第24話
「……詳しく聞かせて欲しい」
「いやな、偶々誰かの配信中に映り込んだらしくてな。ほれ、これ。やっばい動画やろ?」
それは間違いなく、僕らが見た現場を撮った動画だった。
暴露系の動画配信者が言うには突如匿名で事務所とかにこの動画が送られてきたと言っている。
相互探索者互助会は日本にあるギルドでもかなり大きい。実力はそこまでではないが、駆け出し探索者に手厚くサポートするという名目で、とにかく人数が多い。
探索者ギルドは大きくなればなるほど、企業などのスポンサーが付くようになり、一層規模感を増していく。相互探索者互助会は複数の企業から手厚い支援を受けている。
そんな相互探索者互助会が今回、こんな風に暴露された。そのダメージは計り知れなく、ホームページのサーバーとか落ちているらしい。
これを引き起こしたヒナ、ここまで事態を大きくした暴露系の配信者たちの恐ろしさを僕は体感している。
「でもそれと僕になんの関係が? 僕はもう除名された身だし……」
「除名されたからいうて、変な輩つく可能性は捨てきれんやろ。こっちは
「今のところは大丈夫。僕の見えるところにアンチはいないよ」
そうか、その可能性を失念していた。除名されたからといって僕が無関係になるわけでもないのか……。
そこまで心配してくれて動いてくれるのかジン……。流石頼りになる相棒だ。
「しかしすごいね炎上具合。こんなにいいねとかコメントつくんだ」
「現代社会の恐ろしいところっちゅわけやな。それに前々から変な陰謀論とか噂れとったしのぅ」
僕は動画のコメントとかを見てみる。
"互助会はギルドマスター交代から狂った"
"互助会は海外企業と不正な取引をしている"
"現ギルドマスターは某有名海外企業の雇われ。規模を大きくして自社の製品を売りつけようとしている"
"海外企業は互助会を通して、日本の探索者たちを支配しようとしている"
などと本当なのか、根も葉もない噂話なのか、とにかく混沌とした感じだ。
「互助会は無理難題な探索ノルマを課して、ノルマを達成した探索者のみ、装備品を受給させる。もし脱退しようものなら、噂などを流されてそいつの探索者人生を潰すっちゅーやり方やな」
「こうしてみてみるとやばいね。互助会はフリーマーケットとかの生産者市場でも大きい組織だから……」
互助会の手はとにかく広い。特にフリーマーケットとかの探索者たちが自主的に行なっているような市場では大きな発言権を持つほどだ。
変な噂を立てられようものなら、フリーマーケットに行っても肩身が狭い思いをし、パーティーにも入れてもらえず、その人の探索者人生に大きな支障をきたすだろう。
「メンタル強いやつはダンジョンゲートで装備品を整えてソロで活動するが、普通はそうやない。生活かかってようと、変な噂話とかで肩身狭い思いをすれば探索者続けにくくなるのは当たり前の話や。
そういった溜まりに溜まってたもんが今回大爆発を引き起こしてるわけやな」
「……僕に、僕にもっと大規模な錬金術をする環境があれば」
いや思い上がりか……。
でも、僕が魔道具やポーションを大量生産できるような環境が整っていたら、そういった人たちに無料とはいかなくても格安でそれらを提供できたのに……って思う。
「やめや。お前さんが手の届かんところを見てもしゃーない。ただお前さんにはやることがあって、それがいつか誰かのためになる……そう考えんと、いらん責任感に潰されるで」
「そうだね……。ありがとうジン。取り敢えずは大丈夫。けど、これがどうなるか……」
一つ不安があるとすれば、今のギルドマスター業田はかなりの野心家で傲慢な性格だ。この一件で責任を負わされたとして……何か自暴自棄になってやりかねないか不安だ。
でもまあそんな不安をしていても、僕が何かできるわけでもない。僕は取り敢えずやるべきこと、動画やグッズの製作、後配信に慣れることを着実にこなしていこう。
「ってやっば!! もう一分で昼休み終わりだよ!?」
「話しすぎた!! 急ぐで!!」
まあ今やるべきことはちゃんと授業受けること!
高校生も錬金術も頑張ってやらないとね!!
***
「なんでや!! なんで契約中止なんや!! お前らが言い出したことやろ!!」
ここは都会のオフィス。そこで業田の怒声が響く。電話を向こう側の人物は業田にこう告げる。
『クソ無能が。誰に口を聞いてやがる。前ギルドマスター引き摺り下ろして、お前が今の地位を手に入れられたのは誰のおかげだ?』
「黙れや!! それとこれとは関係ないやろ!! わしが聞きたいんは、なんで契約破棄なんやっちゅーことや!!」
『はん、お前も分かってるだろう? ネットの評判見てみやがれ。必要ないリスク踏みやがって。人払いは済ませておけってあんなに警告したのなあ!? アァ!?』
電話の向こう側の声に、業田はびくりと身体を震わせる。業田の机の上。そこに置いてあるモニターには、相互探索者互助会の炎上に関しての記事が映し出されていた。
『俺たちがそこに目をつけたのは、日本のギルドにしちゃでっかくて、搾取するのにはちょうど良かったからだ。お前に命じたことはただ一つ。じわじわと下位のメンバーから搾取しろだ。あんな風に目立つようにしろとは誰も命令していない』
「や、やり方は任せるって言ったんはそっちやろ!? わ、わしはこの組織の生ぬるいやり方を変えて、競争させる構図を作った!! のしあがったやつが他者を見下し、見下された他者は不平不満を押し殺して、のしあがるためにギルドに貢献する! この構図の何があかんかったんや!?」
相互探索者互助会の今の運営方針。それは貢献度という独自の評価システムに基づいた運営だ。
貢献度に応じてメンバーのランクが決められており、貢献度が高くなると装備品や道具を優先的に回されたり、格安でそれらを仕入れることやパーティーへの優先的な加入など様々なメリットが与えられる。
貢献度が低いと装備品や道具は回ってこず、ギルド内のパーティーにも入ることはできない。
この構図は入った後に探索者たちに知らされ、口外は禁止されている。互助会は表向き、互いに助け合う関係性を謳いながら、その実は上位陣による搾取というブラック企業的な運営をしていたのだ。
無論、抜けること、口外することは許されない。もしそんなことが発覚すれば、根も葉もない噂、時としては暴力行為をちらつかせて脅迫。探索者人生を潰されることになる。
それを知っているからこそ入ってしまったメンバーはのしあがるために貢献度を稼ごうとする。
結果のしあがったメンバーは、搾取する側、人を見下す側の快感に溺れ、下位のメンバーをさらに煽るという負の構図が生まれてしまった。
『やり方が下品と言っているんだ無能。搾取とはバレないように少しずつ少しずつ快楽を与えながらじっくりとしていくことに意味がある。不平不満を募らせて、いざという時に暴発させているようじゃやり方はど三流だなクソ無能』
「だ、黙れや!! だったらお前らがやれやそんなん!! お前らが指示出してやればええ話やったやろ!? なんでワシに任せた!?」
『俺たちにそこまでする必要性はない。俺たちにとっては日本という黄金の山を採掘するための一手段。俺にとっては姫を手に入れるための一手段に過ぎない』
この時、業田は立場の違いを思い知らされる。
電話の向こう側。その声の主は業田が互助会を売ろうとしていた海外企業の関係者。いや、正しくいうと海外企業グループだ。
資本力も立場も組織力も、何もかもが遠く、足元に及ばない。炎上の一つや二つじゃびくともしないのが電話の向こう側。
『そもそもこの話はお前の提案だ。俺たちはそれに乗っただけ。そして、お前がしくじったから俺たちはお前を切り捨てた。
お前の代わりはいくらでもいる。このプランは数多あるサブプランのほんの一つだ。盆栽と同じだよ。お前たちは見栄えが悪いから、変に成長し過ぎたから切り捨てられる。ただそれだけさ』
ただ、ただ、簡単に突きつけられる真実。単純すぎるからこそ、業田はそれに反論できずにいる。
『話はこれで終わりだ。ああそうそう。互助会に出資してくれている日本企業。そのいくつかはうちの傘下だ。奴らにはこう伝えてある。やるなら徹底的に枝を切り落とせと』
その言葉を最後にぷつりと電話が切れる。業田が慌ててかけ直そうとしてももうそれは後の祭り。
『おかけになった電話番号は現在使われておりません』
「ふっ……ふざけんなや……!! ワシを切り捨てる……!? たったこれだけのことでか!?」
業田は電話を投げる。次の瞬間ドタドタと廊下を走る音が聞こえて、部屋の扉が勢いよく開かれる。
「ご、業田さん大変です! 複数企業から業田を出せっていう電話が止まらなくて……!!」
「さらに俺たちまで……なあ業田さん! あんたについていけばいいんじゃなかったのかよぉ!? どうなってんだこれぇ!!」
「静かにせえや!! くっ……くそっ!! なんでこうなった!? なんでこうなったんや……!?」
業田は頭を抱えてそう口にした後、何かを思いついたかのように顔を上げる。
「そうや……これは全部探索者どもが悪いんや。こうなったのは全部ダンジョン配信者とかいうふざけた奴らのせい……。そいつらを台無しにしてしまえば……!!」
業田は今回の炎上。その発端が配信者の配信に運悪く映ってしまったことであると思い出す。
それを思い出した業田は一人で変な笑い声をあげる。
「そうや! そうや!! これは全部配信者が悪い!! ワシはなんも悪くない!! そうなんや……ワシが配信者どもを叩き潰せば……!! 同じや、同じことをしてやる! 奴らの配信を台無しにしてやる!! おいお前ら!! わしの命令や。今すぐに配信者のイベントについて情報探ってこいや!!」
「な、なんでだよ業田さん……何をするっていうんだよ…….?」
「なあ、俺たちはどうなってしまうんだ? 俺たちの顔も名前も全部晒しあげくらっててよ……どうすりゃあいいんだよ?」
不安に声を震わせる部下たちに対して、業田はこう口にする。
「安心せえや任せえ。ワシがこの状況からでもひっくり返せること証明してやる」
「ご、業田さん……!! あんたならそういうと思ってました!! ついていきやす!!」
「何でもやります!!!! 俺たちは業田さんにいっぱいいい思いさせてもらいましたから!!」
業田に依存していた直近たちは、業田と同じ短絡的な思考回路であった。業田が一言頼もしいことを言えば、彼らはコロリと不安や恐怖を忘れ去ってしまう。
彼らの行動がある事件を引き起こし、その結果日本中どころか、世界に響き渡るようなビッグニュースを生み出すこと。それを知る者は今は誰もいない。
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