第30話

"防いだあああああああ!!?"

"間一髪!!! ギリギリっ!!"

"グゥレイトォ!! 視野が広い!(英語)"

"あれを止められるなんてすごい才能だ!!(フランス語)"


 ヒナの迎撃にコメント欄が沸く。ヒナはそんなコメント欄に目もくれず、再びベヒーモスへと視線を向け直す。


「ヒナ」

 

 そんなヒナに対して、シキが話しかける。瞳に僅かな生気を戻しながら。


「僕の道を開けろ」


「……オッケー」


 次の瞬間、ヒナの全身が赤色のオーラに包まれる。獣のような獰猛な瞳を輝かせて、ヒナは腰を落として、重心を低く、獲物へ飛びつく肉食獣のような構えを取る。


「久しぶりに全力で……ぶっこむよ!!」


 ヒナが走り出す。それは弾丸のように。ダンジョンを駆け抜ける。


 常人では目で追いきれないほどの速度。中層クラスの中で比較的実力者である朝比奈リンは辛うじて見ることができたが、それ以外の人にはヒナの姿を捉えることはできない。


 ただ、最前線で戦っている二人は下層、深層クラスの探索者。ヒナの意図を瞬時に察して、行動に出る。


「おいおいマジか。拘束間に合うか!?」


「一瞬でも動きを止めればお釣りが来るでしょう!」


 ジンと村正カエデはそれぞれ自分の使える拘束技をベヒーモスの両腕に放ち、両腕を拘束する。


 ヒナのことを察知したベヒーモスが防御姿勢に入ろうとするが、両腕を拘束されているせいで一瞬判断や行動が遅れた。


 その一瞬はヒナにとっては十分すぎる時間。ベヒーモスとの距離十メートルになったところで、ヒナはもう一度地面を強く蹴って加速。


 刹那、ダンジョンの床が崩落しそうな勢いで破壊され、ヒナが通った道が直線上に砂塵と瓦礫を巻き上げて壊れていく。


 ヒナがこれから使う技は至極単純。それ故にその破壊力は絶大。


「【ギガインパクトォォオオオオオ!!!!】」


 この時、一部の人は見ることができただろう。


 ヒナの全身がダイヤモンドの鎧に包まれていることに。


 ギガインパクト。戦士のスキルツリーの最奥にある技。その効果は自分の重量と速度、防御力を自分の攻撃に上乗せできる。


 ヒナは武装創造で、全身をダイヤモンドの鎧で覆い、加速系スキル、防御系スキルをいくつも重ねがけしてさらに威力を上げている。


 つまりこの技は、硬くて重たい物が超高速で突っ込んでくるという疑問の余地すら湧かないほどの、単純明快な高威力技だ。


『GoAaaaaaaaaa!!!?』


 ベヒーモスがダメージのあまり悲鳴を上げる。ベヒーモスの胴体を文字通り一直線に貫いた彼女は背後にいる兄へ向けて叫ぶ。


「今だよお兄ちゃん!!」



***



 ヒナの一撃で僕の演算のピース。その全てが完全に埋まる。


「構築完了。顕現開始」


『認証。魔道具の顕現を開始します』


 ダンジョンが蠢き、形を変える。ダンジョンの壁面が、床が僕の背後で巨大な砲台と化していた。


「列車砲みたいなの作ってるぞ!!」

「あれならあのベヒーモスを倒せるんじゃないか!?」

「というか、あんなの一瞬で作るのかよ!!」


 砲身は百メートル前後だから、本物の列車砲には遠く及ばないけど、地下型のダンジョンでは規格外の大きさを誇っている。


「みんな、僕の直線上から離れて! それと耳を塞いで口を開けて!! 舌を噛まないようにね!!」


 ベヒーモスは下層から表層までいくつものの階層をぶち抜いて今ここにいる。胸から下は下の階層に埋まっていて見えない。


 ベヒーモスを確実に倒すには胴体にある核を破壊しなくてはならないか……!!


「構築変更!! 射線確保!!」


『認証。ダンジョンの一部構築を変更し、ベヒーモスの核への射線確保』


 ダンジョンの床が形を変える。ダンジョンの床に穴が開き、胴体の核へ一直線の道ができあがった。


「賢者の石装填! 魔力充填! 動力炉の賢者の石が焼き切れるくらいぶん回せっ!!」


『認証。動力炉の出力二百パーセントで稼働。賢者の石の装填完了』


"イキりシキさんきたあああああああ!!!"

"やべえワードしか出てきていない定期"

"もしかしなくても賢者の石複数個使い捨てにしようとしてる!?"

"クレイジー……。あれだけで一体どれだけの費用がかかるんだ(英語)"

"賢者の石を使い捨てにするだと!? とんでもない発想だ!! ジャパニーズはイカれているのか!?(英語)"

"これがジャパニーズテクノロジー!! さすが変態国家ニッポン! 発想が斜め上だ!!(ドイツ語)"


「コメント欄見えているからね!?」


 まあでもコメント欄の言う通り、イカれているのも狂っているのも百も承知。切り札を使ったからには、これくらいのことをしなくちゃね!!


『GuOoooooo!!!!』


 ベヒーモスも僕が今からやろうとしていることに気がついたのか、咆哮を上げてライトニングブレスを放つ。


 そうだそれでいい。これで必要な動力は全部揃った!!


「八咫鏡複数展開! ブレス誘導!!」


 背中の石碑から幾つかの結晶が射出される。それは先ほど、ブレスを反射した八咫鏡になって、ライトニングブレスを砲身の中へ誘導する。


 あのベヒーモスが放つライトニングブレスはとんでもない威力だ。それだけの魔力が込められているということは、うまく使えば動力に変換できる。


 これがさっきは無傷だったけど今は違う。特殊な砲身、賢者の石による魔力、そして賢者の石そのものを弾頭にした一撃。耐えられるものなら耐えてみろ!


 この魔道具に名前をつけるとするなら。


「【雷轟よ、全能に挑めブラフマーストラ・ヴァジュラ】!!!」


 

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