを男だと思っている人いて草"

"大剣ブンブン振り回してるから実質男の娘"


「もうやめてよ〜〜! 私だって女の子なんだから、イエスマムって言ってよね!」


 なんて笑いながら口にして、私はダンジョンの探索を再開する。


 ちなみに視聴者から団長って呼ばれているのは、事務所の方針だ。Dチューバーとしての設定みたいなもの。


 中層に入って一時間ほど。私がゴブリンソルジャーを倒しているとだ。私が進もうとした通路から軽装の探索者が走ってくる。


「この先で大氾濫スタンピードが発生しました! 敵は中層から下層クラス! 対処に当たれる人を少しでも探しています! 協力できますか!?」


大氾濫スタンピード!? ……わかりました! 他に向かっている探索者はいますか?」


「中層から下層クラスの探索者が、この先の下層との境界線で食い止めています!」


「わかりました。私もすぐに向かいます!」


 私はそれを聞いて走り出す。大氾濫スタンピード。これを見過ごせないと思ったからだ。


 通路を抜けた先の大広間。中層と下層の境界線となっており、大広間の先は坂道になっている。その坂道から大量の魔物がわらわらと現れていた。


「前衛は交代しつつ魔物の足止め! 中衛、後衛は高威力の技で数を減らしてくれ! 中には下層クラスもいる! 油断はするなよ!」


「スパルトイ程度に負けるかよ!」

「後ろのボーンキメラの骨が鬱陶しい! 誰かやれないか!?」

「サラマンダーのブレスくるぞ! 気をつけろ!!」


 状況は混戦状態だった。前衛の数に対して、魔物の数が圧倒的に多い。中衛、後衛が広範囲の攻撃をして、ようやくトントンといったところ。


"大氾濫やばすぎ……"

"誰か行ける人いないか?"

"団長気をつけて!"


 コメント欄を視界の端で確認しつつ、私は前衛に向かう。


「【グランドバスター】!!」


 私のメインジョブ、大剣士のスキル。グランドバスターをスパルトイたちに向かって放つ。私が今取得している中でいちばんの高火力技でかつ、広範囲技。十体以上の魔物が斬り裂かれて倒れる。


「すまない……って朝比奈リン!?」

「うおおお団長が来た!!」

「俄然やる気が出てきたぞ!! よっしゃいくぞおらぁ!!」


「私も加わります! なんとかして大氾濫スタンピードを止めましょう!」


 私の姿を見て士気が上がったのか、次々と探索者たちが魔物を押し返していく。これならなんとか押し返せる! と思った時だ。


『グルギャオオオオオオ!!!』


「……っ!? スカルドラゴン!?」


 二足で立ち、四肢と翼、頭部が骨になった二メートルくらいの大きさの翼竜が私の前に立つ。スカルドラゴン……下層の魔物だ。


 スカルドラゴンはブレスを使えないが、代わりに骨を銃弾のように飛ばしてくる。小さな石ころみたいな骨がマシンガンのように私に降り注いでくる。


「……きゃ!!」


 大剣じゃ防御しきれなくて、防具を貫いて骨が全身に当たる。なんとか致命傷だけは避けられているけれど……!!


"うわあああ逃げて団長!"

"誰か助けに入れる人はいない!?"

"緊急脱出の要請出した!!"

"誰か! 誰かあああ!!"

"やばいやばいって団長オオオオオ!!!"


 ——これは後からアーカイブを見て知ったコメントだ。この時はコメントなんて見る余裕なかった。


『キルシャアアアア!!』


「……あ」


 ガキン! という音と共に私の大剣が弾かれて宙を舞う。この時、私の時間はスローモーションになっていた。


 振り下ろされようとしたスカルドラゴンの爪に対して、私はただ叫ぶことしかできない。


「キャアアアアアアア!!!」


 後、少しで爪が私を貫く。


 そう確信した時だ。彼が現れたのは。


 ローブを全身に纏い、短剣を振るう探索者。ローブから僅かに見えた顔。私はその顔に見覚えがあった。


 確か、彼は同じ学校に通ってた……名前は思い出せないけど、登校する時間帯が同じなのか学校の玄関でよく見る……。同じ学年の男の子。


 彼が短剣を振るうと炎の波が魔物たちを飲み込み消し炭にしていく。威力、範囲、攻撃までの出の速さ、その全てが私の常識では測れない。


「大丈夫ですか? お怪我とかは……!」


 それからの記憶は正直曖昧だ。


 私にローブを羽織らせてくれた男の子は、身長百九十はあるだろう男と共に戦っていた。中層、下層の相手を難なく倒していき、ついに深層の大型魔物であるキマイラへ。


 キマイラの巨躯から繰り出される激しい攻撃。それを短剣と細い身体で受け流す。


「綺麗……」


 なんで私がこう口にしたのかわからない。けれど、あんな風になりたい。そう思った。


 自分よりも強くて大きい魔物に対して、一歩も退かないどころか、今か、今かとチャンスを伺っている。小さな背中に大きな闘志を宿して、彼はキマイラ相手に勝とうとしていた。


 そんな背中を見せつけられて、私はいても立ってもいられない。私の行動が無駄かもしれない、邪魔かもしれない。


 そんな思考を全て焼き切って、私は大剣を手に闘争本能がまま走り出していた。


「退っっっっけえええええええ!!!!」


 ただ叫ぶ。大剣の剣先を地面に擦り付け、火花を散らしながら私が出せる最大の技を、ただ喉が壊れるほどの大声で叫ぶ。


「【グランド……バスタアアアアア】!!!」


 正真正銘、全てを賭けた渾身の一撃。


 私の記憶はそこで完全に途切れていた。体力を使い果たした私はそのまま気絶したからだ。


 病院のベッドで目を覚ました私は、ただ一言。空を見上げてこう呟く。


「今度、名前聞こ」


 ——これが朝比奈リンの初恋であることを知るのはもう少しだけ先の話。



————

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