第31話

 ダンジョンを貫く一筋の光。賢者の石を弾頭にし、ライトニングブレス、賢者の石の魔力をありったけ注ぎ込まれた攻撃。


 現状、僕が使える最大級の一撃であり、ベヒーモスを倒し切る唯一の手段だ。


 ベヒーモスの胸部。そこにある核へ向けてそれは突き進み、光速を突破した弾頭は余波でダンジョンを破壊していく。


『GAaaaaaaaaa!!!!』


 次の瞬間、ベヒーモスの胸部が青い水晶に覆われていく。一つ、二つ、三つ、四つ、五つ……それは高速で層を重ねていき、瞬く間に千層を超える分厚い水晶の膜を作り上げた。


 大型の魔物は時として防御膜を張ることがある。しかし、普段は一層か二層程度。十層、百層を超える防御膜を張るのは深層クラスの魔物だけだ。


 普通なら突破は困難どころか不可能な防御膜。しかし、それも計算済みだ。


「ぶちぬけえええええ!!!!」


 弾頭が水晶を溶かしていく。千層に折り重なった水晶の膜は瞬く間に溶けていき、弾頭はベヒーモスの核めがけて一直線に突き進む。


 そして、弾頭はベヒーモスの核を貫き破壊する。


『Gu……Ooo………』


 核を失ったベヒーモスは力無くぐったりと倒れる。


 その瞳にもう生気は残っていない。


"え……マジ?"

"倒したのか……?"

"おいお前ら! フラグは絶対に立てるなよ!?"


 コメント欄が盛り上がる中、石碑が解析結果を報告する。


『確認。異常成長個体ライトニングベヒーモス。解析の結果、生命活動を完全停止しました。お疲れ様でした』


 石碑がそう告げた瞬間、周囲がドッと盛り上がりを見せる。


「ウオオオオオオオオオ!! マジかマジかよ!!」

「マジで倒しやがった!! すげえぞあいつ!」

「英雄だ! 英雄の誕生だ!!」


"こいつぁ、ギルマスに報告だ! 日本の勢力図が動くぞ!(英語)"

"とんでもねえバケモノが日本にいやがった!!(イタリア語)

"やりやがった! あいつマジでやりやがった!! やりやがったぞ!!!(ドイツ語)


「おいシキ!!」


 歓声を上げる人々の中、ジンが誰よりも早く僕のところに駆け寄ってくる。


 ジンは興奮のあまり飛び上がり、手のひらを出す。僕もその興奮に当てられて、ジンの顔を見ながら衝動のまま、その手を叩く。


「お兄ちゃあああああああん!!!! お兄ちゃんならやると思っでだよおおおおお!!!」


「ちょっとヒナちゃん!? 声声!! 後表情すごいことになってるよ!?」


「ふふっ賑やかねとても」


 ヒナ、朝比奈リンさん、そして村正カエデ。それぞれがそれぞれの反応を見せながら、僕に寄ってくる。


「まずはこのライブのスポンサーとして、あなたたち二人に感謝を」


「そ、そんな! 僕はできることをやっただけです!! 貴女みたいな社長さんが頭を下げるようなことでは……」


「まあそういうことらしいですわ。ワシは元々、あまり活躍しとらんからな」


 僕らの反応を予想していなかったのか、村正カエデは目を点にしていた。そしてその後、くすりと笑い始めて。


「あんなとんでもないことをやってのけたのに、謙虚なのか無自覚なのか分からないわね。

 では貴方たちに一つ頼み事を。まで周囲の警戒をしてもらってよろしいかしら?」


 ……もしかして、こんなことが起きたのにまだライブを続けるつもりなのか!?


「え!? 今からライブ再開するの!?」


「あんな戦いの後でそれに瓦礫とかも沢山あるのに……」


「何を言っているのかしら? 二人とも。アイドルの自覚が足りていないわね。同接も過去最高。通常のライブでは味わえない新感覚。それに運良くも最強の護衛がいるのよ。このチャンスを逃すわけにはいかないわ」


 やべえ、この人、めっっっっちゃ圧が強い。


 というか、スイーツを前にした義姉さんやヒナ並みに圧が強すぎる。ヒナが圧倒されているの初めて見た。


「まあ一理あるよね! うん! 非日常感を楽しむ、提供する! それが私たちDチューバーだよね!」


「え……だんちょーもそっち側? ああもう! わかった! わかったよ!! やるよ!」


「では再開の準備を。二人も協力頼めるかしら?」


 村正カエデの一声で多くの人々がテキパキと動いていく。マジで再開するんだ……あとそれと。


「貴女ってそんな口調でした?」


「あ、つい……。戦いの余韻が忘れられないと口調が崩れるわね。これでどうでしょうか?」


 ツンと強い口調と声から、さっきまでの柔らかい口調と声に早変わりする。す、すげえ〜〜こんな風に口調とかを変えられるんだ人間。


「ではテキパキと動いてください。時間は有限ですよ」


"ライブ再開マ?? 全裸待機!"

"おいおい、これはやべえぞ! マジで続けるのか!"


"なんてこった!! 魔物の襲撃があっても日本人はまだライブをやるのか!?(イタリア語)"


"Oh……クレイジージャパ〜〜ン! なんてエンタメに振り切った国なんだ(英語)"


"おおこれは、すぐにスパチャを投げないといけない!! これが日本のオタ活か!!(ドイツ語)"


 コメント欄は困惑しつつも、続けることに賛成的だ。それは会場の人たちもおなじで。


「よっしゃ!! 戦いに参加できなかった野郎ども! 準備の手伝いじゃ!!」


「ここでただ見てるだけは漢が廃る! 推しのためにキビキビ働くぞ!!」


「ウオオオオオオオオオッッッッ!! 筋肉が踊る! 骨が軋む! 血が騒ぐ!! やるぞ!! 俺はやるぞブルワアアアアアア!!!」


 と言った具合にノリノリでライブ再開のため、準備を手伝う。


 こうして、観客もスタッフも、主役であるリンやヒナ、そして僕たち。それぞれを巻き込んだイレギュラーなライブは同接人数二百万人を超えて、大成功で幕を閉じるのであった。




 

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